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インタビュー調査の科学的分析法~「言った通り」ではないということ②

前回の続きです。今回は今までにご紹介したものも含め具体的な事例を通して、ALIのメリットを体感していただければと思っています。

徹底的なネガティブ反応でも影響はそれほどではないとGo判断をした例


以前に紹介した例です。煙害問題が世界的にクローズアップされ、全てのタバコのパッケージにドクロマークをつけなければならなくなったころ、ある世界的なトップブランドが規制に引っかかり、ブランドネームの変更を余儀なくされたことがありました。

これはコンプライアンスの問題なので、変えざるを得ないわけですが、メーカーの心配事として、ロイヤルユーザーが離反し、シェアが下がってしまうのではないかという仮説がありました。その検証や対策立案の為のグループインタビューのインタビュアーを務めさせていただいた時のことです。

比較対象として設定した、そのブランドにさしたる思い入れもなく元々スイッチする人たち=ライトユーザーのグループでは、ブランド変更についてはコンプライアンス上の問題だと冷静に理解しており、ブランド選択への影響としても、特にどうということはないという反応でした。むしろ、目新しいので変更されたら試しに吸ってみる行動すら起きるだろうという結論となりました。

一方、問題はヘビーユーザーです。

彼らはそのブランドを子供の頃から知っていました。その主たる理由は、親がそのブランドを愛用していたといったことでした。父親がそのブランドのタバコを吸う姿を見てカッコいいと感じ、自分もそれなりの年齢になった時に親に隠れてそのブランドを吸ってみる、そして、そのブランドと共に青春、人生を生きてきているのです。その思い入れは極めて強いものでした。

故にブランド変更への抵抗は極めて強く、「タバコ会社に放火したい」というような話すら出たのです。

しかし、そこで「それではブランドが実際に変更になったらどうするのか」ということを確認してみたところ、「ブランドスイッチして済む問題ならば、こんなに怒らない。他に吸うものが無いから、腹が立つのだ」という話が出てきました。彼らがそのブランドに愛着を持つのは、親の代からの思い出に加え、その風味についても当然に思い入れがあるわけですから簡単にはスイッチできない。ブランドスイッチをしてしまえばそれらをすべて失うことになるわけです。しかし、見方を変えると要は「名前とパッケージデザインが変わるだけ」であって、吸い続ければ失うものはそこだけです。

この課題についてはコンプライアンスがらみであるので、変更はいずれにせよ行わなければならないわけです。しかも、極端なネガティブ反応は「他に吸うものがない」から発生しているわけですから、要は一時の感情的な問題さえ乗り越えれば、ブランドスイッチは起こらないと判断したわけです。

対象者はそこまで合理的に考えているわけではなく、要は、その場の感情でモノを言ってるのですが、だからこそ、それは大した問題ではないということも言えるわけです。

そして事実は正にその通りになったわけですが、これは対象者の意見だけをアスキングしていたとしたら得られなかった結論ではないかと思われます。

ネガティブが全く無くむしろポジティブでも商品が売れない理由が分かった例

これも以前に紹介した例です。コンセプトもパフォーマンスも事前の調査では全く問題なく自信をもって売り出されたある菓子カテゴリーの商品が、最初は好調に売れたのだが、そのうちに販売が止まってしまったという問題に対して、その原因を究明しようとする調査でした。

その調査では、その場で提示された商品のコンセプトにおいてもパフォーマンスにおいても実に高評価であり、実際の生活体験においても、商品には何の問題や不満も感じられていないという結果が再現されてしまいました。

つまり、それだけではこの商品の販売が止まった理由は全く不明なのです。

しかし、リスニングされていたこのカテゴリーの商品の利用体験を分析したところ、このカテゴリーの商品は「母親が子供が自由に食べられるように買い置きしておく」ために利用されていたのに対し、この商品は「大人向け」を訴求していたことにより、生活の中では実際に利用される場面はなかったということが分かりました。子供のために買い置きしてあるといっても、自分が食べないこともないので、その「大人向け」というコンセプトに惹かれ一度は買ってみるし、食べてみておいしいとは感じる。つまり、コンセプトにもパフォーマンスにも全く問題も不満もなく魅力的だと感じられる。また買おうとすら思う。つまりリピート意向もある。しかし、実際の購買場面では「大人向け」を謳った商品をわざわざ子供のために買い置きをしようとはしないのではないか?ということが分かったわけです。

また、価格自体は阻害要因ではないのですが、若干高めに設定されていることから特売品にもなりにくいという実態がありました。一方お母さんの購買行動から推測したホンネは「食べ盛りの子供に食べさせるのだから、特売の時にまとめて買っておく」でした。つまり、その購買行動にもアンマッチだったわけです。

そして対象者の中では、それは比較対象ではなく、競合しているわけでもないのですが、「大人向け」ではもっとパフォーマンスの高い商品は別にあるということも明らかになりました。

このような分析、結論が出せたのは、やはり、ALIにより、日常のこの商品カテゴリーの利用・購買の実態を広く把握していたからです。これも、対象者には「買わない理由」はまったく意識されていないのですから、アスキングでは明らかにできないわけです。

この調査は数年前に実施したものですが、私も駆け出しの頃よりはスキルが上がっているので分析可能だったと思います。そうでなければ、リスニングであっても事例編でご紹介したような七転八倒の難度の高い分析です。

ALIであったため、ブランドを破壊するようなアクションを防げた例

ある自動車アクセサリーの名門メーカーから、経営体制が変わったことを期に新しいアクションを起こしたいということで、その方向性を探索する調査を依頼されたことがありました。彼らの抱えている問題は、若年層の自動車離れであり、そのために、彼らのブランドよりも若年層により購買されている他のブランドを仮想競合として、そのシェアを侵食できないかということがその案としてありました。例えば、その仮想競合が得意とする若年層向けの商品やサブブランドを開発するということでした。であるので、その方向性を検証するということも課題となっていました。

ところが、ALIを行ったところ、彼らのブランドは、その仮想競合ブランドとは全く一線を画しており、しかもその仮想競合ユーザーからすら、「いつかは〇〇 」と憧れをもって語られるブランドであることが分かりました。現在その仮想競合ブランドを購入しているのは、価格的に、そこまでしか手が届かないからだったのです。あるいは、彼らが買える価格帯の自動車には、そのブランドは高級すぎて「似合わない」ものだと思われていたのです。つまり、その仮想競合ブランドを購入しながらも、実はロイヤリティは「いつかは〇〇」の方にあるわけです。

そこで出した結論は、「従来行ってきたアクション以外には方向性が違う他のアクションは一切とってはならない」ということでした。これは相当に珍しい結論なのですが、そのブランドが強固であるがゆえに出せる結論です。

なぜならば、若年層向けの低価格商品や、サブブランドを出すことによって若者から「いつかは〇〇」と憧れをもって語られるそのブランドの価値が毀損されてしまう可能性があるからです。だったらば、すでにあったのですが、正規の中古品販売を拡充した方がよいわけです。また、既存顧客の感情を逆なでする可能性も大きく感じられました。彼らにとっては若造では手が出ないブランドであるからこそ、価値があるのです。そして、その若者も、余裕ができればそのブランドを購入する潜在顧客であるわけです。

そこで、若者向けに売り上げを出したいのならば、今のブランドとは違うブランドを全く無関係なものとして立ち上げる以外に方法はないということになります。しかしそれは、「いつかは○○」のブランド力は使えない単なるレッドオーシャンへの後発参入ですから避けられるべきです。故に、今までやってきたことの強化に専念するべきだということになります。例えばそのブランドは製造技術が極めてユニークで性能の高さもそこに起因しているのですが、「モノ作りの職人」として、地道にその技術力を高めることに専念するといったことになります。新経営陣としては何かしたいのですけれども、それでブランドを毀損しては元も子もないわけです。

こういった結論も、「若者向け施策」ありきのアスキングではなく、彼らのそのブランドに対しての接し方、感じ方を広くリスニングしていたからこそ出せた結論だと思われます。

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