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学校を狙うカルト~彼らは正体を隠し、あなたの子どもにささやきかけている

 今年は全国各地の学校にとって大きな変化が訪れました。緊急事態宣言が解除され、学校が再開され喜ぶ子どもたち。一方で、そんな子どもたちを狙っているカルト団体があることはあまり知られていません。本日は、教育の場にどれだけカルトの魔手がのびてきているかをレポートします。


1.「カルト」とは

 そもそもカルトとは何かという話ですが、熱狂的、狂信的集団のことをカルトと呼び、「一部少数ながら熱狂的なマニアに偏愛されている」映画のことをカルト・ムービーと呼ぶことがあります。しかしながら特に我が国のカルト宗教問題を語るときにはこの定義では足りません。宗教や信仰がファナティックなのは当たり前なのですが、それのみを指してカルトと断ずることはできず、「(信仰や学習の名目で)違法行為や人権侵害を行う団体」(藤倉義郎、2018)として問題を認識せねばならないのです。

 信仰の名目で行われた違法行為というと、オウム真理教による一連の犯罪がまず思いつくところではないかと思いますが、80年代から90年代にかけては霊感商法による被害も多く(家庭科の教科書などにも記述されるほどでした)、また大学や地域社会における強引な勧誘や信者に課される高額なお布施など、枚挙に暇がありません。この手の団体に共通するのが「脱会が非常に困難」という点であり、これは明確な人権侵害です。思想や信仰の在り方ではなく社会的に有害な行為の問題で、これがカルト問題の本質といえます。

 本邦においては90年代のオウム真理教をはじめ、顕正会、浄土真宗親鸞会、ライフスペースなど様々な新興宗教や団体がメディアで取り上げられました。自己啓発セミナーというかたちのカルトも次々に生まれました。これらカルト団体は時に芸能人を広告塔に、信者や会員を増やしています。

 

 さて、公立学校は宗教教育や政治教育から切り離され、カルトが跋扈しているイメージは筆者にはありませんでした。しかし、実際は子どもたちをカルトが狙っているというのです。現役の教員に詳しく話を伺うことができました。


2.学校をねらうカルト


──なぜカルトが学校に?

「カルトや新興宗教は常に信者や学会員を増やそうとしています。なぜかというと、会員を増やすための行動が『人類を救う道」とか『修行者としての功徳を積む』として教義づけられているからです。宗教者として、勧誘して仲間を増やすことこそが人類を救う道であり、己の信仰心を高める修行でもある──。このように教え込まれた人間がとる行動は大体決まっています。
①身内や仲のいい人を誘う ②心の弱そうな人、弱っている人を誘う
このうち②は、葬式の終わった直後の人につけこんでくる霊感商法の輩を想起させますが、実は「子ども」も②に当たります。なぜなら子どもはまだ知識や判断力が大人に比べると概して乏しく、また、①を期待できる存在でもあるからです。『判断力が弱く、対抗する知識に乏しく、家族や友達も一緒に勧誘できる対象』が多く集うのが学校です。カルトがそこを狙わない理由がありませんよね」


──子どもをねらう勧誘が今もあるんですか。


「はい、以前からありましたが今も存在します。通学路で子どもたちに聖書らしきものを配るエホバの証人や、イベントのチラシを配るカルト団体の姿がよく見られました。この手口は昔からあったので、大人であっても覚えておいでの方が多いのではないでしょうか。私自身も、小学生のころになんだかよく分からないチラシや聖書をもらった覚えがあります。紙飛行機にして飛ばす子がいたりしたのも覚えています。近年は警察への通報が増えたことや、迷惑防止条例等の施行により子どもにダイレクトに本やチラシなどの出版物を渡す行為こそ減りましたが、子どもに向けたカルトの勧誘は形を変えて私たちの身の回りにあります。」


3.学校における実態は



──形を変えて、とは?

「学校や教育委員会にチラシやポスターを送り、『各家庭に配布してください』というものが多くなりました。」


──なるほど、直接渡すより「学校からの配布物」として家庭に届けるわけですね。

「その通りです。その内容も巧妙になってきて、直接その団体とは関係がないように見せかけるチラシが増えてきています。『子どもをいじめから守るための講演会』だったり、『親子で学ぶ○○講座』とかね。あとはイラストや標語のコンテスト形式をとるものもありました。」


──そういったものが、現実に配布されている? 

「残念ながらその通りです。公立学校がカルトの広宣流布に加担してしまっているのです。当事者の一人として慚愧に堪えません。こんな話は言い訳にしかなりませんが、私は早くから教育委員会や管理職に訴えてきました。けれども委員会は各学校の判断に任せるという姿勢で、それでは管理職はというと『何を基準に配る、配らない、の判断をすればいいか分からない』とそのまま配布を認めていたりします。学校がカルトのチラシ配りをやらされており、私もそれに加担してきてしまったのです。当事者の一人としてお詫びします。」


──先生の立場からは、配っただけで悪意はないのでは?

 「悪意があろうとなかろうと、配布した事実は変わりません。チラシの配布どころか、実際にカルト団体のポスターを掲示してしまっている例さえあります。」
「これは実際に学校に掲示されたポスターです。ひとつの学校だけでなく、複数の学校でこれを見ました。」


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──どれも普通のポスターに見えますが?


「左のポスターです。『いじめは犯罪!絶対にゆるさない!』と書かれたもの。この『いじめから子どもを守ろう!ネットワーク』なる団体は幸福の科学の関連団体です。」


──えっ、どこにもエル・カンターレ要素がありませんが?

「このポスターのイラストを描いているのは『金田一少年の事件簿』などで知られる漫画家のさとうふみや氏ですが、近年は幸福の科学出版の仕事が多く、本人は幸福実現党から衆議院議員に出馬(落選)した経験があるという敬虔な信者です。
また、この団体の代表である井澤一明氏も幸福の科学の関係者で、同じく幸福実現党から出馬経験があります。と、このポスターは見る人が見れば一瞬で新興宗教の出版物だと理解できるのですが、子どもにそれを求めるのは酷ですよね。」


──「いじめは犯罪」というのは間違っていませんよね。


「こうした出版物を学校が堂々と掲示しているのは、カルトの勧誘への加担と言わざるを得ません。『いじめはいけないという正しいことを言っているからいいじゃないか』という意見もありましょうが、極めて幼稚と言わざるを得ません。内容の正しさ云々ではなく、カルトへの入り口を公立学校が設けてしまっていることの恐ろしさを私たちは強く認識しなければなりません。そう思って管理職や教育委員会に訴えてきました。」



4.このままでは学校がカルトの入り口になる


──しかし、これがどうしてカルトへの入り口になるのですか?


「この『いじめから子どもを守ろう!ネットワーク』に相談する層はどんな人たちか考えてみてください。おそらくいじめられた子どもやその保護者でしょう。いじめを受けて心身ともに疲弊した子どもや保護者を相手にアドバイスや講演、そして勧誘を行うわけです。
その結果、いじめを受けた子どもや保護者が財産を投げ出して「エル・カンターレ・ファイト!」などと叫ぶようになったとして、誰がその責任を取るのでしょうか。本人たちだけの問題でしょうか? そうではないからカルトが社会問題として認識されているわけです。
また、このポスターの場合、『正体を隠した新興宗教のポスター』であると同時に『正体を隠した極右政党のポスター』でもあるわけです。日本国憲法と教育基本法をご存じの方なら2秒で判断できると思いますが、なおのこと公立学校に貼っていいものではありません。」


──なるほど、危険性がよくわかりました。これはいつ貼られたのですか?

「2016年には既にあちこちに貼られていたように思います。おそらく──希望的な見方ですが──これを貼った方に悪意や勧誘の意図はなく、ただ『学校に届いたから』貼ったということなのでしょうが、これは不適切という他ありません。今後このようなことがないよう、学校に届く出版物や掲示するものに関してはしっかりチェックしていくことが必要であると考えます。」


──「検閲」になりませんか?


「その懸念はあります。そもそも配布するかどうかが各学校の裁量に任されている曖昧な状態なので、日本国憲法と教育基本法の理念に則り、政党や宗教に関連するものを学校で配布しないというガイドラインを改めて設けるべきだと考えます。学校の役割は新興宗教のチラシ配りではないのですから。」


──こういうチラシは、他の団体からも来るんですか?


「先程のポスターの他、いくつものカルト団体のチラシや広報を目にしました。私が覚えているだけでも、倫理法人会の関連団体が発行する小冊子、統一教会(現「世界平和統一家庭連合」)関連団体の小冊子、不二阿祖山太神宮のイベントチラシなどです。あと、これは教員向けなのですが、『君が代を活用した授業を作ろう』とか、よく知らない極右団体からセミナーの案内や指導案が届いたりします。」


──えっ、ゴリッゴリのカルトが…。

「倫理法人会は右派新興宗教なので幸福の科学とも相性が良く、「早起き」や「掃除の大切さ」など、学校の先生が好きそうな言葉を巧みに操って信者を獲得していますね。実際に教員向けのセミナーを行っているところも幸福の科学と共通しています。倫理法人会と幸福の科学を掛け持ちして、率先してセミナーを行っている教員がいるぐらいですから、おそらくもっとも学校現場と距離の近いカルト団体でしょう。この関連団体の小冊子が職員向けの回覧で回ってきたことがありました。少し前に京都市長選で「素手でトイレ掃除」を推している候補者がいましたけどあの人当選したんですよね。あの「素手でトイレ掃除」なんて非常に"倫理"的です。 京都の子どもが素手でトイレ掃除とかやらされないように祈ります。

【参考リンク】
【京都市長選】炎上連発の現職門川陣営のやらかしまとめ 「反共はさすがに引くわ」「時計の針が進んでいない京都」の声


 統一教会の関連団体も同様に、女性向けフリー情報誌のかたちをとって各地で配られています。これも職員室で回覧がありました。
不二阿祖山太神宮は、神道とは直接のかかわりはなく、『2万年前からの日本人の文明を大切にする』などと、とても義務教育を終えたとは思えない内容の教義をもつ極右カルトですが、政治家に取り入るのが上手いのかイベントには各省庁の後援がついています。そのせいか一見まともなイベントに見えてしまうのが厄介ですね。どこにそんな資金力があるのか、全国の学校にチラシやポスターを送付しています。」


──不二阿祖山太神宮は"あの女性"との関係も噂されています。

「詳しく分かりませんが、『いいイベントなので前に進めてください』という話なんでしょうか?」


──今日はありがとうございました。


「ありがとうございました。これからのご多幸を祈ります。」


5.まとめ

 この教員によると、複数のカルト団体からチラシやポスターが学校や教育委員会に送付されているそうです。現場の先生の中にはカルトのチラシであることを認識せず子どもに配布してしまっている人もいるといいます。正体を隠すカルト団体のチラシを見破るのは困難であるかも知れませんが、これは学校だけでなく私たち社会全体の課題でもあるように感じました。


 これをお読みになった皆さんあるいは皆さんのお子さんの通う学校はどうでしょうか。怪しいポスターが貼られていたり、奇妙なチラシが配布されたりしてはいないでしょうか。

 今後も学校とカルトの問題について、追いかけていきます。


 ※この記事は、以前からあげ速報に寄稿したものを一部改訂してお届けしました。




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