東京パラリンピック 車いすテニス「国枝選手、金メダルへの道」　勝手に考察

車いすテニスについて、ただの趣味で投稿していたので、こんなに毎日夜遅くまで試合を見なくちゃいけなくなるとは思わず、途中で「別に、趣味で書いてるようなものなんだから、今日はいいか」とか、「どうせだれも読まないから、もう書くのやめちゃおうかな」と思ったこともあったけど、なんとか毎日続けられた。
選手たちの素晴らしいプレーで、車いすテニスに興味を持ってくれる人がひとりでも増えたらいいなと思う。
でも、今回のように車いすテニスの試合を、地上波で全試合中継される機会は、当分ないだろうと思うと寂しい。

さて、国枝選手が、この東京パラリンピックでなぜ金メダルを獲れたのか、を勝手に振り返ってみたい。
もちろん、「こうだったから勝った」という単純な話ではないのだけど、いちばんの理由は「下がらなかったから」だと思う。

振り返ってみると、準々決勝でのステファン・ウデ（オランダ／世界ランキング６位）戦が、いちばん厳しい戦いだった。
第１セット、２−５まで追い詰められたのは、ウデ選手がネットに出て、積極的に攻撃してきたからではないかと思う。
国枝選手は、当然それを感じてプレーしていて、試合をしながら緩急を付けたり、して相手を迷わせて、徐々に流れをたぐり寄せていった。

準決勝のゴードン・リード（イギリス／５位）戦は、ネットプレーが得意のリード選手に苦戦するかと思ったが、最初の２ゲームをリードに先取されたものの、その後はほぼ国枝選手が試合を支配していた。
決勝の、トム・エフベリンク（オランダ／８位）戦も、最初の国枝選手のサービスゲームをブレークされたものの、第２ゲームのエフベリンク選手のサービスゲームで、国枝選手は完全に試合を自分のものにしてしまった。

車いすテニスは、サイドステップができない。立っていれば容易にできる、一歩足を横に出す、ということができない。
それをカバーするためには、コートを左右に８の字を描くように走って、ボールを拾う形が多くなる。
相手から来たボールを返球するだけなら、そうした動きでもいいのだけど、それでは自分から攻めることはできない。

国枝選手が他の選手と違っていたのは、車いすなのに縦の動きを使っていたことなんだと思う。国枝選手のチェアワークは、もともと世界一なのだけど、それをさらに上書きしたのではないかと思っている。
エフベリンクの最初のサービスゲームのときに、最初からリターンしたあとにネットに詰めていった。エフベリンクにしてみれば、160キロ近いサーブに対して、「前に詰めるの！？」と驚いたのではないかと勝手に想像している。

結局、国枝選手をよく知っているウデ選手は、少し国枝選手を追い詰めたけれど、対戦経験が少ないほど、翻弄されっぱなしだったように思う。
特にエフベリンク選手は、男子ダブルス３位決定戦のときには、素晴らしいショットを連発していたので、これはシングルスの決勝でも国枝選手を苦しめるのではなかと思ったのだけれど、まさか１時間ほどで決着するとは。

特に決勝は、国枝選手がベースラインからほとんど下がらずにプレーして、さらにコート内へ、前へ前へ詰めていっていた。
一方、エフベリンク選手は、ベースラインから２メートルほど後方でプレーしていたので、国枝選手にとっては脅威でもなんでもなくなってしまう。
これは、解説の齋田さんも指摘されていた。

特に印象に残っている１球がある。
国枝選手がベースラインのほぼセンターにいて、エフベリンク選手の打った球が国枝選手のすぐ左、ベースラインギリギリに入った。
通常、その球を返球するには、一歩、二歩下がらなくてはならないのに、国枝選手はバウンドしてすぐのタイミングで返球した。
バウンドの上がりっぱなを打つのを、ライジングといって、テニス選手はみんなできる技術ではあるけれど、車いすに乗っていて、ほとんど動けない状況で下がるという選択肢を完全に捨てて、そのタイミングのすごさといったら言葉もなかった。
うまく伝わらないと思うので、気になる方はNHKのパラリンピックのサイト、見逃し配信があるうちにチェックしてみて。
第２セット、国枝選手４−１リードの国枝選手ダービスゲーム、０-30の場面（11時間41分のあたり）

ベースラインから下がらないため、普通ならワンバウンドさせるボールも、少し甘くなるとバウンドさせずにドライブボレーで返球するし、とにかく返球すてくるタイミングが早いのだと思う。

国枝選手の代名詞とも言える、バックのダウン・ザ・ラインなど、一見派手なウィナーに目が行きがちだけれど、ボールの”速さ”ではなく、タイミングの”早さ”の凄さが、とてもよく伝わる試合だったと思う。

たぶん、テニスされている方ならみんな気づいていることなのだけど、テニスを知らない方にも伝わるといいなと思って、あえてまとめてみました。
また決勝の試合、見たくなっちゃったなー！！