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「イノベーション統一理論」⑨~「ブルー・オーシャン理論」と「NOHL理論」のプロ・コン〜NOHLの広大無辺性とダイナミズム

「ブルー・オーシャン理論」と「NOHL理論」のプロ・コン

今をときめくブルー・オーシャン理論に弓を引きたいわけでもなく、また、否定したいわけでもなく、その意思、目的は尊重したいのですが、前回までの検討のように「高度成長は終わった」時期から21世紀初頭までの間に「世界に冠たる」イノベーション国家であった日本で誕生しその後も熟成されてきたイノベーションの理論・手法にはブルー・オーシャン理論の追随を許さない点があります。特にそれらは象牙の塔の学者ではなく「現場」の叩き上げのマーケター&マーケティングリサーチャー(この両者のスキル・ナレッジを持つのが私が自称している「リサーチングマーケター」)が生み出してきたという点において、より現場で「使える」理論・手法である点が優位点でしょう。特に、イノベーションを求める潜在生活ニーズの探索や、生み出されようとしているイノベーションの市場性検証のための手段・手法においてははるかに先を進んでいると言って憚りません。端的に言うと「イノベーション」に「リサーチ」のスキル・ナレッジが導入され、その成功率や再現性を高めているということです

「ブルー・オーシャン理論」というものを学んではみたものの具体的にどうするのかがわからない、という方々にとっては、原典には無いけれども、それに応用できる実績がある優れた手法が実はすでに日本の中にあった、ということになります。

しかし逆に優れた点は取り込むべきです。

その一つの成果として前回ご紹介しました「NOHL戦略キャンバス」(と、命名)のようなものが「開発」できます。このチャートは、開発にあたってどの商品要素の「取り除く」や「付け加える」がブルー・オーシャンの商品価値を生むのかや、カテゴリーとしての「必要条件」となる商品要素とそのレベルを検討し共有するために非常に便利なフレームワークではないかと自負しています。また、それらの商品要素の価値レベルをリサーチによって定量的に可視化することも可能です。

このような観点から「ブルー・オーシャン理論」と「NOHL理論」のプロ・コンについて検討しておきたいと思います。

まずは両者の比較が基本ですから下図を作成してみました。

この表は全くの私見であり異論のある方もおられるとは思います。私はNOHL理論に知識・経験がありますのでそちらをひいき目に見ているのは否めません。しかしリサーチングマーケターたる私が商品価値観点でのイノベーション開発の課題に直面したとして、このどちらかを開発のための基礎理論として採用するとするならば、という設定で両者のプロ・コンを検討してみた結果ではあります。

詳細は上表をご覧になればお判りになると思いますが、結論をまとめると

どちらも生活工学的な観点を持っている。
しかしブルー・オーシャン理論よりもNOHL理論はリサーチでその確度・精度を裏付ける手法が確立されている。
ブルー・オーシャン理論は今目の前にある「一歩先」の課題解決までのスタティックな視野しか持っていないが、NOHL理論は市場・生活を変化し続けるダイナミックなものと捉えている。そのため「二歩先、三歩先、さらにその先」の未来予測に応用することができる。
④商品要素の組み合わせと価値曲線の形を試行錯誤的に変えながら新たな商品価値を探索する試行錯誤的なブルー・オーシャン理論に対して、NOHL理論はNH方向へのベクトルを持つ商品価値を明らかにしてから商品要素を検討するので開発の方向性を明確にできる。
⑤④と関連してブルー・オーシャン理論には「ニーズ」の概念がないのに対し、NOHL理論はNH方向へのニーズの存在が示唆されている。④で述べたように、価値曲線の形とレベルを試行錯誤的に変えてみてもそれが新市場を生むニーズに応えているとは限らないが、NOHL理論ではN方向へのベクトルを持つと考えられる商品要素を仮説的に明らかにしたうえで、商品要素の組み合わせ検討=商品・サービスのコンセプト開発に取り組める。すなわち、試行錯誤が減らせるはずである。

という事になります。

但し、戦略キャンパス・価値曲線の考え方は、NOHL分析で作られた商品コンセプトが既存の代替財や補完財、あるいは他のブランド商品と比較して「メリハリ」、「独自性」、「訴求力」のある価値曲線を持っているのか?、それはどの商品要素から生じているのか?という観点での検証が可能なことを示唆しています。すなわち、これを量的調査に展開することで、その検証が量的に行えるようになるということです。これはまだ構想の段階でフィールドでは実践していませんが、似たような調査手法での経験から十分に可能であると考えています。

このように、理論体系を統合していくことで、検証の観点が増え、それはひいては検証の確度すなわち商品の成功確率を高めていくことに役立つと言えます。

「NOHL理論」のダイナミズム=「超越」について

上記のプロ・コンの中にNOHL理論の「ダイナミックさ」に触れています。ここまででその点に十分に触れていなかったことに気づかされましたので、改めて詳しく説明をしておくことにしたいと思います。

NOHL分析の基礎は、任意に設定した商品カテゴリー、あるいは生活領域に存在する多様な特徴をもつ商品をリスト化し、それら商品をNOHL図上にプロットすることにあります。プロットの方法ですが、グループインタビューにおけるディスカッションによって実施することが基本です。その位置にプロットされる理由・背景が対象者の話し合いの中で明らかになるからです。油谷先生が言われていたかどうかは記憶にありませんが、その意味でここで意見を一つにまとめさせ、無理にプロットさせてはいけません。意見・見方が分かれたものは「どことも言えない」ということにしておくべきなのです。プロットさせること自体が目的ではなく、しかし、その話し合いの過程で得られている情報はその領域における消費者・生活者の生活状況や、それと商品特徴の関係を捉える貴重なものになるからです。見方が分かれているからこそむしろ多様な見方や見方が揺れ動く葛藤状況がわかります。

グルイン以外にも、量的調査でプロットすることもできますし、識者の見立てによってプロットすることもできます。

既にご紹介したミネラルウォーターの例はグルインで実施されたものでしたが以下にご紹介するものは油谷先生ご自身が「日本酒のブランドネーム」について作成されたNOHL図で注記の著作に紹介されているものです。この分析の目的は「新たな日本酒のブランドネームを開発すること」にあります。「新たな」とはNOHL理論では従来の商品よりも「N方向」、理想的には「NH方向」に位置付けられるものということになります。

各象限には「美(センス)・味(グルメ)・神(イベント)・酔(ふざけ)」とありますが、これはそのゾーンにプロットされた日本酒のネーミングの特徴から共通の価値・意味を読み解かれたものです。

さて、この分析の目的は「よりNH方向に位置付けられるネーミング開発」です。すなわち既存の商品がプロットされていないNH方向、つまり、このNOHL図=既存市場の領域外にプロットされるネーミングを洞察することが課題であるわけです。

それを図式化したのが下図です。

既存市場の外側は「無」なのではく、そこには潜在的な市場=ニーズがあります。すなわち上図のように既存市場・領域におけるNOHL図は実は無辺のもの=人間の限りなき欲求、の顕在化している一部を切り取ったものに過ぎず、そのH方向とN方向の外側にはさらに大きなNOHL平面がフロンティアとして広がっているわけです。人間はそれを理屈ではなく本能として感じ取っているからこそ「NH方向に位置付けられる新たな日本酒のネーミング」を開発しようなどというモチベーションを持つわけです。

この既存の領域の外側に広がる領域を先生は「ニューコンセプトゾーン」と呼ばれています。そしてそれはそれまでのNOHLがNew-NOHLとしてあらたに定義しなおされるという事でもあります。New-Nの方向にNOHL平面を拡大させることを「超越」と呼ばれています。この「超越」こそがまさに「ブルーオーシャン」の創造を意味するわけです。それは「マーケティング」と「イノベーション」の境界を超えるということでもあります。

このようにNOHL平面というのは常に拡大変化しつつあるダイナミックなものです。これを限られた広さのスタティックなものだととらえてしまうと、既存市場の中での「空き家」的な部分を探すという使い方しかできません。それは油谷先生の本意ではないと思いますが、「ブルーオーシャン」と「ニッチ」の違いは正にそこにあります。それを図解したのが下図です。

その裏にあるメカニズムはすでにご紹介ずみの下図の通りです。

さて、上記の油谷先生の「超『美味神酔』」の検証は具体的に行っていませんが、私の知る限りこの分析の時期から後に起きたことは図内にも加筆してありますように

「グローバル化」=飲用シーン・オケージョンのグローバル的拡大・多様化。世界の料理、料理人との出会い・マッチング。その中で気づかれた洗練された「日本文化」の細やかさの商品への反映。
「グルメブーム」=ハイレベルの製法、原材料、産地など細部のこだわり。酔うための酒から味わうための酒に。

といったことであり、ネーミングにもそれに沿ったものが現れたと思われます。すなわち、この分析・予測は的を得ていたということになります。

本題に戻ると、このようなダイナミックな世界観、時代観を持つNOHL理論の壮大さはブルー・オーシャン理論を包含して余りある、ということに他なりません。

追補
本稿をアップしてから気づいたことですが、基本は2個のカテゴリー間比較の観点の戦略キャンバスと、はるかに多数のブランド、カテゴリー間の比較の観点のNOHLではやはり世界観の広がりが違ってくるのは当然だとも言えます。



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