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インタビュー調査におけるインタビュアーの役割~「発言促進」④=「振り分け」

「振り分け」とは発言内容や発言者が偏ることで取れる情報量が少なくなることを防ぎ情報量を増やす為に行うものです。「振り分け」には「コトの振り分け」と「人の振り分け」があります。

1、コトの振り分け

ALIの基本的な考え方は「調査対象の生活領域に関する自由で自発的な発言」を傾聴することにあります。従って、発言の内容が垣根の中のある部分に偏ったとしてもそれ自体は問題と捉えるべきではないと考えます。なぜならばその現象は対象者の興味関心や意識ウエイト、あるいは経験値や葛藤レベルが高いことに話題が集中しているということだからです。そこで自由に話をしてもらっていれば、彼らの興味関心の高いことが自然と拡げられ、掘り下げられていくということになるからです。

例えばある属性の人達に「食生活」の話をしてもらった際に「調理」に話題が集中し、「献立」や「後片付け」や「食事中」の話題が出てこなかった場合、その人達の興味関心はもっぱら調理にあるということです。それが故に調理に関する話が拡がり掘り下げられていくことになります。「調理」という領域の中で、洗う、切る、煮る、焼く、蒸す、燻す、漬ける、和える・・・などのように話題が拡がり、それぞれが深められていくわけです。

しかし、話を聞いているうちに同じ話題が繰り返されるようになったとしたら、あるいは沈黙が多くなってきたのだとしたら、もしくは脱線しがちなのだとしたら、それはすでにその話題では話すことが尽きてきた兆候です。しかし対象者の意識はその話題に向いたままであるということです。

コトの振り分けはそのようなタイミングを読んで行われるべきです。インタビューフローが事前に十分に検討されており、話して欲しい話題が対象者に理解されていると判断される限り、調査する側が予想していた話や話して欲しい話が出なかったからと言って早まってはいけません。それは対象者の生活把握を歪めることになります。上記の例では「食生活」とはその人たちにとってはもっぱら「調理」であるということです。それを歪めてしまうことになるわけです。

その方法の基本ですが、話されていた話題について多くの発言をしてくれたことへの謝意を示しつつ、改めて垣根の範囲を説明し「他には話題はありませんか?」と意識をその垣根の中の他の話題に向けさせるということを行ないます。但し、具体的な他の話題を提示、例示することは避けるようにします。つまりは「予想していた話」や「話して欲しい話」に振ってはならないということです。

※そのようなことを行うのは後述する「適宜確認」の機能となります。この場合はコトの振り分けをしながら何種類かの話題が一巡した時点での「○○の話は出ていませんが、特に話すことはないということなのでしょうか?」というような最終的な確認となります。そこで「そんなことはない」という反応の有無を観るわけです。無ければばそれ以上は突っ込まないし、あれば追加で聴取するようにします。しかしその話題は自発的に出たものでは無かったということを分析の場では識別、配慮する必要があります。

なぜならばその提示、例示は対象者が話されていたことの次に興味関心の高いことに自然かつ自発的に意識を向けることを阻害して、発言内容にバイアスをかける行為だからです。場合によってはそれによってS/C領域に踏み込みアスキングと同じ悪影響を発生させます。生活では無意識であることを話題として強制するからです。

※あくまでも自由で自発的な発言を聴取するという原則を維持した場合にのみ初めて「何が話されなかったのか?」という分析が可能になります。つまりは、調査主体側が意識していたことが調査対象側には意識されていなかったということがわかることになります。これによって、企業側の独りよがりの思い込みによる的外れなマーケティング活動を防ぐ場合があります。

もう一つの基本的な方法は、我々が「TPOH表」や「オケージョンリスト」などとと呼ぶ垣根の中の話題のヒントリストを提示することです。下図はある商品ジャンルの利用や購買の実態を把握する調査で実際に使われたものです。

ヒントリストとして提示しつつ、その中で話す話題は対象者の自由で自発的な選択に委ねることで上述の「バイアス」や「S/C」問題をある程度回避することができます。

インタビュアーはこのようなリストを提示しつつ、「このリストをヒントにして(垣根内の)先程とは異なる他の話題が話せるなら話して欲しい」と依頼するのです。

TPOH表

ここで重要なのは、「話せることが無ければ無理に話さず、ホンネで、『話すことが無い』と言って欲しい、その方が有り難い」とも伝えることです。それも上述のバイアスとS/C問題を回避する安全弁です。また、ここで「話すことは無い」と言ってくれることは、そのヒントが示唆する方向には興味関心も経験も無いということをかなり強力に裏付けることになるからです。

2、人の振り分け

これはグループインタビュー特有の課題、技術です。

グループインタビューで指摘される代表的な問題の一つに、「声の大きな人が話を独占すること」があります。「人の振り分け」を論じるにあたっては、この問題を定義しておく必要があります。

声の大きな人が話を独占することの問題は突き詰めるところ、ひとえにその人のモノの見方、考え方しか聴取できず、他の見方や考え方が把握できないことにあります。つまり、「情報の種類」が減ってしまうという懸念です。一方、その人が他の人たちの様々なモノの見方、考え方を多様に代弁、代表しているのだとしたら、この人の発言の時間が長いことは何ら問題ではないわけです。

これは、グループインタビューの出席者を一つの集団とみればその中にはリーダーとなる人(情報を発信するタイプの人)とフォロワーとなる人(もっぱら聞き役に回るタイプの人)が発生し、それぞれの発言時間は異なって当然だということでもあります。そして、「グループダイナミクス」とは正にその集団の中での力学関係であるわけです。

人の振り分けについてはその点を考慮する必要があります。すなわち、振り分けの目的と判断基準は「発言時間の平準化」ではなく、「話題と見方の多様化」であるべきだということです。

一問一答のアスキングインタビューでは、そもそもが誰かの発言に偏ることは防がれているわけですが、故に、声の大きな誰かが長話を始めた場合を問題と捉えるわけです。これが問題になるのは各人に対して一問一答を行う中で、各人の回答時間にバラツキが生じることが問題だという発想からです。非常に「アンケート」(構成された質問紙調査)的な発想ですがインタビューはアンケートではありません。また、この人が長口舌を振るった後に続く人が「私もそう思います」と答えることを「声の大きな人によるバイアス」であると捉えるからでもあります。しかしその現象の原因が、長口舌が多様な話題に触れたからなのか、それとも、反論が困難なタテマエ的な自説を振りかざしたからなのかについてはあまり論じられている例を知りません。後者なら確かに問題ですが、前者ならばむしろ歓迎するべきことではないでしょうか。しかし「全員の話し合い」というグループインタビューのタテマエと、実のところそれを阻害している「一問一答のアスキング」という実態の矛盾の中で、ただ、誰かの発言が長時間に及ぶことを問題だと捉えているように私には思われてならないわけです。つまりは、そもそも原理的に「話し合い」にはならない 「一問一答のアスキング」において、グルインの「全員の話し合い」であるというタテマエを守るためだけに、特定個人の長口舌を問題だと捉えているのではないのか、ということです。

前置きが長くなりましたが、「人の振り分け」を行わなければならない状況の根本にはコトの振り分け同様に「それ以上話題が拡がらない」という要因があるということです。それにはいくつかの場合が考えられますが、

①一人が色々な話題を語ってくれたがそれが一巡し重複するようになってきている状態。
②一人が長時間話しているが内容が冗長で広がっていない場合。
③一人が長時間多様に話していることに他の出席者は同意しているのだが、黙っている方が楽なのでその発言者に依存してしまっている状態。この状態では「同意」と共に提示される他の出席者の多様な体験の例示が行われにくくなっており多方面から理解することが難しくなる場合があります。
④一人が長時間話している内容がタテマエであったり、他の出席者のホンネとは合わないものであるが、その人の声が大きいこと、態度が強いことなどから反論がされにくい状態になっている場合。

などが考えられます。

人の振り分けの基本、常套句は、その発言者に謝意を示しつつ「皆さんのお話をお聴きしたいので他の方はいかがでしょうか?」と他の出席者に視線を送ることです。

長口舌であっても基本的に話してくれること自体は情報を増やし、他の人の発言の呼び水ともなることですから歓迎するべきことなのです。故にその発言者の意欲は下げてはなりません。その為には「ありがとうございます。よくわかりました。」というフレーズもよくつかわれます。このフレーズは実は婉曲にその話以外の話題、その人以外の発言者に切り替えたいことを示しているわけです。

「今の〇〇さんのお話について他の方はいかがでしょうか?」という振り分け方もよく行います。これは、同意であれ、反対であれ、他の出席者の発言をより積極的に引き出そうとするものです。

タテマエ的な話であったりして反論しづらいのではないかと思われる場合は「今のお話に対して『私は違う』というお話はないですか?できるだけ色々な見方のお話をお聴きしたいので」というフレーズも使います。ここで最初の「話し合いのルール」が効いてくるわけですが、ここでのルールはできるだけ色々な話を出すことですから、このように言えるわけです。

その長時間の発言者があまりにも強い態度である場合にはその「反論」も非常に出にくいわけですが、その場合には「別のグループでは今のお話と全く反対のお話も出ていたのですが、〇〇さん以外の皆さんについてはいかがでしょうか?」と反論の有無を確認することがあります。これは、「他のグループ」(実は架空のこともある)の人達をある意味「後ろ盾」にしてその人の態度の強さに対抗してもらおうという意図があります。

長時間発言する人の場合とは逆に、あまり話さない人があらわれる場合があります。この場合には「皆さんのお話を聴きたいので」とか「違った意見もお聞きしたいので」という理由のもと、「まだ発言されていない方もお話をお願いします」という振り分け方をします。これを何度か繰り返せば大抵の場合は発言をしてくれます。それでも話さない場合に限っては「〇〇さんはまだ発言されていないようですがいかがですか?」と指名をする場合もあります。これはかなり強力な手段ですが一度指名したことによって、その後指名しないと、この人も他の出席者もそれに甘え話さなくなる懸念もあります。そのため、この人が話したあとには再度「全員で話し合って欲しい」ということを伝えるのがベターだと思います。

しかし、「話さない」という問題も、その話題に対しての意識が低い場合や、他の人がその人の気持ちや体験を代弁しているので話し合いには参加しているのだけれども、それに依存している場合など、原因は様々です。後者の場合には態度や動作で発言はしていないけれども話し合いに参加していることが確認できるのなら問題とは言えません。前者の場合には「話せないことは話せないと言って欲しい」というルールが効いてくるわけです。特に指名する場合には「話せないなら話せないと言って欲しい」ということを明確にして指名するべきです。

最悪の非常手段ではありますが、インタビュアーは長口舌の出席者を退席させることもできますし、「○○さんからはお話は十分にお聴きできたので、他の方にお話を譲ってもらえますか?」とかなり強力にコントロールすることもあります。しかし逆に言うとそこまでのことができるわけですから、長口舌の出席者を恐れる必要もないわけです。


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