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私には夢がある。有明コロシアムを車いすテニスの観戦客でだけで埋め尽くしたいという夢が。

【目次】
1.初めて見たときの衝撃
半端ない疾走感
映像だけでは伝わらないもの
4.有明コロシアムを満員にしたい!

1.初めて見たときの衝撃

2001年8月、有明テニスの森のBコートの一角で、今では世界的に有名な車いすテニスプレーヤー国枝慎吾選手と、当時の世界ランキングTOP10で活躍していた斎田悟司選手の試合を見た。
国枝選手はまだ高校生。世界で活躍していた斎田選手に圧倒されていたけれど、ふたりのプレーのレベルの高さに衝撃を受けた。こんなスポーツが、なぜ知られていないのだろう? いつか私の力で車いすテニスという“スポーツ”を世に知らしめたいと、そのとき思った。

あれから19年が経って、車いすテニスは日本でも随分知られるようになり、国枝選手はパラリンピックのアスリートとして真っ先にその名を挙げられるまでになった。
車いすテニスをテレビなどで紹介される機会も増えたし、WOWOWでは決勝をLIVEで放送されるようにもなった。
でも、まだまだ車いすテニスの本当の凄さが伝わっていないような気がする。

2.半端ない疾走感

以前、別のnoteにも書いたけれど、車いすテニスの疾走感は半端ない。
車いすテニスは、ツーバウンドまで返球可能だ。車いすテニスとテニスでは、細かいルールの違いはあるけれど、試合を見て楽しむ分には「ツーバウンドまで返球可能」という1点だけおさえておけばいいだろう。

ツーバウンド目はコートの外でも有効なので、車いすテニスは一般のテニスよりもコートの外のスペースを広く使ってプレーすることになる。コートの外でバウンドしたボールを追いかけて返球し、再びコートに戻ってプレーを続ける。そのために、テニスよりもボールを追うスピードが命となる。このスピード感は、実際に生で見ないとなかなか迫力は伝わらないようだ。

でも、とりあえず、車いすテニスを映像でも見たことがない方のために、この動画を紹介しようと思う。
2019年の「ワールドチームカップ」という大会での、イギリス対ベルギーの試合。白いシャツがイギリスのアルフィー・ヒューイット、赤いシャツがベルギーのヨアキム・ジェラードだ。
1:27:54からのプレーは、車いすテニス動きの特徴がよく出ている場面だと思う。車いすテニスは、背中越しにボールを見ながら走って、返球のポジションに入るという場面が見られる。テニスではめったに見られないシーンだ。

赤いシャツの選手が、ボールを打った後に回転したり、ネットへ詰めてからベースラインに戻りながら背中越しに相手を見ているのが分かると思う。https://www.youtube.com/watch?v=8ZBgVx_xDVI

他にも、一般のテニスでは当たり前でも、車いすテニスではできないことがある。そのひとつが「サイドステップ」だ。横に足を一歩踏み出す、というような動きは、車いすでは不可能だ。それをカバーするために、車いすを常に小刻みに動かし、車いすを回転させるなどしてボールを追う。
こうした点に注目して、試しに車いすテニスを見てみるとまた面白さが増えるかもしれない。

3.映像だけでは伝わらないもの

2001年に車いすテニスの世界トップレベルのプレーを見て、「なにがあってもこのスポーツを広めなければ」と謎の使命感を感じた。その半年後に、たまたまテニス雑誌の編集部のスタッフになることができ、そしてテニス雑誌に車いすテニスの記事を掲載するというひとつの夢を叶えることができた。

その後、3度のパラリンピックを取材して、縁あって「マツコ&有吉の怒り新党」に有識者として名前だけの出演があり、2015年のお正月には実際にスタジオに行って出演もさせてもらった。
初めてテレビで車いすテニスの “有識者” として名前だけ出たのが「三大〇〇のコーナー」だったのだけど、そのときに打ち合わせに来てくれた方と話していて、ちょっと残念に思ったことがあった。
打ち合わせの内容は、「国枝選手の映像をもう1本探しているのだが、なにかいいものはないか」という相談だった。とにかく当時は、国枝選手の試合中の映像が見つからず、結局「三大〇〇」なのに2本だけの紹介になってしまった。
そのとき、いくつも、何度も車いすテニスの映像を見てきたであろうスタッフの方たちが、ふと「ブレーキってどうしてるんですか?」と聞いてきた。
「ブレーキはなくて、手で止めてるんです」と話したら、「ブレーキ、ないんですか!?」とびっくりされて、逆に私がびっくりしてしまった。

資料集めのために、かなりたくさんの国枝選手の映像を見てたと思うけれど、そういう方たちでも、車いす操作をどうやっているのか、そういうものは伝わりにくいんだなと思った。

4.有明コロシアムを満員にしたい!

車いすテニスという競技名、そして国枝選手や上地結衣選手の名前は、パラスポーツの中でもかなり認知度は高いと思う。
2004年のアテネパラリンピックから、パラリンピックで車いすテニスを取材してきたのだけど、アテネのときはほとんど日本のメディアは注目していなくて、取材し放題だった。
それが、2012年のロンドンのころには、ほぼ全ての日本のメディアが車いすテニスの決勝に集まってきていた感じで、「ああ、私の役目ってもう終わったのかな」と思うようになっていた。私が頑張って取材して報道しなくても、たくさんの人が車いすテニスを報道してくれるようになったんだと実感した。
だけど、もしかしたら、車いすテニスの魅力を伝えるために、私にもまだやらなくてはいけないことがあるかもしれないと思うようになった。

毎年10月に、東京・有明コロシアムでATP(男子プロテニス協会)、一般の男子プロの大会「楽天オープン」が開催されるのだけど、2019年は初めて車いすテニスの男子の大会も行われた(今年も開催されますように!)
車いすテニスの大会を取材した際に、観戦に来ていた方に車いすテニスを見た感想を聞いてみた。ほとんどの方は国枝選手の名前を知っていたし、車いすテニスについても知っていた。しかし、みなさん一様に「国枝選手の名前は知っていたけど、こんなにすごいと思わなかった」「もしかしたら一般のテニスより面白いかもしれない」とおっしゃっていた。
「そうでしょ!? そう思うでしょ?」とうれしく思う反面、「車いすテニスの魅力って、もしかしたらその半分も伝わってないのかも?」と思うようになった。

私の夢は、車いすテニスの試合を見にきたお客さんで有明コロシアムが埋まること。

車いすテニスを取材して、ひとりでも多くの人にスポーツとしての魅力を伝えたいと思うようになって、20年近くが経つ。その当時は、「ヨーロッパのように、車いすテニスをスポーツとして楽しむためにお客さんが見にくるようになったらいいな」と思っていたけれど、いつの間にか日本はその域を超えてしまったのかもしれない。
2016年のワールドチームカップでは、日本対フランスの決勝を見に約3500人の観客が観戦に訪れた。2019年の楽天オープンは、新しくできた屋外のショーコートで車いすテニスの試合が行われた。雨で何時間も試合開始時間が遅れたにもかかわらず、車いすテニスの試合を見るために多くの観客が集まった。
選手たちは、これだけたくさんの観客に見てもらえるのは有明以外にはないと話していた。それは、今はひとえに、国枝選手のネームバリューがあるからこそなのだけど。

2020年、パラリンピックで夢が実現するかと思ったけれど、2021年に持ち越しとなってしまった。2021年に開催されたとしても、きっと今までのようにはいかないんだろうな。
でもいつの日か、車いすテニスの観戦客で有明コロシアムが満員になる日ことを願い続けていようと思う。そのために私になにができるのか、模索の日々は続く。

先日、パラリンピック、パラスポーツの総合サイト「パラサポWEB」で、国枝選手の三大ゲームについて書かせてもらった記事も併せて紹介したい。https://www.parasapo.tokyo/topics/25865

上の記事の、3大ゲームのひとつ、2012年ロンドンパラリンピックの決勝の模様は、IPCの公式サイトでフルで見られる。お時間のあるときにぜひ堪能してほしい!
https://www.youtube.com/watch?v=tHSdARC7wxk

WOWOWに加入されている方は、WOWOWオンデマンドでグランドスラムの試合を見られる。2018年の全豪オープンの決勝もチェックしてみては。

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