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「イノベーション統一理論」①~初めに

実務が忙しかったためにちょっと間が空いてしまい何を書いていたのか忘れてしまったところもありますが、要は「企業側には潜在している意識マトリクスの『生活者の生活領域』(C/S領域)にこそイノベーション(S/S領域)のヒント、潜在ニーズ洞察のヒントがある」ということではなかったかと思います。そして『ブルーオーシャン』とはこのS/S領域における『イノベーション』によってうまれる新市場に他ならないということです。これは、企業側、生活者側双方に意識が顕在化しているC/C領域を対象とする『マーケティング』とは別物であり、故にそのための論理も別物であると主張しました。この連載のテーマで端的に言うと、マーケティングはアスキングでもサポートできるが、イノベーションはアスキングではサポートできないということになります※。

※しかし「なぜ定性調査を行うのか?」という状況と目的を考えると、そもそもがC/S領域を探索しようとすることに他ならないということも説明済みでした。つまり、調査主体(企業側)に『イノベーション』が意識されていなくてもマーケティング状況の行き詰まりから何らかの新機軸を求めようとするときに定性調査は行われるわけで、その時に取ろうとしているアクションは正に『イノベーション』に他ならないということが潜在しているということです。これはイノベーションという言葉への誤解によるものですが、例えば「新機軸」=「サブカテゴリ―の開発・登場」によって起きる日々の生活の中での小さな進歩、変化もイノベーションと考えることでスッキリと整理できるかと思われます。何が言いたいかというと、インタビュー、定性調査というのはやはりすべからくアスキングではなくリスニングで行われるべきだということです。

私が気づいているのはその他にも、リサーチ分析の論理や観点が異なるといったこともあります。これは追い追いご紹介していきます。

さて、このように考えますと度々紹介しております私の二人の師匠、油谷遵先生と梅澤伸嘉先生が取り組まれてきたことは正に『イノベーション』であったかと言えます。これも大きな盲点であったのですが、ご本人たちですら自分たちがやっていることが「マーケティング」だと思われていたことは間違いがありません。「高度成長は終わった」と言われた1970年代以降の日本のマーケティングとはすなわち新カテゴリー商品と新市場の創造というイノベーションを伴うものであったからです。その証拠にマーケティング協会のマーケティングの定義には「市場創造」が明記されていました。しかし、「イノベーション」という言葉が「産業革命のような大きな技術的変革」だととらえられていたために、あるいは、イノベーションの後に必然的にやってくるマーケティングの業務の種類やボリュームの多さのために、やってる当人たちですらそれを「イノベーション」だとは呼ばなかったのだろうということです。

そしてその次の時代に「選択と集中」という言葉を誤解、誤用、あるいは意図的に曲解し「既存市場・既存事業」への「選択と集中」(すなわち、過去を向いた選択と集中)をつづけた結果、日本ではイノベーションが起きなくなっているという説明もしました。これによって、我々がやってきた「イノベーションの技法」についてはもはや伝統芸能のように後継者への伝承が難しくなってきているというのが悲しむべき実態です。

一方、この数年で海外から輸入されたイノベーションの理論が注目されるようになってきています。代表的なものがクリステンセンの「ジョブ理論」とキム=モボルニュの「ブルー・オーシャン理論」です。知名度では目下圧倒的にこれらの方が油谷、梅澤よりも上位です。

それでは、これらの輸入理論と昭和の時代から日本に存在した理論にはどんな違いがあるのか、あるいは共通点があるのか、といった点が私の興味関心ごととなりました。単純にはどちらが優れているのか、ということでもあり、また、お互いのナレッジ、経験、あるいはメソッドが共用化や応用できないかということにもなります。あるいはその「使い分け」という問題もあります。

というわけでそれらの理論についての検討がようやく終わったのでまずはそのまとめを提示しておきますと、これら4理論の間の関係は以下のようになりました。

これらについて説明します。
①これら4理論は日本の実務者が現場で開発してきたものと、欧米の学者がアカデミアの立場で論じてきたものとに分けられる。
②イノベーションへの主たる観点で分類すると、商品の構成要素とその組み合わせによって生まれる新たな価値や商品選択の理由に着眼した「商品価値観点」のものと、未充足の生活ニーズの充足による生活の変化や商品利用の目的に着眼した「生活価値観点」のものに分けられる。
③経験の長さや、実務家によって開発されてきたという経緯から、ツールやメソッドがより具体的で充実しているのは日本の実務者によるものである。経験値も日本のものの方が高いと思われる。
④現在の知名度では圧倒的に欧米の学者によるものが高い。
⑤日本の実務者によるものは時系列でのダイナミックな市場、生活の変化の観点を持ち、欧米の学者によるものはそれと比較すると一時点を切り取ったスタティックな印象が持たれる。

ということになりました。そして、これら4つの理論は「生活工学」もしくは「生活欲求(ニーズ)」の観点から統一的に説明可能であるという「共通性」を持つことも明らかとなりました。すなわちお互いの経験、ナレッジ、メソッドなどが相互乗り入れされ共有、応用できるということなのです。つまり③から考えますと「伝統芸能の再興」(笑)が果たせる機会が到来しているということになります。

さて、本稿の最後になりましたが、そもそも「イノベーションとは何か?」について改めて確認しておきたいと思います。「イノベーション」ということを唱えだしたのは歴史上、シュンペーターとドラッカーでした。彼らは経済学と経営学という分野こそ違え、実は幼馴染で仲がよかったそうです。その関係の彼らがそれぞれの立場でイノベーションということについて考えるようになったのは大変興味深いことです。

二人のイノベーションの定義を簡単にまとめると以下のようになります。

このように見ますと、この二人の時点ですでにイノベーションについては「商品価値観点」と「生活価値観点」が存在したというのも大変興味深いことです。これらは車の両輪として考える必要があると思われます。

次回以降は「統一理論」検討のプロセスをご紹介することにします。





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