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100人で「beの肩書き」をやってみた 〈soar conference 2018のスライド公開!〉

こんにちは、勉強家の兼松佳宏です。

先週から『beの肩書き』の発送が始まっているのですが、続々と「届きました!」の声をいただいております。著者としてはずっとドキドキしっぱなしなので、こうした生の声こそがいちばんの励みになります。Twitterでの『beの肩書き』の感想はtogetterで随時まとめてゆきますので、よろしければ!


初めての100人規模で

12/7(金)夜の出版記念イベント&be年会に続いて、8(土)はウェブマガジン「soar」が主催するsoar conference 2018でした。『語り』をテーマに、べてるの家の向谷地生良さん、ドミニク・チェンさん、しょうぶ学園の福森伸さんと、ある分野の人にとってはオールスター級のラインナップ。

僕も朝からすべてのセッションに参加させていただき、「自分にやってくる闇に言葉で対抗していく」(向谷地さん)、「インターフェースやコミュニケーションにおける視覚的な触覚」(ドミニクさん)、「空と色のあいだ、小数のデザイン」(福森さん)などなど、貴重なことばのおみやげをたくさんいただきました。

そして、休憩も入れてのべ8時間という濃密な場の締めくくりに、光栄にもbeの肩書きワークショップをやらせていただくことになったのです。


2人組か、3人組かに悩む

今回ならではといえるユニークな条件は、たぶん3つほど。

①ワーク前までにたっぷり5時間も話をきいている
僕自身がそうだったように、いい意味で頭がパンクしてしまうくらい言葉であふれていたように思います。おかげさまで、もう語りたくてしかたがない状態になっていたので、なるべく僕の話は短めに、ストーリーテリングの時間を長くとるようにしました。

②初めての100人規模
これは事前にわかっていたことですが、やっぱり100人となると全体をホールドしている感はなかったように思います。その分、soarのスタッフのみなさんに「何かトラブルがあったらいつでも声をかけてね」と事前に伝えておくことで、ファシリテーターとしての安心感を担保できていたように思います。(そして、幸いにも大きなトラブルはなかったようです)

③初めましてとはいえ、基本的にはsoarの読者同士である
beの肩書きの話をすることは、それなりに勇気も必要です。「この人にはここまでなら語ってもいいかな」といった参加者同士の安心感を醸し出すには、どんな人たちがここに集まっているのか、知っておくことが大切だと思っています。このときは最初のセッションで「好きなものやこと」について軽く話す、というウォーミングアップの時間があったのは幸いでした。

ただ、ここで悩んだのが、2人組にするか、3人組にするか、です。ペアのメリットは、ひとりあたりの語る時間を長くとれること、そして目の前の人に集中すればいいので、より深く語り合える可能性があることです。大学生の場合は3人組よりもペアの方が、その人らしい表情で語っている感じがあったのでした。

一方の3人組のメリットは、語る時間は短くとも、多様な他者の話を聴くことができるので、自分の語りをより相対化しやすくなること。そして、もしペアで何かやりにくいことが起こった場合、逃げ場があることです。

今回は少し時間がオシ気味だったので、予定を変更してペアにしようと思っていたのですが、直前の休憩時間でsoar編集長の工藤さんと相談し、いろいろ天秤にかけた結果3人組にしたのでした。そういえばドミニクさんから「聴くことは語ること」というキーメッセージをいただいていたので、結果的に必ずしも自分が多くを語らなくとも、語り合いの中にいる心地よさを感じていただけたように思います。

と、こんな感じで、いつも場の空気を感じながら、細かい調整をするのがとての楽しい昨今です。それではさっそく、レシピをどうぞ◎


〈beの肩書きワーク@soar conference 2018のレシピ〉

①チェックイン
②レクチャー
③オープン・センテンス
④「beの肩書き」候補を選ぶ
⑤今年の「beの肩書き」ヒストリー
⑥ストーリーテリング + フィードバック + メッセージカード
⑦贈呈式+チェックアウト


①チェックイン

今回のグループ分けも「袖振り合うも多生の縁」方式にしました(つまり、何もしない)。今回の会場では机がないので、バインダーを用意してもらいました。

チェックインで大切にしたいことはdoよりもbeファーストで、それを引出すような質問としてシンプルに「お名前/どちらから?/いま感じていることは?」としました。


②レクチャー

ワークの時間をしっかり確保したかったので、10分で終わらせることを目標に。

beの肩書きとは? → 例えばこんなbeの肩書き → オープンソースで広がっています → 肩書き=自分なのか?問題 → コメディアンとしてのバス運転手 → ユーダイモニアとヘドニア → リフレーミング → 「ことばで遊ぶ」くらいの軽い気持ちで

ちょうど昨晩に挑戦した甲斐もあって、10分でコンパクトに話せるようになってきました。

今回はワークショップなので、仕上がりのイメージを先に共有しておきます。時間がなさそうなので、山の絵を描くマウナケア・スケッチは諦めて、メッセージカードまでで。

このとき「自分で選んだ●●はユーダイモニアであり、人からプレゼントしてもらう◯◯がリフレーミング」という説明を初めてしてみたのですが、何だか自分でもスッキリしました。自分から湧き上がるユーダイモニアだけでも、他者の視点を借りるリフレーミングだけでもない、ユーダイモニア+リフレーミングという流れこそ、beの肩書きの面白さだったり、ユニークな価値だったりするのかもしれません。


③オープン・センテンス

いざbeを語ろうとするときにカギとなるのは、さまざまなdoを思い出すことです。とはいえ、思い出すための語りというものもあるので、今回はbeの肩書きヒストリーに入るまでに、オープン・センテンスを挟んでみました。オープン・センテンスは、とにかく指示されたとおり語り出してみて、自分でそのあとの言葉をつなでいくというワークです。

今回はbeの肩書きインタビューの5つの切り口から、語れそうなことをひとつ選んでもらい、ひとり3分ずつ語ってもらいました。それなりに手応えがあったので、オープン・センテンスを10分程度挟むのは今後の定番になりそう。


④「beの肩書き」候補を選ぶ

続いて、③で語ったことを象徴していそうな、メタファーとしての職業を選びます。複数あってもいいですが、最終的に語るのはひとつになります。

もし「プレゼンでちょいちょい笑ってもらえた」という経験が自分にとってユーダイモニアだった場合は、あなたは「喜劇俳優のような人」なのかもしれない。そんなふうにピンとくる職業を探していきます。

もちろん僕が実際には「喜劇俳優」として活動していないように、あくまでメタファーなので、その道のプロである必要はありません。直接的にというよりはむしろ、その職業が象徴していそうな本質的な価値の方を大切にしてみてください。見つかったら、以下の図に書き写します。


⑤今年の「beの肩書き」ヒストリー

beの肩書きヒストリーのパートでは、当初はこれまでの人生を振り返る時間にしようと思っていましたが、時間も足りなそうだったのと、12月という年の瀬感もあったので、今年一年を振り返るバージョンにしました。

beの肩書きヒストリーをひとことでいうと、「自伝を書いてほしいと依頼がありました。さて、どんな章立てに?」というもので、各章で自分が選んだbeの肩書きに関係しそうなエピソードを箇条書きで3〜5個くらいリストアップし、各章のタイトルを決めていきます。

ちなみにタイトルはとても大切で、ある期間を大雑把に意味付けし、どんなタイトルとして言語化していくのかを考えている時点で、既に語りが始まっていると思っています。思い出すことに集中しすぎるあまり、なかなかタイトルを考える時間が足りなくなることもありますが、拙くてもタイトルは必ず用意してもらったほうが、語りはより充実するのではないか、というのが僕の考えです。


⑥ストーリーテリング + フィードバック + メッセージカード

いよいよ準備が整って、ここから語り合いの時間です。最初に語り手、聞き手、メモ係に分かれます。

語り手はヒストリーで書き出したことをゆっくり思い出しながら、自由に話をしてOK。話す順番は第一章から第四章まで、各章をはじめるときは章のタイトルを必ず紹介してもらいます。

聞き手は相槌をうつ、言葉を繰り返すなど傾聴することに集中し、メモはメモ係にまかせます。メモ係は白い紙とペンを持って、話のすべてではなく、大切なキーワードや表情が変わった瞬間をメモしていきますが、基本的に質問は聞き手にまかせて黒子に徹します。

このときはひとりあたり語る時間を5分とし、残り半分、あと1分のアナウンスをするようにしました。5分経って終わりの合図が来たら語り手に拍手をし、黒子に徹していたメモ係さんから、語り手に「キーワードは何だったのか」「どの瞬間に表情が変わったのか」など、1分ほどフィードバックをします。そして、その後3分ほどでメッセージカードを仕上げてゆきます。

せっかくの機会なので、空いているスペースに相手へのメッセージも書いておきます。この機会に伝えたいこと、力になれそうなこと、質問など何でもOKです。語り手が待っているあいだには、「beの肩書きの自分にどんな時間をプレゼントしてあげたい?」という問いをお渡ししてみました

このパートは本来はゆっくり進めたいのですが、どうしても体験版となると「あと◯分です」とせっつき気味になってしまうのがいつもの反省点。人によってメッセージカードを書き終える時間もまちまちなので、この時間をどう充実させていくのかは今後の課題ですね。

カードが完成してもまだ交換はしないで、ストーリーテリング+フィードバック+メッセージカードを1セットとして3人分繰り返します。


⑦贈呈式+チェックアウト

そして全員分が終わったら、相手の目を見て、一言添えてメッセージカードを渡し合います。ゆっくり時間をかけてやってもいいのですが、まずはみんな気になっていると思うので、僕の場合はひとり1分ずつで贈呈式を終わらせて、あとは時間がくるまでグループのみなさんでチェックアウトをする、というようにしています。

贈呈式は威風堂々を即興で歌ってみましたが、BGMを用意しておくとさらにクライマックス感が高まってよいかもしれません◎


ということで、初めての100人規模でのワークショップデザインを振り返ってみました。

soarならではのあったかい空気と、やっぱりゲストの皆さんの刺激的な話と、スタッフの方の気配りのおかげでやりきれた感じがするので、もしうまくいったのだとすれば、それはみなさんのおかげで引き出されたものだと改めて振り返っています。

そして、ユーダイモニア+リフレーミングという構造、オープン・センテンスの効用などいろいろ気づきもたくさんあって実りの多い東京出張となりました。soarの工藤さん、ジュンヤくん、悠平くん、ゲストのみなさま、スタッフのみなさま、ありがとうございました!

はじめまして、勉強家の兼松佳宏です。現在は京都精華大学人文学部で特任講師をしながら、"ワークショップができる哲学者"を目指して、「beの肩書き」や「スタディホール」といった手法を開発しています。今後ともどうぞ、よろしくおねがいいたします◎