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これまでの家づくりのメリット・デメリットと アフターコロナの注文住宅の考え方(10)

資産価値を高める家づくりとは?

家の値段を大きく下げるのが内装であることが理解できたなら、資産価値を高める家づくりがどういうものであるかは容易に想像できるでしょう。
そう、躯体部分のA工事にしっかりとお金をかけるのです。
 
家の値段は見た目と性能で決まります。
見た目にお金をかけても、それが資産価値の高い家になるとは限りません。自分の好きなデザインを、他の人も好きとは限らないからです。
一方で、家の性能は個人的な好みに左右されません。「性能の高さ=価値の高さ」なのです。
そのため、ローコストな家づくりのときには、まず躯体部分にしっかりと予算を振り分けることを考えましょう。
内装部分は自分の趣味、こだわりと割り切って考える。予算が許せばその部分にお金をかけても良いですし、家を建てる時点で余裕が無いのであれば、少しずつ手を加えていけばよいのです。そのためにも、リフォーム会社にお願いしているわけですから。
 
ただし、躯体もただ単にお金をかければ良いというわけではありません。できるだけシンプルな間取りにするのが、資産価値を高める家づくりには必須条件。
前の章で建てる土地によって最適な躯体・間取りは決まってしまうので、それに合わせてできるだけシンプルなデザインにしましょう。と説きましたが、それは資産価値を高めるためにも大切なのです。
なぜなら内装と同じく、間取りやデザインが個性的な家も資産価値という点では評価されないから。個性的なデザインの家は目立つかもしれませんが、それを好む人も限られているため、値段は下がってしまうのです。
車がそうですよね。新車で買うときには、個性的な色ではなく、なるべく一般受けする車体カラーを選ぶのが賢い。その方が、後々売ったり下取りに出したりするときの値段が高くなるからです。
現に首都圏では土地価格の上昇を受け、築10年の戸建住宅の値段が購入したときよりも上がっています。ただしその場合も、シンプルで一般的なデザインの家の方が圧倒的に評価が高い。
 
なるべくシンプルなデザインの、でもしっかりとした性能の躯体を作る。これが、ローコストでも資産価値を高める家づくりなのです。

<資産価値の高い家づくりのために>

●   躯体(A工事)にお金をかける。しかし、デザインはその土地にあったシンプルなものにする
●   内装(B工事)は最低限のものにして、少しずつ手を加えていく

もちろん予算に余裕があるのであれば、B工事にお金をかけても全く問題ありません。
しかしローコストででかつ資産価値の高い家づくりをしたいなら、まず躯体のA工事にお金を振り分けるべきなのです。

ローコストでも資産価値を高める家づくりが可能な理由

本書で繰り返し強調している点ですが、ローコストにはローコストの理由がきちんと存在します。
資産価値を高める家づくりも、それは同じ。大切なのは、ローコストの理由を間違えないということなのです。
家の性能や仕様のグレードを上げれば、当然その家の値段も上がります。しかし総予算を上げずに内装のこだわりも実現したいというのであれば、家の性能を落とすしかありません。
しかしそれでは、資産価値の低い家になってしまいます。

ローコストでも資産価値の高い家づくりが可能なのは、B工事になるべくお金をかけないから。
その理由を理解せずに内装にお金をかけてしまうと、資産価値の低い家になってしまうのです。

よく、ヨーロッパや北米などは古い物件の価値が下がらないと言われますよね。ヨーロッパではむしろ建物が古い方が価値があるくらいです。
そもそもアメリカでは中古物件しかありません。中古住宅を買うのが基本で、新築を特別にNewhouseと言ったりします。Newhouseは日本のパワービルダーのような企業が大規模に開発することが多く、家を建てるというより街を作っていくというイメージが近いですね。注文住宅を新築するというのは、お金もちの大きな家というのが一般的な捉え方です。
アメリカの家の値段が下がらないのは計画的に土地の値段を上げているからというのもありますが、向こうの映画を見ると同じような作りの家が並んでいるな、と思いませんか?アメリカ人は同じようなデザインの家が好きなんです。そしてその方が売りやすく、資産価値も高いというのを知っている。好みが違うと全て作り直しになってしまいますが、好みが似通っていてデザインもそう大して変わらないなら、資産価値が目減りすることもないのです。
そもそもアメリカやヨーロッパでは、昔から性能のいい家を作るのが当たり前。ドイツなどの住宅は日本でも断熱性能が高い家、というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。
20年くらい前に私がカナダのオタワにある住宅研究所に行ったときに、壁の厚みが50センチくらいあることにとても驚きました。断熱材がしっかり入っていて、さらに内側をラップで覆っているんです。窓もトリプルガラスの樹脂サッシで、結露がないように換気もしっかり考えられていました。オタワの冬はマイナス30度にもなるため、施工ミスは死活問題。そのため、大工さんも絶対にミスをしないのが当たり前だと話していました。躯体工事にしっかりお金をかけているんですね。
家の基本性能が高くて、かつデザインがシンプル。だからこそ、古い物件でも値段があまり下がらないのです。

これまで日本は家づくりのコスト配分を、目に見えるものにかけすぎていたのではないでしょうか。それでいて趣味嗜好が多様なのですから、築20年の家に価値がなくなるのも無理はありません。
しかし躯体と内装を分けることによって、躯体部分にしっかりと予算を振り分けることができます。それが、ローコストでも資産価値の高い家づくりが可能な理由というわけ。
またそうした考え方で家づくりができる環境も整ってきたというか、人々の考え方も変わってきたように感じています。
日本では「家のつくりようは夏をもって旨とすべし」と言われてきました。つまり、夏の住みやすさを優先した家づくりというわけですね。そのために夏の風通しや日射対策、雨対策には非常に力を入れます。しかし逆に、冬は寒いのを我慢する風習があったように思います。オタワのように壁を厚くしたら家が狭くなってしまうというのもあるのかもしれませんが、断熱性能を高めるというよりも、暖房器具で温度調整するのが当たり前の考え方だったのではないでしょうか?

しかし今は脱炭素の時代。電気料金も値上がりして、家の性能に対する考え方も根本的に変わってきています。なるべく断熱性能の高い家にしたい。そう考える人が増えてきました。そしてそうした要望に応えるために、断熱材も薄くて性能の良いものが多く出てきています。これなら、壁を厚くして家が狭くなることもありません。そうした、目に見えない部分、家の基本性能に目を向ける人が増えている。欧米のように基本性能のしっかりした家、つまり躯体工事にお金をかけた家の価値が高まってきているのです。

機は熟したというのか、戦後に大工から、建築家、工務店、ハウスメーカーへと家づくりの主役が変わってきた中、アフターコロナでまた次のステージに移ろうとしているのではないでしょうか。
もちろん、これまでの家づくりを否定するつもりはありません。お金をたくさんかけられるなら、工務店や建築家にお願いして、豪華な家を建てれば良い。家にそこまでこだわりがないなら、ハウスメーカーの建売住宅がコスパは一番良いでしょう。でも、今の時代にローコストで注文住宅を建てたいなら、躯体と内装を分けて考えるのが一番適しているのです。
そしてこの新しい家づくりの方法が、時代の要請にかなっているような気がしてなりません。躯体と内装を分けて考えることによって、予算配分が自由になる。まず躯体部分にしっかりとお金をかけることによって、基本性能の高い家にする。それが住みやすい家でもあるし、結果的に資産価値の高い家にもなるのです。

日本では今、空き家問題が非常に大きな問題になっていますよね。古い家にどうして人は住まないのか?その理由の一つは、家の性能が低いからです。
しかし躯体づくりに予算配分を振り分けて、基本性能の高い家にするなら、例え築年数が経っていても、その家に住みたい考える人も多くいるのではないのでしょうか?それがつまり、資産価値の高い家ということです。
躯体と内装を分けるという新しい家づくりは、日本の住宅問題を解決するものでもあるのです。
そのもう一つの例が、大工さんにまつわる問題です。
大工不足、職人不足という声をよく聞かれると思います。なぜ大工さんがここまで減ってきているのか?大工さんに話を伺うと、自分の息子を大工にさせたくないという人が非常に多い。なぜなら大工には夢も未来も無いからだと言うのです。自分たちがどんなに頑張っても、大量生産のパワービルダーにはコスト面で太刀打ちできない。たとえ仕事が増えても給料は上がらないし、毎日同じことの繰り返し。顧客の顔も見えないやりがいの薄い仕事に、自分の子供を就かせたくないというわけです。
では、若い人の立場ではどうでしょうか?
昭和の大工さんたちは皆、弟子を取って教えながら仕事をしていましたが、そこは「見て覚えろ」の世界。そこで育てられてきた今の現役の職人さんたちは、若い人を丁寧に教えるというのが苦手です。そんな世界に、なかなか飛び込みたいと考える若い人は少ないでしょう。それでいて給料は安い。これでは、若い職人さんもなかなか長続きしません。彼らの問題ではなく、業界全体の問題なのです。

ドイツにはその道のプロを育てる、「マイスター制度」というものがあります。これは国家資格、つまり国が職人の中の職人を育てる制度を構築していて、それがドイツ製品が高品質である大きな理由となっています。
そしてもちろん、大工にもマイスターがいます。まずは職業訓練学校に通いながら熟練職人を目指し、実務経験を経てマイスター学校へ通い、マイスター試験に挑戦することになります。このような訓練プログラムですから、当然日本のような「見て覚えろ」の世界ではありません。しっかりとした理論や理屈を基に職人をトレーニングしていきます。こうした世界なら、若い人もやる気をもって仕事に取り組めるのではないでしょうか?そしてもちろん、マイスターになれば給料も上がるわけです。
躯体と内装を分ける家づくりでは、躯体は大型パネルを使って組み上げます。その大型パネルは、工場で作ってしまう。いずれはその工程も、さらに機械化されていくでしょう。3Dプリンターでできるようになるかもしれませんね。では、大工さんや職人さんたちはどうするか?内装工事により力を入れられるようになるのです。内装工事は顧客の要望を取り入れなければなりませんから、自然とお客さんと接することが多くなる。そうすると仕事にやる気もでてきます。ドイツのようなマイスター制度を取り入れることで、職人の給与も上がる。せっかくの内装工事なので、「マイスターに頼みたい」という人も当然いるでしょう。技術に対してしっかりとした対価を支払う。それは基本的なことですが、今の日本の家づくりのシステムではなかなか難しい。全部パッケージ化されているからです。でもそれが、躯体と内装を分けることによって可能になる可能性がある。工業化できるものは工業化し、目に見える内装をしっかりとした訓練を受けた職人が手がける。目につく部分なので、お客さんから直に評価してもらえるし、しっかりとした報酬も得られる。そうすると、大工になりたいという人材がたくさん業界に入ってくるはずです。躯体と内装を分けるという新しい家づくりが、業界の課題も解決してくれると私は信じています。

少し脱線してしまいましたが、躯体と内装を分けるという新しい方法が家の資産価値を高めるだけではなく、空き家問題や大工不足という、日本の建築業界が抱える問題を解決しうる方法でもある、ということが言いたかったのです。
でもそうすると、このように考える人もいるかもしれません。
「それなら、中古住宅を買ってリノベーションするのでも良いんじゃないの?」と。
でもそれには、大きな落とし穴があるのです。

その点について、次の章で考えてきましょう。

次回につづく

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