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中国人をマネジメントする時に覚えておくべき「特別扱い」と「平等」のバランス

昨日、以前勤めていた会社の通訳の「何さん」の話を書いたのですが、書きながらもう一つこの何さんにまつわるエピソードを思い出したので、今日はその話をしてみたいと思います。

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その会社では、日本人従業員の出勤の際に、運転手が毎朝車で迎えに来てくれるようになっていました。無駄な経費だなあと思いつつも、上司がお前も毎朝車で来いというので仕方なく毎日乗っていました。

毎朝僕を迎えに来てくれたあと、上司の家に向かうのですが、その日はなぜか運転手が僕を拾った後に、上司の家に向かうのとは別の道に行き始めたのです。

「ちょっと、道を間違えてないですか?」と運転手に言ったら、「いや、今日は通訳の何さんを迎えに行かないといけないんです」とのこと。え、なんで? と理由を聞いてみたんですが、よくわからないがとにかくそう言われたということなので、よくわからないままとりあえずその場所に向かいます。

ほどなくしてある場所に辿り着き、その何さんが車に乗り込んできました。なんで今日はこっちに乗るようになったんですか? と聞くと、「私、普段はもうちょっと遠い別の場所に住んでるんですけど、昨日は親戚の家に泊まっていたんです。ちょうど日本人のみなさんが住んでいるところに近かったので、乗せてもらいました」と流暢な日本語で返してきます。

少しの違和感を覚えたものの、まあそう言うのなら上司の許可くらいはとっているのだろうと思い、あとは何も聞きませんでした。

ところが上司の家に到着した際、上司は乗り込んでくるや否や「え? なんで何さんがいるの」と開口一番に言いました。え、事前に言ってなかったの? と戸惑う僕をよそに、何さんは先ほどと同じような説明を上司に試みますが、上司は「いや、だからって何も言わずに勝手に車を使っていいわけないでしょ」と冷たくあしらいます。

上司はその後も「そりゃあなたはウチの従業員としては頑張ってくれてるけど、だからといって特別扱いはできない」「他の従業員が見たら、どう思うか考えたことある?」「もっと遠くに住んでる人だって自分で来てるんだから、あなただけ特別というわけにはいかない」と、「特別扱いはできない」ことを強調しつつ、何さんに説教を始めました。

そして最終的には「会社の前で車を降りるところを他の従業員に見られたらまずいから、途中で降りなさい」と言われ、何さんは会社からは程々に離れたところで車から下ろされてしまいました。僕は何さんがトボトボと会社に向けて歩いて行くのを、バックミラー越しに見ていました。

そして車に残された僕はその上司に「お前もなんで注意しないんだ! 馬鹿か!」と罵倒されました。いやだって知らなかったし事前に話くらい通してると思うじゃないですか…

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このエピソードを思い返して、中国におけるこの「特別扱い」には、非常に難しいところがあるな、と思います。

個人的な感覚ですが、中国の人は能力や組織に対する大きな貢献があるなら(あるいは「ウチ」の人であるなら)、その人はある程度優遇されて然るべきという意識が強いように思います。この「特別扱い」が行き過ぎればあからさまな「えこひいき」、もっと酷くなれば癒着のようなことにもなりかねないのですが、かといって多少の便宜を図る程度の「特別扱い」を施さなければ、リソースを引き出すことが難しいという部分が中国の習慣にはあるように思います。

実際、何さんの能力は素晴らしいものでしたし、その上司も基本的には何さんに大きな信頼を寄せ、様々な仕事を任せていました。個人的な仲も良さそうに見え、和気藹々と仕事をしていました。何さんのほうには「これだけやっているし、普段仲良くさせてもらってるんだから、ちょっと車に乗せてもらうくらいは許してもらえるだろう」という意識があったのではないかと思います。

現実には、そのような関係性を上回る日本的な「スジ」としての平等が上司の中で優先されてしまい、何さんは玉砕してしまったわけですが、心情としては「これだけ頑張ってるのに、この程度も許してもらえないなんて、なんてケチなんだろう」と思っていたことでしょう。優秀な人に対する報いを、もう少し考えてあげてもよかったかもしれません。

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ただ、この上司のほうが一概に間違いとも言えません。「特別扱い」をしたことが周囲に知られればトラブルが起こる可能性が高いというのも、それはそれで一理あります。

これも主観の域を出ない考え方ではありますが、中国では「機会の平等」があまり重要視されず、そこにこだわる人が少ないように見える一方で、同列に立ったものへの待遇の差のような「権利としての平等」には強い執着を持つ人が多いように思います。

実際、同格の社員どうしで給料に差があるとわかった途端に仕事のクオリティが著しく下がったり、集団で賃上げを求めに来たり、最悪の場合にはストライキにまで発展するケースを見聞きしたことが何度もあります(まあ、それこそが労働者の正しい姿かもしれないのですが…日本ではあまり聞かれない話かと思います)。

何さんのケースが、同格の中国人にとってどれくらいの不平等を感じさせる「特別扱い」なのかはわかりません。それによって不満が噴出するということは考えにくいですが、周囲としては心証が良くないのも事実かもしれません。

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この「特別扱い」と「権利としての平等」のバランスのようなことは、中国で人を動かす立場にある人は、意識しておいて損はないのではないかと思います。日本的な組織論やマネジメント論は、なかなか通じないものです。

中国で部下やチームを抱えて奮闘している、もしくは周囲の中国人のマネジメントに困っている、という方々の参考になれば幸いです。

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