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新作WEBTOON『晴天のデルタブイ』が、通常の2倍の時間をかけてでも全ての漢字にルビを振る理由

おはこんばんちは!
WEBTOON制作スタジオ「Studio No.9」で編集アシスタントをしている許(きょ)と申します。

Studio No.9は現在、WEBTOON作品(フルカラー縦読み漫画)を鋭意制作中です。

そんなStudio No.9の最新作『晴天のデルタブイ』
が現在LINEマンガにて好評配信中!毎週火曜更新です!

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今回のnoteは
ロケットを飛ばす裏側を巡るアツい話について描く『晴天のデルタブイ』の制作の裏側を巡るアツい話について書きます!!(複雑!)

今回の話は細かいことのようで、Studio No.9ひいてはWEBTOON業界の今後にも繋がる重要な話になると思います。
ぜひ最後まで読んでいってください。お願いします。


【報告】『晴天のデルタブイ』は総ルビにしました

みなさん「総ルビとは…?」となってませんか?
安心してください。知らない方が普通です。
きちんと説明します。

↑ここを押したら読めます!!

まず、読んでいない方はもちろん既に読んでくださった方も、今一度『晴天のデルタブイ』を読んでみてください。

何か気づきませんか?
そうです。

『晴天のデルタブイ』1,2話より

すべての漢字かんじにルビ()がられているんです!!

これがいわゆる「総ルビ」です。

一見「えっただ読み仮名がついてるだけじゃん」と思われるかもしれませんが、実はWEBTOONで総ルビにしている作品はかなり珍しいです。

実例として試しに

において漢字にルビが振られているか調べた結果…
ルビが振られていたのは0作品でした!!(一部固有名詞などにはあり)

つまり、今現在最も売れているWEBTOON作品達にはルビが振られてないんです!!

しかしみなさん思い返してみてください。
現在の国内漫画業界の筆頭である

「少年ジャンプ」

では全ての漢字にルビが振られているんです…!!
他にも「少年マガジン」や「少年サンデー」など多くの横漫画雑誌は総ルビです。

『晴天のデルタブイ』1話より

フルカラーで読みやすさが重要なWEBTOONのはずなのに、現状ルビがない作品が主流なのは一体どういうことなんでしょうか…?

さて、改めて今回のnoteでは

  1. 横漫画と違ってWEBTOONが総ルビにならない理由

  2. それでも『晴天のデルタブイ』が総ルビに踏み切った3つの理由

  3. これからのStudio No.9作品についての展望

について述べたいと思います。

このnoteを通して「WEBTOON業界のイマ」について少しでも知っていただければ幸いです。



横漫画と違ってWEBTOONが総ルビにならない理由


結論から言ってしまうと単純に「時間」が2倍かかるからです。

分かりやすく「ルビなし」の場合と「ルビあり」の場合の写植作業を比較してみました。

『晴天のデルタブイ』2話より

本当に2倍かかってますよね?

具体的な作業内容を言うと

  • ルビなしは「フォント変更→完成

  • ルビありは「行間を広くする→フォント変更→ルビ入れ→ルビ位置調整→完成

と3ステップも多くかかるんです!!
比較画像では漢字が一つだけですが、以下の画像のように複数の漢字にルビを振っていくとなると本当に大変な作業です。


『晴天のデルタブイ』2話より 大変!!

写植作業時間が2倍かかっているということは、会社にとっては人的コストが2倍かかっているわけですね。

しかし、これだけの理由だと
「横漫画の出版社はきちんと全てルビを振っているじゃないか!」「WEBTOONスタジオだけルビを振らないのは怠慢だ!」
といった耳が痛い意見が聞こえてきそうです。

そもそも横漫画の大手出版社と違って、我々を含む多くのWEBTOONスタジオは作中の「インベーダーズ」と同じくベンチャー企業です。
つまり、資金人手も少ない中で、現状大ヒット作品でも行っていない効果が分からない総ルビを試すのはかなり非現実的な選択なのです。

しかも実は横漫画とWEBTOONの性質の違いが、WEBTOONの写植をより困難にしているんです。

その違いが一目で分かる比較がこちら!

右『晴天のデルタブイ』3話より

もう横漫画で説明している通りなんですが、WEBTOONはとにかく縦に長いので横漫画の写植には必要ない「スクロール」の手間がかかります。

1個吹き出しやったら、スクロールして次の吹き出しへ…と
横漫画と同じ吹き出し数であっても、スクロールを1回、1回挟まなければいけないため時間が余計にかかってしまうんです。

その横漫画とWEBTOONの写植時間の差は…

これまた体感2倍!!!

実際、『晴天のデルタブイ』の写植は1話あたり3、4時間もかかってます!(自分がやったので実際の数値です。全然サボらずにこの時間です)

資金も人手も潤沢ではないWEBTOONスタジオにおいて、横漫画の2倍時間かかる写植を、更に2倍の時間をかけて総ルビにするなんて…

はっきり言って無茶してます!!!

では、なぜそこまで時間もお金もかけてStudio No.9が『晴天のデルタブイ』を総ルビにしたのかを、ここからは話していきます。

それでも『晴天のデルタブイ』が総ルビに踏み切った3つの理由

『晴天のデルタブイ2話』より

①漢字が多い作品だから

ここまでの流れから、かっこいい理由を言うと思ったでしょ?
いえいえ「単純に漢字が多いから」というのが1つ目の理由です。

デルタブイ1,2,4話より

『晴天のデルタブイ』は宇宙産業に関わるお話なので、とにかく難しい漢字や固有名詞が多いです。他の作品では、こういった難読漢字固有名詞はリストを作って確認しながらルビを振っています。

しかし、『晴天のデルタブイ』ではルビを振るべき漢字が多すぎて、リストを作っていちいち確認するより、いっそのこと全ての漢字にルビ振った方が楽というわけです。
まあそれでも、総ルビの方が絶対時間はかかってますけどね。

②キャラの名前を覚えて欲しいから

『晴天のデルタブイ』は、『左ききのエレン』などでおなじみの原作者であるかっぴーさんの得意な手法を活かして、「シンセフィクション」という新たなジャンルに挑戦しています。

“シンセフィクション”とは、“フィクション”と“ノンフィクション”の“合成”(synthetic)で、リアルの完全再現ではなく、事実に基づく設定を舞台に、実在人物が持つ本質的な役割、魅力を新解釈した物語。実在の人物をモデルにしたキャラクターたちが、よりドラマティックな世界観を演出する再現ドラマです。かっぴー氏、そしてナンバーナインが得意とするこの手法をWEBTOONにも活用し、“シンセフィクション”をWEBTOON領域における新しいヒットカテゴリーにしていきたいと考えています。

”シンセフィクション”の説明

つまり、『晴天のデルタブイ』に登場するキャラクターは実在の人物をモデルにしているんです。

ちなみに真ん中の美少女のモデルはあのホリエモンこと堀江貴文さんです!!!

なればこそ!実在の人物をモデルにしているキャラクターだからこそ!
キャラの名前を覚えて欲しいわけです!!!

そしてキャラ名を覚えてもらうには
読者がキャラ名を読めるようにしなければいけません!

なぜなら
人間には「聴覚記憶」といった音で言葉を記憶する能力があります。
また、人間は文字を読むときに無意識に文字を読み上げる癖もあります。
つまり、キャラ名に読み仮名を振ったら、読者が心の中で読み上げた時に音と一緒にキャラ名を覚えてくれるはずなんです!

『晴天のデルタブイ』1話より

ほら!このキャラは「いなつきじん」ってもう覚えてくれましたよね!?

③子供達が宇宙産業を目指すきっかけになって欲しいから

『晴天のデルタブイ』5話より

実はStudio No.9が『晴天のデルタブイ』を総ルビ化した最大の理由はこれです。(これまでの2つの理由はいっても他の作品にも当てはまるので)

「宇宙」についての漫画といえば、『宇宙兄弟』や『プラネテス』など数多くの名作があります。しかしそのほとんどが宇宙飛行士について描く作品ばかりです。

もちろん宇宙に関わる仕事といえば宇宙飛行士が花形です。自分もかつては『宇宙兄弟』を読んで宇宙飛行士に憧れました。

しかし、宇宙飛行士は非常に狭き門であり、それを知った子供達の多くは宇宙に関わることのできる他の仕事の存在を知らないまま、宇宙への夢をあきらめていきます。

しかし、『晴天のデルタブイ』では実在の企業をモデルにし、ロケットを飛ばす裏側の仕事に関わる人々について注目したWEBTOONです。
裏側の仕事も狭き門ではありますが、宇宙飛行士よりは遥かに現実的に目指すことが可能です。

『晴天のデルタブイ』2話より

子供達に宇宙飛行士とは別の形で宇宙に関われる仕事の存在を伝えて!

宇宙産業を目指す子供達がどんどん増えて!!

日本の宇宙産業をもっと活性化させる!!!

これが『晴天のデルタブイ』が制作された大きな動機の1つです。

そのために『晴天のデルタブイ』は
全ての漢字に読み仮名を振って、小学生でもこの漫画が読めるようにしました。

この作品を読んだら必ず

「宇宙っていいな!」「宇宙の仕事やりたいな!」

そう思っていただける自信があるからこそ、この作品は通常の2倍の時間と労力をかけてまで、総ルビに踏み切ったのです。

『晴天のデルタブイ』4話より

これからのStudio No.9作品についての展望

WEBTOONはフルカラーで読みやすいため10代の子供達に多く読まれているのでは?といった印象をお持ちだと思います。

しかし、こちらの記事によると、実はWEBTOONは10代の子供達よりも20代、30代の方に多く読まれているのが現状です。(20代でも半数に満たない)

10代の子供達にも多く読まれている「少年ジャンプ」とWEBTOONの差が、今回のnoteで説明してきた「総ルビ」だと自分は考えます。

Studio No.9ではもし今回の『晴天のデルタブイ』が好評であれば、ゆくゆくはすべてのさくひんを「そうルビすることも考えています。

そして可能であれば、この「総ルビ化」の流れが他のWEBTOONスタジオにも広がって、WEBTOONが多くの子供達に読まれる漫画媒体になっていって欲しいと思っています。

『晴天のデルタブイ』2話より

『晴天のデルタブイ』に託したStudio No.9の夢を是非読んで応援していただければ幸いです。

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