なぜ中国人は知識・ノウハウを共有しないのか?
中国で日本語教育に携わっている、くまてつさんのnoteが大変興味深かったです。
いわく、スタッフである中国人日本語教師のほとんどが仕事を経験してきた上で身につけた知識やノウハウを共有しようとせず、一緒に仕事を進めていくうえで協力が得られないことに困っているとのことです。
僕も中国人と一緒に仕事をしたことがあるので、僭越ながら大変気持ちがよくわかります。これに対する解決策のようなものを提示できるほど僕は中国人とのビジネスに精通した人間ではないですが、そのように行動する中国人がどのように考えているのかについては語れそうな気がするので、ここにまとめてみたいと思います。
会社への帰属意識がない
まず中国の人は、会社や組織に対して強い思い入れを持つことが少ないです。中国人の伝統的な価値観では社会の出発点は血縁的な意味での家族であり、会社組織をその「ウチ」の関係の中に取り込んで考える人は非常に少ないのではないかと思います。会社は貢献の対象ではなく、リソースを引き出す場なのです。
社員にノウハウの共有を進めるように呼びかけるときのロジックは「あなたのノウハウを一般化して広げてくれればみんなが助かって会社が儲かるようになるよ、そうすればあなたは認められるし、給料も上がるよ」というものが多いと思うのですが、このロジックは中国人に対して大変ウケが悪いです。そんな遠回りをするよりも、もっとダイレクトに「自分の得になる行動は何か」と考える人が多いように思います。
蓄積することにインセンティブがない
また、中国の人は「一つのことをやり続ける」とか「経験を積んでプロフェッショナルになる」ということに対してあまりインセンティブを感じない傾向もあります。
日本企業の中国進出にかかわるアドバイザー・コンサルタントとして活動されている田中信彦さんは「スッキリ中国論」の中で、中国人と日本人の働き方、お金の稼ぎ方についての考え方の違いを指摘しています。
日本人はお金を稼ぐことに対し、新たな価値の創出や日々の改善によって利益を生み出そうとする「インダストリー型」の思考を持ちます。対して中国人はお金を稼ごうとするときに、まず価値の創出よりも「自分の持っているものが一番高く売れる場所はどこなのか」といった「トレード型」の思考を持っている人が多いのです。
それぞれに良し悪しはあれど、このような思考を持つ人が多数派である中国の社会においては「積み重ねていくこと」に対して感じる価値がどうしても小さくなります。そのため、そもそも共有すべきノウハウを積み重ねよう、という発想が薄いのです。
先のくまてつさんのnoteの中でも、困ったことがあっても相談に来ないスタッフについて触れられています。これは、自分の経験値を上げることへのインセンティブが低いことが関係しているのではないかと思います。人にアドバイスを求めて成長することよりも、現状の能力のまま自分をどう売り込むか、ということへの価値のウェイトが強いのです。この辺りも、ノウハウの共有不足につながってくるかもしれません。
同僚は同じボスの元にいるライバル
もう一つ、組織それ自体への考え方の違い以外に、組織の中にいる同僚への考え方の違いも関係しているかもしれません。中国の人は極端に言えば、肩を並べて働いている人は情報を共有すべき「仲間」ではなく、組織の中における利益を争い合う「敵」のように捉えているフシがあります。
この「中国の行動原理」という本は外交などの中国の対外政策の傾向について述べた本ですが、その基礎となる中国社会、中国人の世界観のようなものについても触れられています。その中には、こんなエピソードが出てきます。以下に引用します(太字強調は筆者によります)。
あるとき、中国人留学生が筆者に「私、もう中国人が怖くなりました」と暗い顔で話しかけてきたことがある。聞いてみると、就職活動の悩みである。(中略)
「この間、日本人の友達に「今日説明会あるんだよ、知らないの?」と言われて、あわてて一緒に行ったんです。そしたらそこに、いつも仲良くしていた中国人の友達が、先に来て座っていました。その子は説明会のことを知っていたのに、私に教えてくれなかったんです。彼女は会うと笑顔で話しかけてくれるけど、友達が自分より成功することを本心では望んでいない。周りの友達を競争相手だと思っているんです」
なんとも怖い話ですね。この「中国の行動原理」では、このようなことが起こる背景を、中国の「外婚生共同体家族」を基礎とした社会に見ています。一人の権力者(「家父長」と表現される)に権力が集中し、組織はその権力者と、その構成員(「息子」)との一対一の関係の束で出来ている。つまり「息子」たちの立場は権力者のもとでフラットであり、互いに独立している。
そのような構造の中で、独立した「息子」たちは「家父長」との関係を強くし、特別に取り立てられることにインセンティブがあるため、互いに助け合うことをあまりしません。むしろ、他の横並びの「息子」たちとの相対的な差異をつけるために、足を引っ張ることもあるかもしれません。したがって、ノウハウを共有してみんなの働きを効率化する、ということが起こりにくいのではないかと考えられます。
日本人もそうかもしれない
ここまで中国人が「なぜノウハウを共有しないのか」ということを書いてきましたが、この「ノウハウ共有不足」は日本人にも言えることではないかと思います。個人的に見てきた範囲ですが、日本の企業でも適切なノウハウ伝達や社内知の共有をうまく出来ているところは、それほど多くありません。
日本の企業でノウハウ共有不足が起こるのは中国とは別の原因(「黙って見て覚えろ」的な相手への過剰な期待や、人手不足による慢性的な属人化など)のような気がしますが、ともあれ「インダストリー型」の思考が得意なはずの日本人がその積み上げた知識を次世代に継承できないことは、日本企業の深刻な競争力不足にも繋がるような気がしています。
ぜひ日本企業にお勤めの皆様におかれましては、ノウハウの継承をしっかり進めてほしいと思います。でないと、次の世代の若者が困っちゃいますよ。
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以上、最後にちょっと余計な日本企業ディスが入ったような気もしますが、基本的には中国人が「なぜノウハウを共有しないのか」ということの一端を解きほぐせたのではないかと思います。
他にも何かご意見がある方はぜひコメントなどでお寄せください。
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