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インタビュー調査の常識・都市伝説のウソを暴く~「沈黙」の構造①

1,最初に~ 「沈黙」について考える

インタビュー関係者が最も「恐れる」のは対象者の「沈黙」ではないでしょうか?

当然のことながら沈黙されると情報が取れません。限られた時間の中で目いっぱいの情報を得たいわけですからこれは大きな問題としてとらえられるわけです。またバックルームで対象者の発言を期待しているクライアントの手前もあります。対象者が沈黙するとバックルームの調査担当のリサーチャーにはいたたまれない空気が流れ出します。クライアントは調査会社に頼めば聞きたいことを上手く「訊き出してくれる」と期待しているからです。そこでリサーチャーにも、インタビュアーにも焦りの気持ちが生まれます。

この「焦り」が何を生むかというと、その場の沈黙を取り繕う細切れのアスキングです。例えば、「日常の食生活での困りごとあれこれ全般」が聞きたい内容であるのに少し沈黙の間ができると「話しづらいなら商品についての不満でも結構です」などとついついその場逃れのアスキングをしてしまいます。なぜか小さな話題や質問の方が話しやすいと考えてしまうわけですが、小さな話題や質問ほどタテマエや粗雑な合理化で対応しやすいだけなのです。

今までにもこの連載で触れてきましたが、これは重大な問題を生むことになります。例えば、それ以後質問しないと話さなくなってしまったり、商品についての不満を話せばよいからと、本当はもっと広い範囲の話が期待されているのにその話題に終始したり、「商品」と言われたことによって特に話すこともないのに商品についてのにタテマエを話したりするようになります(つまりバイアス)。

また沈黙とは実は何の情報も取れていないわけではなく、その状況の「観察」によって「その話題については話すことがない=つまりあまり意識も体験も無い」という重要な情報が取れているのですが、このようなアスキングによってそれが潜在してしまいます。「沈黙は金」でもあり「沈黙は雄弁」でもあるのですが、このようなアスキングはインタビュー調査、定性調査というものを「言葉」という次元でしかとらえていないということでもあります。

そもそも我々にとってインタビュー調査とは生活者の日常の微に入り細を穿つ徒然の生活体験を傾聴しようというのが本義なのですが、それを思い出すにはそれなりの黙考が必要でしょう。それが人間であり、生活者です。つまりインタビューにおいて「沈黙」の時間とは悪いことばかりではなく、必要不可欠なものでもあるのです。ところがリサーチャー達はその人間が本来必要な時間を無視してあたかも「回答マシーン」のように扱っている、というのが油谷先生がかつて批判されたことでした。

また「沈黙責め」の話を以前に書きましたが、「沈黙の利用」は実はインタビュー調査において発言意欲を高める最高の手段でもあります。

というわけで前置きが長くなってしまったのですが「沈黙」とは決して悪いことばかりではないわけです。具体的には「思い出すための黙考」や「行動や態度の観察対象としての沈黙」というのがそれに該当します。まずそれを前提にして以下「沈黙」の構造について説明いたします。尚、「悪いことばかりではない」ということは「悪いこともある」ということになりますが、ここで説明するのはその「悪い」沈黙についてだとご理解ください。沈黙にも種類があるのです。見方によって「良い沈黙」と「悪い沈黙」があるということです。

2,問題現象とそれが発生する原因

前掲の図をもう一度見て見ましょう。

この図の中の→は因果関係を示しています。「沈黙の発生」へと連なる因果を見て見ましょう。

この図の中で「沈黙の発生」の直接的な原因とされているのは

①「目的、成果、進行、などが共有された集団形成が不十分」
②「指名と一問一答による設問間と対象者間の分断」
③S/C領域(無意識)へのアスキングでの侵入
④体験や意識がなく本音で話せない
⑤③と④及び「プロ・専門家的存在の混在」による「建前発言の発生」

です。次回は、それぞれについて個別に説明していきましょう。


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