見出し画像

現代の錬金術について

これは、ある土木作業員さんのお話。

万物は流転する。建設現場も日々更新されていく。造ったぶんだけ発生する産業廃棄物。現場内のゴミ捨て場は、その象徴と言っていい。そんなゴミ捨て場を早朝、うろつく男がいる。

千葉県出身の50代前半、痩せ型。イラクに派兵された隊長と同じような口ヒゲがチャームポイントだ。彼は毎朝、現場に着くとゴミ箱をのぞき込んで「良い物」がないか確認を怠らない。

ユンボに踏みつぶされた照明や設計ミスで使えなくなったアルミサッシ。昨日で辞めた若者の腰道具など。ゴミを見れば、そこから伝わってくる何かがある。

彼にはゴミ漁りのほかに、砂金採りという趣味があった。現場外でも、泥と格闘しているのだ。一度、採取した砂金の粒を披露してもらったことがある。鼻くそ大の金が、ご丁寧にも関東の某河川名がラベルされた小瓶に収められていた。

「朝から夕方まで、水中の石をどかしてやっと見つかるかどうかだよ」と彼は言うが、現場ではもっと簡単に金(カネ)が手に入る。土中に投棄された鉄屑や切断したH鋼を片付けがてら売りに行くのだ。つまり、鉄を現金化するということ。

せいぜい2万円いかないくらいだが、休憩時のジュース代にはなる。休日に川底をすくった砂金と半日で集まった鉄屑。缶コーヒーを片手に一服するヒゲの隊長は、この対比に何を思うのか。いや、おそらく何も考えていなかったようだ。

なぜなら、リサイクル業者に持ち込むのは彼の仕事だからだ。現場周辺で、できるだけ高く買取る業者を既にリサーチ済み。スクラップを満載させたダンプを嬉々として運転する彼の顔を私は忘れることができない。

追伸、

過程とか結果、理屈をすっ飛ばした思考との出会いに心を躍らせている自分がいます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?