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これまでの家づくりのメリット・デメリットと アフターコロナの注文住宅の考え方(最終回)

最後に。これからの家づくり

本書ではこれまでの方法に代わる第四の選択肢、「躯体と内装を分ける」という家づくりをご紹介しました。
「躯体と内装を分ける」家づくりは、ウッドショックやエネルギー対策、職人不足などの問題を抱えたアフターコロナにおいて、ローコストで注文住宅を建てるために最適な方法です。そのため本書ではローコストということに的を絞って話しましたが、この新しい家づくりは全ての新築住宅にも当てはまります。躯体と内装を分けて考えることによって、予算の振り分けが自由になります。シンプルなデザインで性能の高い躯体を用意し、内装もできるだけシンプルにする。それがローコストの理由ですが、予算が許すなら内装部分に自分のこだわりを詰め込めば良いのです。例えばデザイン性の高いシステムキッチンにしたり、床・壁・天井などの素材にこだわったり、造作するなどなど。躯体部分のコスパがとても良いので、内装部分にもより予算をかけることができるのです。

ただし私は、「躯体と内装を分ける」家づくりが絶対に正しい方法だ!なんて言うつもりはありません。
人それぞれに理想の家というものは異なりますし、それに合った方法もそれぞれだからです。とにかく手間をかけずに、安心した家づくりを行いたいなら、大手ハウスメーカーやパワービルダーを頼るのが一番良いでしょう。他人とは違う自分だけの家づくりがしたいなら、建築家や設計事務所に相談する。信頼できる工務店と付き合いがあるなら、彼らにお願いしない手はありません。
万人に当てはまる、唯一の正しい家づくりの方法なんてないのです。
しかしだからこそ、家づくりの新しい方法を提案することに意味があるのです。選択肢が多ければ、それだけ自分にピッタリの家づくりの方法を見つけることができますよね。
その上で私が「躯体と内装を分ける」家づくりをおすすめする理由は、本書を読んでいただいた人ならきっとご理解いただけたと思います。

家の構造は複雑そうに思えますが、実は全てパーツの組み合わせでできています。その点はパソコンに似ていますね。CPUやメモリ、ドライブなどのパーツを一つ一つ組み合わせて、一台のパソコンが出来上がります。そしてそれらのパーツの性能が、パソコンの性能を決定するわけです。
家づくりもそれと同じ。基礎や柱、壁や屋根などの様々な部品を組み合わせて家ができ上がるわけですが、それらの部品の性能が家の総合的な性能を左右します。パソコンと違うのは、その部品の数が膨大であるということでしょうか。
例えば基礎ひとつ取っても、基礎のコンクリートの中に埋まっているアンカーボルトという金物の種類や値段もピンキリ。性能が高くて長く住める家を建てようと思ったら、そうした目に見えない部分にまでこだわれるわけです。ほかにも柱の材質や、断熱材、内外壁、屋根、窓、換気などなど、数限りない。しかもこれらは躯体部分で、内装部分でもキッチンにお風呂、洗面台、トイレなどの水回り、床、ドアなどの部品は家の性能だけではなく、快適さにも直結するわけです。
とはいえ、素人にはとてもそうした部品全てを吟味して選ぶことなんてとてもできない。それでハウスメーカーや設計事務所の出番となるわけですが、ハウスメーカーは一つ一つの部品をその人に合わせてチョイスするなんてことはしない。ローコストを実現するためには、規格品を大量仕入れする必要があるからです。もちろん部品を吟味するハウスメーカーもありますが、当然その分コストは高くつきます。また耐震や断熱、高耐久の品質を達成するための設計上のルールがあるので、その規格にも従わなければなりません。
では、設計事務所はどうでしょうか?設計事務所は一つ一つの部品をしっかり選んでいるイメージがありますよね。確かにそうなのですが、コスト管理という意味では首をかしげたくなることも多い。顧客が設計事務所に求めるのは高いデザイン性であることが多いですから、どうしても見栄えを優先してしまって基本性能が犠牲になることもままあるのです。最近は断熱性能の高いデザインをアピールする設計事務所も増えてきましたが、「断熱=エコ」というイメージが優先するのか、無垢を使った自然素材の部材を使ったりします。もちろんそれ自体は悪くないのですが、どうしてもコストはかかる。同じ性能でもっと安い部材はあるのですが、どうしても見た目やデザイン性が優先されるんですね。そうしたことの積み重ねで、設計事務所に依頼するとローコストな家づくりはどうしても難しくなってしまうのです。

日本の家づくりはこれまで、ハウスメーカーや設計事務所に丸投げでした。もちろん、どんな家にしたいかという依頼主の願いは最優先です。しかし、それをどうやって実現させているのかが、依頼主には分からない。何しろ家はたくさんの部品の組み合わせですから、素人が口を出そうと思っても難しいし、そもそもそんなことを考えたりもしません。建築は組み上げ式ですから、100万円の基礎工事を200万円にグレードアップ、柱の値段も同じく100万円から200万円に、屋根も外壁も…というふうにやっていたら、いくらでもコストが上がってしまうわけです。もちろん、予算に上限はありますから、その予算内で建てるわけですが、その中身が分からない。ハウスメーカーなり設計事務所なりが全てセットで提供するものを受け入れるしかなかったのです。
しかし躯体を内装を分けて考えることによって、少なくとも躯体部分にどのくらい、そして内装部分にどのくらいの予算が振り分けられるかが見えるようになるのです。
躯体部分の最適なデザインは建てる土地によって決まってしまいますから、依頼主は間取りだけを考えれば良い。内装部分にかけられる予算もはっきり分かりますから、その範囲内で自分のこだわりを実現させる。予算が足りなければ、少しずつリフォームしていけば良いのです。

ウッドショックによる材木費の高騰も、エネルギー問題も、職人不足も、「躯体と内装を分ける」家づくりが一つの答えとなりえます。
例えば工場で大型パネルを使って躯体を作れば、木材のゴミを減らすことができます。建築現場では木材が不足して工期が延びるのを避けるため、木材を多めに発注することがよくあります。私たちが買い物の回数を減らすために、食材を買いだめするようなものですね。余った木材を次の現場で使えば良いのですが、倉庫にしまったものを取り出す手間や面倒から、そのまま処分してしまうことが多いのです。チリも積もればで、建築現場から処分される全廃棄物のうち、約2割はまだ使えるものだとか。これは非常にもったいない。工場で躯体を組み立てることによって、こうしたムダも省くことができるのです。
また職人不足の問題についても対応可能です。工場で作った躯体を現地で組み立てるだけなら、熟練の職人さんでなくてもできるからです。むしろ重たい構造やサッシを組み立てるのは、高齢の大工さんには厳しい仕事。彼らにはそうした力仕事から手を引いてもらい、住む人の目に留まる内装の仕上げに腕をふるってもらえれば、Win-Winではないでしょうか。大工の仕事がキツイ力作業ではなく、そうしたお客様から感謝される仕事だとわかれば、若い人たちもこの世界に飛び込んできてくれるかもしれません。モノづくりの仕事って、お客様からの評価と感謝をやりがいに頑張るものですから。大工も全く同じなのです。
「躯体と内装を分ける」ことによって、キツイ躯体づくりは機械に任せてしまう。工場で作った方が精度も上がって性能もより良くなります。ゴミも減りますし、断熱性の高い家にすることによって脱炭素やエネルギー問題もクリア。代わりに職人さんは、よりクリエイティブな仕事に打ち込むことができるのです。
また依頼人にとっても内装工事をリフォーム会社にお願いすることによって、長いスパンで自分の家を任せられる「お抱え工務店」を持てるようになります。戦後大きく変わってしまった日本の建築業界を、アフターコロナという新しい時代で前に進めたいのです。家の大量生産・大量消費という考えから、基本性能が高くて長く住める家づくりに転換する。しかも躯体と内装を分けて考えることによって、ローコストでそれを実現する。「躯体と内装を分ける」家づくりを私が提案しているのは、日本の建築業界が抱える様々な問題を解決しうると考えているからです。

ただそれは、家を建てたいと考えている「あなた」にとっては関係のない話ですよね。
いち消費者として考えるのは、予算内で納得できる家づくりを実現するにはどうしたら良いかということ。それは全く正しい考えです。
そのためにこれから求められるのが、住宅の総合プロデューサー。つまり不動産、建築、ファイナンスをワンストップで考えて、提案できるプロフェッショナルです。彼らは顧客の代理人として中立的にアドバイスし、責任を持って家づくりをプロデュースする。今のところそれに一番近い人が、不動産エージェントと言えるかもしれません。
家はあくまでも、豊かな生活を実現させるための手段にすぎません。私たちは、クライアントが望む暮らしがどんなものかを伺い、それを家という形で実現させるのが仕事です。その方法の一つが、「躯体と内装を分ける」家づくりなのです。
あなたが家づくりで重視しているのはどんなことでしょうか。住む場所?性能?デザイン?全てを実現させることはできません。予算には限りがあるのですから。しかし躯体と内装を分けて考えることによって、どこに重点的に予算を振り分けるか、どこを妥協できるかがきっと見えてきます。その考え方のヒントを知っていただきたくて書きました。

ローコストでも、自分らしい家を建てることは可能です。
それが、「躯体と内装を分ける」家づくり。
私がこれからの家づくりを考えているのは、あなたの願いを実現させるためでもあるのです。

これまで不動産を探す条件というと、会社までの移動時間、駅からの距離が優先でしたが、アフターコロナで大きく状況が変化しました。都心よりも郊外、より住みやすいところに人々の目が向いています。実際に鎌倉や藤沢あたりの値段もグッと上がりました。湾岸のマンションの価格も高騰しています。
日々の生活をシンプルにし、その分人間関係をより大事にする。コロナでライフスタイルや生き方に関する考え方も変わってきたわけですから、不動産に対する見方が変化するのも当然のことでしょう。もしかしたらそれも進化したというよりも、昔に戻っただけなのかも。

たとえ時代や世の中の状況が変化しても、人間が求める理想の暮らしというのは変わらないのかもしれません。しかし家の作り方、技術は着実に進化しています。近未来には、家は3Dプリンターで建てるのが普通になるのかもしれません。
変わっていくものと変わらないもの。しかしまだまだ全てが変わるまでには時間がかかります。その手前の今、少しだけ新しい発想で家を作ることもありなのではないでしょうか。


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