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世界が広がったばかりの頃。その目線。

深夜特急の第5巻を読んでいて、とても考えさせられる個所があった。

人生(旅)は青年期も終わりに近づくと、過去を振り返るようになる。昔を懐かしみ。現在に見たり聞いたりしたことを、昔あったことと結びつけて思い起こしたする。というようなことが書かれてあった。

俺はできるだけ。今と、未来のことを書きたいと思っているが、どうしても昔を振り返ってしまう。

本を読んでいるとバスが出てきた。そこで思い出す。17才のころ。取得したばかりの原付免許と50ccのスクーター。

自分の世界が、それまでよりも遥かに広がり。自分はもう、このスクーターがあれば何処へでも行けるのだと。そんな気がした。

実際には大した距離は走らなかった。せいぜい半径30キロ圏内をウロウロする程度。

当時は、20分ほどスクーターで走ったところにあるレンタルビデオ屋によく行っていた。

田舎の、田圃に囲まれた場所にぽつんと立つレンタルビデオ屋。そこでは色々なビデオを借りた。そのビデオ屋で借りた中でも、一番印象に残っている作品は

「この森で、天使はバスを降りた」

という作品。なぜ借りようと思ったのかは思い出せないが、たぶんジャケットの雰囲気に惹かれて手を伸ばしたのだと思う。

その映画を観て、感じたことは。「ああ、よかった」だった。

当時の心境を思い出すのは難しいが。ああ、よかったと感じた微かな記憶が残っている。物語自体は、ハッピーエンドと言っていいし。いや、悲しい結末だ。とも言える。

ただ、ストーリーと、偶然手に取ったことを含め。この作品に出会えてよかったと感じた。

刑務所を出所してきた女性が、なんとなくバスを降り。付近の村の人たちと最初はぎこちなく関り。そしてだんだんと、ゆっくりと。親しくなっていく。森の中で見た美しい創作物。愛の言葉。誤解。そして、最後はみんなの笑顔。

まだ少年と言っていい年だった俺は、「ああ、よかった」と感じた。何とも比べることなくそう感じた。現在の俺がこの映画を観たら。どう感じるだろうか。

またなにか、昔の思い出と比べて。ああ、そういえば似たようなことがあったな、などと想うのだろうか。

いつからか、何かを観たり聞いたりしても。他の何かと比較したり、類似点を探したりするようになってしまった。

そうすること自体が悪いことではないとは思うが。ただ純粋に、ものごとを楽しめなくなってしまっているのではないかとも思う。それは寂しい。

何かにふれるとき。例えば作品。映画や、彫刻。いや、目にする全てを。できるだけ、あの時のように。スクーターに跨って世界が広がったあのときのように。なにとも比較せず、類似点も探さず。
ただただ純粋にものを"みたい"と思う。

(写真:2016年3月 美ら海水族館)



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