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蒸気と錬金

2021年2月に出た、寡作の小説家として知られる花田一三六氏の、久しぶりの刊行物。「アヴァロン」という架空の島を舞台にしたファンタジー旅行記です。

旅行はおろか、不要不急の外出をしないようにと言われているこのご時勢の中で、旅行記を読むことの楽しさを感じました。タイトル通り、蒸気と錬金と言う近時代のイギリス、そしてそこから行ける島アヴァロンという設定で作られたファンタジーの世界観の面白さ、次々と降りかかる災難をなんとかくぐり抜けていく主人公。彼と、彼を主人として登録された<幻燈種>のポーシャの、主人を主人とも思わない毒舌にほんろうされるやりとりも面白く、展開のドキドキ感と旅先の旅情とを満喫しました。

家の中でおこもりな日常が当たり前になってしまっていて、何か旅行記が読みたい、ファンタジー小説も読みたい、という希望を叶えてくれる素敵な小説でした。

登場する主人公は売れない三文作家という設定なんですが、それをこんなに面白く描ける花田一三六氏の筆力は、絶対に三文作家では無い! 刊行と刊行のあいだにかなり年数が恐ろしく経ってしまうくせのある作家さんではありますが、その代り発行された作品は良作ぞろいです。

この「蒸気と錬金」も良いですが、花田氏の過去作品にも、もっとスポットが当たってもいいよね、と思うのでした。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりドボクマンJr.さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。



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