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味を見る・味を探す

土台レシピ5「八方地」 その1 -お浸し & ごま和え-


家庭料理の難しいところは、家によって味が違うこと。惣菜ひとつにも「うちの味」があります。
料理は食材、環境、道具に影響されますから、料理本などをお手本にしても「あれ?」となるのは、当然といえば当然です。

レシピに書かれていることは、必ずしも正解ではありませんから、それを少しずつ変化させていきながら自分の味にしていくのが、「料理する」ということだと思います。味はみんな違っていいのです。
試行錯誤してやっとひとつの料理が完成したときに、はじめて「うちの味」「私の料理」と呼べるのだと。

どの味が正解なのか。それは誰かに聞いて分かるものではありません。
ひたすら味を探していくしかないのです。
料理にうまいへた、おいしいおいしくない、の基準はありませんから、自分の舌で計るしかありません。作ってはまた作る。諦めずにまた作る。その繰り返しです。料理は一生ですねぇ。

おいしさを計るには「味を見ること」がキーポイントになります。
味を見るときや、味が分からないときには、目をつぶってみてください。
視覚を遮断して、味覚に集中するのです。
音楽を聴くときに目をつぶると、聴覚が敏感になって繊細な音をキャッチできますね。それと同じです。
他の感覚を遮断して、より味覚を敏感にさせます。テレビなどが付いていたら消すのも有効かもしれません。

「味を見る」って少し分かりにくいことかもしれませんけれど、舌と鼻の感覚に集中するだけでも違うはずです。
「意識すること」がとても大事で、ボーッと料理したらボーッとした料理になりますし、意識をして料理すると、料理も変化していきます。

味のバランスを知るのに、簡単な方法をご紹介します。
醤油とみりんを同じ割合で混ぜます。

醤油1:みりん1
=八方地

八方地にだしを加えたものが「八方だし」。八方地+だし汁=お惣菜や煮物などの日本料理です。その割合は料理によって違います。
八方地は味のバランスを知るのに良きお手本になります。

実際に、八方地の味のバランスを見てみましょう。
醤油小さじ1とみりん小さじを小皿に入れて、舐めてみて下さい。
目をつぶって、舌と鼻に集中して、味を確認してみましょう。
辛さとか甘さはどうでしょう。
尖った味はありますか?
鼻に抜ける醤油の香りを感じますか?

八方地は辛味と甘みのバランスが取れているため、尖った味を感じないはずです。
みりん風調味料と本みりんは、甘さが違いますし(みりん風調味料は甘みが強い)、薄口醤油は塩分濃度が高いので、味のバランスは変わってきますが。

辛すぎない、甘すぎないバランスを覚えておき、ほかの料理の味を見るときの基準にします。「尖った感じ」を舌で探すわけです。
尖った味とは、甘すぎる。辛すぎる。薄すぎる、濃すぎる。苦み、違和感のある味などです。バランスが取れていると、何かの味だけが飛び出ていないのです。舌全体が平安になっている感覚ですね。

さて、八方地に戻りますが、
八方地を基準の味にして、だしや砂糖などの調味料で調整していけば、様々な日本料理が作れます。
八方地に基本、砂糖は使いません。砂糖はみりんの3倍の甘みを感じると言われていますから、みりんの代わりに砂糖を使ってしまうと、甘みが強くなってしまいます。ですから砂糖はあくまで補助的に使います。

例えば、八方地でこんなものが作れます。
蕎麦つゆ
筑前煮
ひじきの煮物
天つゆ
だし巻き卵
丼のタレ
いなり寿司
生姜焼き
揚げ出し豆腐
佃煮
照り焼きのタレ
がんもどきの含め煮….など。

八方地を「土台」にして、我が家で作る日本料理は今のところ、24品ぐらいでしょうか。この原理を知ると、味の掴みどころが分かってきますので、煮物やお惣菜などの家庭料理が自由自在になります。

八方地は料理するときに醤油とみりん同量を入れるだけでOKですが、事前に作りおきもできます。

《作りおき・八方地の作り方》
醤油1と煮切りみりん1(沸騰させてアルコール分を飛ばす)をきれいな瓶に入れて冷蔵庫で保存する。
(みりんはアルコール分を飛ばすと、その分が減るので、必ず煮切りみりんで計る。)
*昆布や鰹ぶし(お茶パックに入れる)、市販のだしパックなどを一緒に入れると旨味が増す。ただし長時間入れると、乾物の独特のえぐ味が出てくるので、1〜2日経ったら取り出す。
冷蔵庫で保存しておけば3,4ヶ月保存可能。1週間ぐらい経つと調味料の角が取れ、まろやかでおいしくなる。

noteでこれから、この八方地使った料理をご紹介していきますが、今回は家庭料理の基本中の基本、「お浸し」と「胡麻和え」をご紹介します。

簡単と思うなかれ。いつも作っているこういうお料理ほど、おいしくするのは意外と難しいのです。

「ほうれん草のお浸し」

材料(3〜4人分)
ほうれん草 1束
だし汁 240cc
醤油、みりん 各大さじ2
(だし8:醤油1:みりん1の八方だし)

*ほかの菜っ葉でも作れる。
*だしは昆布と鰹のだし、または昆布だし。濃いめに取るのがポイント。だしパックなどを使うときも、いつもより少し濃いめに。

1.ほうれん草を中華セイロで蒸すか、茹でる。
ほうれん草の付け根が1番甘くておいしい部分なので切らない。
茹でるより蒸したほうが、野菜のうま味が逃げない。

蒸すと食材に甘みが出る

2.だし汁、醤油(薄口醤油を使うと素材の色がきれいに出る)、みりん(みりん風調味料ではなく、できれば本みりんを使う)を合わせてバットなどに入れる。

八方だし(8:1:1)にほうれん草を浸す


3.ほうれん草の水分を手でぎゅっと絞って取り、2の汁に1時間ほど浸ける。
食べやすいサイズにカットして食卓へ。

簡単な料理ですけれど、だし、茹で方、調味料によって、ぜんぜん違うものになります。

残ったお浸しの汁はとてもおいしいので、捨てるのが勿体ないですね。
私はこの汁で汁物やうどんを作ることもありますし、下記の活用法もオススメです。

つゆに浸したほうれん草を軽く絞ってカットし、皿に並べます。残り汁を小鍋に入れて沸騰させ、水溶き片栗粉でとろみをつけて、あんかけに。

アノニマ・スタジオWeb連載、宮本しばにの素描料理・第3回「ちぢみほうれん草の浸しあんかけ」で掲載しています。
詳しいレシピはそちらでご覧ください。

ちぢみほうれん草の浸しあんかけ


八方地を使った料理をもうひとつご紹介します。
以前「すり鉢とごま和えのおいしい関係」でもレシピをご紹介しましたが、今回はもう少し掘り下げてみます。

「ごま和え」

材料(2〜3人前)
ごま大さじ3〜4
醤油小さじ2
みりん小さじ2
砂糖 適宜
だし汁か野菜の茹で汁 適宜
調理済の野菜

1.ごまをすり鉢よくする。すり具合は好みで7分すり〜10分ずりで。
2.醤油、みりんを入れてすり、味を見ながら砂糖を足す。
3.調理済の野菜をすり鉢に加えて手で和える。
水分が少ないときはだし汁か、野菜の茹で汁を少量入れて調節する。

*ごまは市販のすりごまを使わず、すり鉢ですると香りや味がグンとよくなります。すり加減は好みですが、音がゴリゴリからスルスルと静かになってくるぐらいすると、消化にもよく、ごまの風味が増します。

数字はあくまで参考です。ごまを多くしたり、調味料の量も自分で替えてください。
醤油とみりんの量を同じに。そして砂糖で甘さを調整する。
これを覚えておけば、あとは自由です。

次は、ごま和えに酢を足して、

「ごま酢和え」

を作ります。

醤油1:みりん1:酢1=三杯酢
すり鉢で胡麻をすり、三杯酢を入れ、好みで砂糖を足します。

きゅうりの中華風ごま酢和え


暑い季節は、生野菜を「ごま酢和え」にしてもいいですね。
上の画像は中華風にしています。
きゅうりに塩を振ってしばらく置いて水を出し、
白ごま+三杯酢+ごま油+七味唐辛子で和えました。

冬は切り干し大根やひじきなどの乾物や根菜を使ってごま酢和えにします。
夏はサラダ感覚で、生野菜のごま酢和えを作ります。
茹で野菜と生野菜を一緒に混ぜてもいいですね。
料理は自由であることを忘れずに。

《ごま和えを素描してみよう》
冷蔵庫の中にある野菜を生または調理する:蒸す、茹でる、焼くなど
+白ごま
+八方地(醤油1:みりん1)または三杯酢(醤油1:みりん1:酢1)
+好みで砂糖、ごま油、オリーブオイル、七味唐辛子、スパイスなど
=ごま和えの完成

土台「八方地」で自由にお浸しと胡麻和えを作ってみてください。
難しく考えず、常識に囚われず、
意外な食材で作ってみると、新たな発見があるかもしれません。

最後に、
アノニマ・スタジオWeb連載「宮本しばにの素描料理第13回・土鍋みそ豆腐」が公開されました!
「閑」についての考察と、
簡素で滋味深い豆腐料理をご紹介しています。ぜひお読みください。

土鍋みそ豆腐


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