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インタビュー調査の常識・都市伝説のウソを暴く~「脱線発言の発生」~盛り上がっていれば良いわけではない!

盛り上がらないことも問題ではあるのですが、先にも書きましたようにインタビュー調査というものは盛り上がっていれば良いというわけでもありません。むしろリスニングのインタビューにおいては「低調な発言状態」や「沈黙」から読み取れる情報もあり、その方が大きな気づきをもたらすこともあります。

例えば、最近話題の、ある双方向映像サービスカテゴリーを興味本位に使っている人たちへのインタビューで「使っていてNot Happyなことについて」という話題を提示したことがありました。すると、それまでそのサービスの利用状況について活発に話し合っていた人たちがその話題では一転し沈黙を始めたのです。しかしそこで焦ってアスキングをせずじっくりと待っていると(これが必殺技「沈黙責め」)ある出席者がポツリと「その話題は我々にはそぐわないと思う」という発言をされました。すると他の出席者も同意され、一転してその「話題がそぐわない」という話し合いが始まりました。その内容は「人間関係のしがらみも無いので嫌な配信者やオーディエンスがいればブロックすればよいし、面白くないコンテンツはスルーすれば済むので使っていてNot Happyということは思いあたらない」という事でした。

分析すると「嫌な配信者やオーディエンス、あるいは面白くないコンテンツ」に出会ったときは、沈黙して思い出さなければならないほどの些末なNot Happy経験はあるけれども、それはブロックやスルーで簡単に解決できる問題である」(しかし言葉とは反して大なり小なりNot Happyであることも事実で、そうでなければそんな行動は生じない)ということです。しかしむしろその「イヤなら簡単に切り捨てられる人間関係のしがらみの無さ」の中での「”かりそめ”の親しさ」の心地よい双方向コミュニケーションこそがそのサービスの核心的価値であるとも分析できたわけです。

すなわち、沈黙はこの分析結果に至るには必要な情報であったし、またその沈黙があったからこそ、対象者もそれを想起できたということです。また、この発言は「解決されるべきNot Happyな体験があるだろう」という調査主体側の思い込みを根底から覆す重大な情報でもありました。

これは「盛り上がれば良いわけではない」という一つの例です。

本題に戻ると、いくら盛り上がっていても調査の課題解決、目的達成ににつながらない内容ならば、聞いていて面白くても何の役にも立ちません。これを「脱線発言」と呼びます。

脱線発言も「話の独占」と同様に出席者のキャラクターの原因にされてしまうことが通例ですが、この問題も同じ構造の中で原因が説明できてしまいます。

まず「脱線発言の発生」が起きる理由ですが、その時に求められている話題が理解できなかったり忘れたりすることがあります。また前回も触れたように基本的にインタビュー調査に応諾する人は「話が好き」ですから話すことが無い時に適当な話をしてごまかすといったことが考えられます。

煩雑になるため上図ではその説明は省略していますが、それが起きるのはまず、冒頭の趣旨説明に加え、インタビューの各パートで求められている話の内容の説明が不十分であることによります。話すべき話題やその趣旨が理解できていないのですから脱線するのは当然です。

例えばある商品の評価を行っている場合、ホンネではその商品は低評価でありそれを口にすることが躊躇されているような場合、自分の経験や印象の内容ではなく、第三者的な評論的内容に話がすり替わっていくようなことがよく発生する例です。これは「自分事のホンネで、ネガティブなことも話してほしい」とか「話すことが無ければ話すことが無いと言ってほしい」という趣旨説明不足が原因ですが、ホンネを口にすることに躊躇があると、「他人事」の方が話がしやすいということです。話は盛り上がっているのですがそれが自分事ではなく「ウチのおばあちゃんになら良いかもしれない」といった話であるようなことがよく発生します。そのような場合「盛り上がっているな」で喜んでいると、インタビューが終わってから実は、目的であったこの人たち自身についてのホンネの情報がとれていないことに気づいたりするわけです。

アスキングの場合、「脱線発言」は長時間の発言や一問一答から偶然脱したときに起きやすいのですが、最初にされた質問が話しているうちに忘れられてしまうということがあります。そこで対象者の話に巻き込まれてインタビュアーが本筋から外れた一問一答を行うとさらに最初の質問と趣旨は忘れられていきます。

そもそもアスキングでは細切れに一問一答が行われるわけで、話題とその趣旨の説明は基本的に行われませんから、一旦話の本筋から離れると対象者はもはやノーコントロールの野放し状態に陥ることがあるわけです。

他には、S/C領域へのアスキングがされることや、リスニングでも商品・サービス観点での話題提示が行なわれた場合にも脱線発言は発生しやすくなります。それは発言意欲が高い一方で、無意識であったり体験や意識がなくホンネでは話せることがない場合に、悪気もなく、意識もせずに「それっぽい話」でその場を繋ごうとするという行動です。例えば「ある商品の売り場での印象」を問われた時に、特に売り場では強く感じられた印象が無かった場合、「買った後の印象」や「使ってみた印象」に話がすり替わっていくようなことです。このように「脱線」というのは実際には全く関係のない話というよりも、微妙に話がズレているということの方が遥かに多いように思いますからインタビュアーは調査の目的や課題を頭に叩き込んだ上での細心の注意が必要です※。

業界の「不都合な真実」の一つですが、インタビュアーに調査の背景やクライアントの状況を共有せず、ただインタビューフローだけを投げているだけということがありがちです。しかし、そのような場合、インタビュアーはこのような「微妙なズレ」を認識できません。つまり脱線発言がコントールできません。脱線発言がコントロールされない場合インタビュアーへ責任転嫁されがちですが、そのような場合に最大に批判されるべきなのはインタビュアーにそのような情報を共有することを怠ったリサーチャーです。

脱線も話の枕やウォーミングアップには有益な場合もあるのですが、その時間が長くなると必要な情報がとれていないという致命的な問題になりえます。インタビュアーが注意深く「今、何について話がされているのか」を常時確認しながら、脱線した場合にはすぐに修正をかけるというコントロールができれば大きな問題にはならないのですが、それには上記の情報共有に加えインタビューアーの練度が相当に高い必要があります。エキストラではまず無理な仕事です※。

※そもそも「アスキング」前提でインタビューを考えていれば、実際には脱線は起きるのですが、そもそも質問を次々と連発していけば脱線が生じると考えませんから、それに対応するトレーニングを行うという動機は生じません。故に脱線した際に修正ができず難儀することになります。

このように、「脱線の発生」もその根っこには「インタビュー=アスキング」だという認識があることがその原因となっているということです。しかし世の中では誤解している人が多く、 「自由に話をさせる(リスニング)から脱線する」と認識されていることが多いかと思われます。それがリスニングを忌避することにもつながっているのですが、話してほしいことやその場でのふるまい方も理解させていないのに自由に話をさせれば当然脱線は発生します。つまりはそういう主張をされる方々は「本来のインタビューの方法を知らない」ということに、やはり、他ならないわけです。


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