ウエズレーの国
小さかった頃の息子と楽しんだ絵本を、私が個人的に懐かしむマガジンの第一回目は、ポール・フライシュマン作「ウエズレーの国」にしようと思います。先日、今はもう高校生になった息子と、小さいころ好きだった絵本について話していた時に、息子が「オレ、あれ好きやったわー、国を作るやつ、なんやっけ?なんとかの国!」と言っていた本です。
この絵本は、息子のその説明がすべてのような作品です。ウエズレーという男の子が、夏休み、自分の家の庭に、自分の国、自分の文明を作るお話しです。少し変わり者で、友だちのいない彼が、ある日ひらめいてこう言います。
翌日にはさっそく庭を耕し、するとその夜、どこからか種が飛んできます。何の種かは分かりません。誰も見たことのない、ウエズレーの為の、あたらしい作物の種です。
この植物はどんどん育ち、やがておいしい実をつけます。ウエズレーは毎朝この実を食べ、絞ったジュースを飲み、硬い皮は乾かしてカップにします。根っこも料理して食べ、茎からとった繊維は、編んだり織ったりして帽子や服にします。種を砕いて油をとり、肌に塗って、日焼け止めや虫除けとして使います。
さらに、日時計を作り、自分だけの時間を作り、あたらしい数の数え方を発明します。ついに、ウエズレーは自分の庭を、”ウエズレーの国”という意味の「ウエズランディア」と名付けます。
さらにウエズレーは、はじめ遠巻きに見ていた近所の子たちも巻き込んで、ウエズランディアをどんどん豊かなものにしていきます。
種を砕いて油をとる仕事を手伝わせてあげたり、虫除けの油を、元いじめっ子たちにもお金をもらってわけてあげたり。最初、自分一人で遊べるゲームを考え、それから、「みんなでやるのも、おもしろいかもしれないな」と言って、大勢でできるゲームを考え、そのルールを辛抱強く友だちに教えます。
屋根や壁のない部屋、空中ベッドを作って、夜はそこで眠ります。楽器を作って奏で、夜空を見上げて、あたらしい星座を作ります。
ひとりぼっちだったウエズレーが、自分の力で自分の基地をつくり、そこに友達を招き入れ、昼間は共に楽しみ、夜にはひとり、夜空を見上げ、笛を吹く。夏の夜の風の匂いや、ウエズレーの吹く笛の音が、手に取るように伝わってくるこの場面が私は一番好きです。豊かさって、幸福って、こういうことじゃないかな、と思うからです。
最終的にウエズレーは、「ウエズレー語」を作り、夏休みの自由研究として、ウエズランディアの歴史をウエズレー語で書き、9月になって学校がはじまるところで物語は終わります。
おまけ、現在の息子と私
久しぶりにこの絵本を出してきて息子に見せると、「これこれ!」と言って嬉しそうに読んでいました。そして一言、「あー!やっぱええなぁ」と。当時どんなところが好きだったのかと尋ねてみると、「自分の世界を作るんやで?めっちゃワクワクしたわ」と言います。「オレも自分の世界を作りたいなー思ってたわ」と。私は続けて、「今はどう?」と聞いてみました。聞くとき、ほんの少しだけ緊張していました。小学生の頃の息子が抱いていたワクワクの気持ちの行方を、ほんの少しだけ案じる気持ちがあったからです。
息子は特に考えることもなくあっさりと、「今もよ」と答えて、自分の部屋へ消えていきました。17歳現在の息子の、”自分の世界を作りたいと願うワクワクする気持ち”は、今もってバリバリ健在の模様で、母としてはほっとしたのでありました。
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