宮本しばに

素描料理家。 「素描料理」という独自の料理法を説きながら、台所の世界観を表現。著書「野…

宮本しばに

素描料理家。 「素描料理」という独自の料理法を説きながら、台所の世界観を表現。著書「野菜料理の365日」(旭屋出版)、おむすびのにぎりかた(ミシマ社)「野菜たっぷりすり鉢料理」「台所にこの道具」(共にアノニマ・スタジオ)など多数。https://studio482.net

最近の記事

料理をデッサンする

-土台レシピ18・土鍋タジン- 閑と暮らす 森に暮らして34年になる。隣の家は1kmほど離れていて、人に会うことは滅多にない。車の音もしなければ、人の気配さえない。時折、動物の声や、雨風の音が聴こえるだけだ。 都会から移住した頃は人恋しくて、鬱になりそうなほどの疎外感に苛まれた。この暮らしを理解するほど、私が成熟していなかったのだ。けれど、いつしかこの暮らしが理想的であると思えるようになった。人やモノを意識せずにいられる自由さが、ここにはある。 この暮らしを一言で表すと「

    • むずかしいけど愉しいこと

      土鍋田楽湯豆腐 最近は布で何かを表現するのが愉しくて、暇さえあればチクチクと手を動かしています。こんなに愉しいことが世の中にあったのか、とさえ思います。何かが開けていくような…。こんな気持ちは初めてかもしれない。   「愉しい」という感覚は、一体どういうものだろう。   手探りの中から、自分なりに面白さや意味を‘そこ’に見出していくこと。 朝起きたら「やらなきゃ」じゃなくて、「やりたい」と思うこと。 時間を忘れ、ひたすらに没頭すること。 つまり能動的な’愉しみ’です。 与

      • 独から生まれたる

        土台レシピ17・サブジ - とるにたらない みちたるひ -   この詩を書いたのは友人の写真家、田渕睦深さん。ふと思い出しては日々の暮らしに当てはめます。   例えばそれは、 フクロウの声を聴いた夜。 春の雪解けのときだけに現れる沢の流れに耳を澄ますとき。 羽釜の蓋を開けたときにカニ穴ができているとき。 食卓で夫と「おいしいね」と喜んだ日。   何でもない日常を毎日祝えるのは、私にはどんなことよりも嬉しいのです。   最近は惹かれることだけに目を向けて、人付き合いも少し避け

        • 台所の儀・食卓の儀

          土台レシピ16・野菜焼き 「儀」という字は「儀式、礼儀、祝儀、流儀」など、日常ではあまり使わない言葉が多く、あらたまったときによく使われるので、少し硬いイメージがあります。 日本の伝統文化である武道や茶道でかかせない「礼儀作法」が比較的イメージしやすいでしょうか。   「儀」を辞書で引くと、 ・    美しく形のととのっているもの。 ・    基準となるもの。お手本。 ・    正しい筋道(物事を行うときに踏む順序)という意味合いの「義」に「人(にんべん)」を付けて、人に関

        料理をデッサンする

          わがままになる

          食材ひとつ料理3「麻辣豆腐」 ずいぶん前の話ですが、私が大病をしたとき、イギリスに住むある友人がこんな話をしてくれました。 彼女が通っている鍼灸治療院の先生がこんなことを言ったというのです。 健康になりたいとは誰しもが思うこと。しかし「なりたい」は「なっていない」の裏返しで、そのことへの不安があるということで、その思い(念)が病気に向かわせるというのです。 「病は気から」といいますから、この話は腑に落ちるところがありました。   文化人類学者であり、医学博士の上田紀行さん

          わがままになる

          台所は真剣な遊び場だから

          土台レシピ15・「畑のつくね」 食べたい。 このストレートな気持ちが’おいしい’を作ります。   台所に立つ人は食事を共にする人の好みに、どうしても合わせてしまいます。自分が何を食べたいか、という気持ちよりも、「作らなきゃ」「食べさせなきゃ」が先に立ってしまいます。  私も主婦として、仕事として、長いこと台所に立っているあいだに、自分が食べたいものが分からなくなり、作る楽しさを一時期、失ったことがあります。食欲は失せ、料理は義務的になり、作ることや食べることの喜びを、あまり

          台所は真剣な遊び場だから

          くれない族は料理ができない?

          土台レシピ14・フリッタータ だいぶ前のことですが、作家・曽野綾子さんのインタビュー記事を読んでいて、「くれない族」という言葉を知りました。 くれない族というのは、自分で考えたり、自ら動くことをやめたときから始まるのだと思います。 この曽野綾子さんの苦言を改めて考えると、料理という裏方仕事は「させていただく」という気持ちがあってはじめて、料理とちゃんと向き合えるような気がします。 台所に立ったときに、食材に対して、道具に対して、食事を共にする人に対して謙虚になる、という

          くれない族は料理ができない?

          作る、食べる・それぞれの所作

          土台レシピ13・野菜のラグー Simplicity simplicity(シンプリシティ)とは簡素、質素、気取らず飾り気のないこと。 このSimplicityは素描料理の約束事でもあります。 食材をまっすぐ見て、シンプルに考え、手を動かすこと。料理や食卓がすっきりしていること。無闇にいくつもの料理を食卓に並べないこと。調理自体が複雑ではないこともポイントです。 simplicityというのは簡単とか時短ということではなく、物事をまっすぐに捉え、簡素に形づくることであって

          作る、食べる・それぞれの所作

          マサラとラーガの不可思議な関係

          土台レシピ12・マサラソース ラーガとは インド古典音楽「ラーガ」をご存知ですか? ラーガは、複雑な旋律や音列からなり、そこに即興も加わって、無限の変奏を可能にする旋法です。神への献身や祈りを表現しているとも言われています。 旋法について  少しややこしい説明になりますが、 音の高さを並べたもの(ピアノの鍵盤など)が「音階」です。料理に例えると「食材」が音階。そして、長調や短調などの音の組み合わせ(食材の組み合わせ)によって「旋律」(料理)が生まれますが、旋法というのはそ

          マサラとラーガの不可思議な関係

          料理の物差し

          土台レシピ11・シャクシュカ 味を翻訳する 料理するときに、数字は盲点です。 「レシピ通りに作ったらおいしくなかった。」 というのはよくあること。舌の感覚はみんな違うし、調味料が違えば当然、味に影響します。家族構成や年齢によっても味つけは変わりますし、甘みの強い料理を好む人もいれば、薄味や辛味が好きな人もいる。男子は往々にして濃い味を好むし、私の知り合いには砂糖を全く使わない人もいます。 環境に応じて味を翻訳するのが、台所に立つ人の仕事ですね。 それにはレシピの分量や

          料理の物差し

          寂静を味わう

          土台レシピ10・修道院スープ 修道院を巡る旅 21年前、フランスとイタリアに滞在したときに、いくつかの修道院を訪れたことがあります。 私はクリスチャンではありませんし、だから手で十字を切ったこともありませんけれど、その簡素で独特の空気感を持つ(であろう)修道院に、どうしても身を置いてみたかったのです。 ちなみに「修道院」は、キリスト教会の修道士や修道女が共同生活をしながら「行」をする場所で、教会のように信者が礼拝するところではありません。禅仏教で言えば「僧堂」に相当する

          寂静を味わう

          台所の’気’をデザインする

          土台レシピ9・綴煮 家は自分の分身 料理は重労働です。けれど見方を変えれば、創造的で芸術的で、こんな面白い仕事はないのではないかと思います。そして、それを面白くするのは「台所」の存在が大きいのです。 おいしい料理はまず台所から、であります。 台所はその家の軸のようなもの。家族みんなが出入りする場所だし、そこで日々仕事するわけです。「聖域」と言ってもいいでしょう。 住む人を温かくし、喜ばせ、幸せにするのが台所の役目ですから、良い’気’にしていくのは大事なことです。 私は

          台所の’気’をデザインする

          おいしい境界線

          土台レシピ8・雲片 おいしい、おいしくない。 それは今まで食べてきたものと、舌の記憶で決まるのだから、人それぞれ違った「おいしい味」があって当然です。けれど、そこから少し離れて「おいしさ」というものを見てみると、その境界線は確かにあると思うのです。 おいしい境界線。 それは誰も明確に答えることはできないし、簡単に答えられるほど単純ではありません。料理は算数みたいに答えは出ませんから。 最近はマニュアル通りにやらないと仕事ができないという人が多いと聞きます。料理は想像力と感

          おいしい境界線

          パンのおかず ・ ごはんのおかず

          土台レシピ7・おかずキッシュ 自由に考えて、つくる 料理ってそもそも自由だから、こうしなきゃ、という固定観念みたいなものを取ってしまえば、わりと面白いことができます。 私は厚揚げを薄くスライスして、甘辛タレとキャベツと人参の酢漬けを挟んだベトナムサンドイッチ「バインミー」を作ります。 人参とキャベツの酢漬けは塩少々でもんでしんなりさせ、甘酢+唐辛子をかけてしばらく置きます。酢漬けを作るのが面倒であれば、キャベツと人参を塩でしんなりさせたあと、酢とマヨネーズで和えても。

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          「手」がおいしくする

          料理は手仕事 -土台レシピ6「ドレッシング」- 料理は「モノづくり」であり、台所に立つ人は「作り手」である。 このことは、以前からいろいろな場で伝えてきました。 料理は手仕事だ!と思って台所に入る人はあまりいないかもしれませんが、心持ちひとつで、料理の立ち位置が変わってきます。 陶芸家がろくろを回すように、染織家が手織りをするように、台所に立つ人は手を使って料理するのです。 2年前、AFCフォーラム(日本政策金融公庫 農林水産事業部)で、こんな記事を書きました。 《抜粋

          「手」がおいしくする

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          土台レシピ5「八方地」 その1 -お浸し & ごま和え- 家庭料理の難しいところは、家によって味が違うこと。惣菜ひとつにも「うちの味」があります。 料理は食材、環境、道具に影響されますから、料理本などをお手本にしても「あれ?」となるのは、当然といえば当然です。 レシピに書かれていることは、必ずしも正解ではありませんから、それを少しずつ変化させていきながら自分の味にしていくのが、「料理する」ということだと思います。味はみんな違っていいのです。 試行錯誤してやっとひとつの料理

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