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Believe-君にかける橋- は、設定が無茶苦茶で、もやもやします

今テレビ朝日でやっている Believe-君にかける橋- は設定がかなり無茶苦茶で、同業者として非常にもやもやします。当たり前の日常を維持するために、見えないところで、地道に頑張っている土木業界の人だったら怒りを覚える人もいると思います。
俳優陣が超一流で、それっぽく見えるのため、一緒に見ている奥さんが「公共事業って裏でこんなことやってるのね」とか言い出し、危機感を持ったので投稿します。
このドラマは警察ドラマに例えれば、「踊る大捜査線」ではなく、「西部警察」や「あぶない刑事」のノリ。ドラマだから、面白ければいいし、きっとこれから面白くなるのでしょうが、第1話だけ見た今の時点で業界関係者としてもやもやしたことを吐き出させください。



1.公共事業はチームワーク

今まで、橋の設計家を扱ってくれたドラマはいくつかありました。近いところでは「同期のサクラ」とか。いずれも橋の設計に誇りを持った人を取り上げてくれているのは大変うれしいことですが、いつも主役は〇〇建設 設計部という設定になります。
公共事業を進めるには下記1.~3.のチームワークが不可欠ですなのですが、ドラマではいつも下記1.と2.の存在が完全にスルーされてしまうのです。

  1. 事業者=国道は国土交通省、県道は〇〇土木事務所、市道は〇〇市土木課 ⇒2.に設計業務を発注し、その成果品をもとに3.に工事業務を発注

  2. 設計者=建設コンサルタント ⇒私の仕事はココ

  3. 施工者=ゼネコン(下部工やコンクリート橋の上部工)、橋梁メーカー(鋼橋の上部工) ⇒キムタクはココ

現場の状況にあわせて、施工者がコンサルタントの設計を見直すことはありますが、あそこまで外観を変える必要がある場合、施工者が事業者に事情を説明し、設計者に設計を修正させるのが本来の流れ。
キムタクが設計変更のプレゼンをする相手は、社長の小日向文世さんではなく、小池知事みたいな恰好で記者会見をやっていたあのおばさんの部下にあたる人です。

2.関係者はみんな真剣

なぜかテレビドラマでは公務員が水戸黄門の悪代官のようなイメージで描かれていることが多く、うちの奥さんを含め、公務員は悪みたいなイメージを持っている人がいますが、とんでもない誤解です。
公共事業の工事で大きな事故が発生した場合、矢面に立つのは事業者です。土木の関係者はとてもまじめな性格の人が多いです。なぜなら発注者の公務員が真剣にまじめだから。ケーブルの仕様を必要な強度を満たさないものに変えるなんてことする人は業界に一人もいないと断言します。コンサルタントがこれ以上削れない最適な設計をしているし、事故があったら調査委員会で第三者(学識経験者)がまっさきに見つけるので、そんなところでお金を浮かしても割に合いません。
事故を起こさないためにみんな真剣なんです。

下記は記憶に新しい、静岡で起きた静清バイパスの施工時に起きた桁落下事故の事故報告書です。1ページでも見ていただければ、発注者がいかに真剣に取り組んでるか伝わると思います。

私がこのドラマに怒っている理由は、事故が起こらないように身を削る思いで日々地道に真剣に取り組んでいる、発注者、設計者、施工者のプライドや努力を踏みにじって、面白おかしく書いているところです。
少なくとも私は作った橋が壊れる姿を見たくないし、そんなこと間違っても起こさないことが土木屋のプライドです。
キムタクは橋を愛していそうですがテレビ朝日は橋を愛していない。


3.発注者や建設コンサルにも取材して欲しい

ドラマを見た後、真っ先にエンドロールをじっくり見ました。どこの会社がこんな無茶苦茶な設定に協力したのかと。
協力者は日大理工学部土木工学科。キムタクの背後に映っていた模型もここで作ったのでしょう。業界関係者が協力していなくてほっとしました。

協力者は大学ということで、なるほどと思いました。大学はいままでにないものを研究して作っていく立場なので、あのV型の補強案も納得できるし、責める気は全くありません。
これを実現するために見えないところでどんな努力をしているのか、ということについて、テレビ朝日さんは業界の人や発注者の人に取材をしてもらいたかったです。


4.そもそもあんな風に壊れるのか

橋崩落シーンのCGは衝撃的でした。確かに似たような感じで崩落した橋があったことは事実です。CG作成にあたり、2019年に台湾で崩落した橋を参考にしたと思われます。改めて見ると壊れ方もアングルもそっくり。

ドラマの画面を撮影

台湾の橋が落ちた理由(南方澳跨港大橋1998年製)は、建設から約20年を経て、一部のケーブル断面が7割程度腐食していたことが要因だったそうです。定期的な点検・補修をしていれば防げた事故と思われます。

日経クロステックの記事より
ドラマの画面を撮影。こちらのアングルも上記記事の写真にそっくり

大地震や水害や経年劣化で橋が壊れることは残念ながらあります。工事中も構造が不安定な状態なので、桁落下などの事故の危険に常に隣り合わせの状態です。
ただ新品の橋が、何もしないのに目の前で壊れたという話は聞いたことが無いし、未来もないと断言していい。それを面白おかしくドラマにしてしまうのは関係者に失礼だと思います。

↓竣工時の橋崩落事故は、設計手法が確立されていなかった80年前にはありました↓


5.建設的なドラマを作ってください

橋だけでなく、最近の映画やドラマはCGでいろいろなものを壊しています。ニューヨークやロンドンなど映画の中で何度廃墟にされたことか。。
我々の業界は、毎日ドラマのようなことが起こります。ルール、予算、不意の災害、現場トラブル、などいろいろな問題を乗り越えながら本当に少しづつ時間をかけて前に進んでいった先に完成の喜びがあります。
破壊ではなくてみんなで力を合わせてすごいものを作って感動するドラマを、テレビ局はなんで作ってくれないんだろう
これが、この投稿で私が一番言いたいことです。

ドラマの画面を撮影
なぜかみなさん破壊・爆発が大好き。橋の上に爆発物はありません(笑)


参考1:歴代の壊された橋たち

こういうのは、面白いからウェルカムです。ジャンジャンやってください。何だったら私、模型作ります( ´∀` )。
ただミッションインポッシブルのように、作戦遂行のため、人間が橋を壊す映画は、生理的に好きになれません。

初代ゴジラが壊した勝鬨橋

ラドンが壊した西海橋

シンゴジラが壊した丸子橋


参考2:こういうのを見てほしいし、作ってほしいのです

どの作品も、登場人物が汚く泥臭いですが、感動します。
テレビ局は、一般の人には見えない影の部分を、プライドをもって支えている関係者に光を当てて欲しいと切に願います。


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