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作る、食べる・それぞれの所作

土台レシピ13・野菜のラグー

目次
Simplichity(シンプリシティ)
知足を考えてみる
 ・モロッコの食卓
 ・ターシャ・テューダー家の食卓
作ること、食べること
 ・食の所作
 ・山頭火のごはん
土台レシピ13・野菜ラグー

Simplicity
simplicity(シンプリシティ)とは簡素、質素、気取らず飾り気のないこと。

このSimplicityは素描料理の約束事でもあります。
食材をまっすぐ見て、シンプルに考え、手を動かすこと。料理や食卓がすっきりしていること。無闇にいくつもの料理を食卓に並べないこと。調理自体が複雑ではないこともポイントです。

simplicityというのは簡単とか時短ということではなく、物事をまっすぐに捉え、簡素に形づくることであって、早く早く!と手抜きして料理をすることとは正反対です。余計なものを削ぎ落とし、芯の部分は丁寧に。それが素描料理のSimplicityです。

知足を考えてみる
知足ちそく」という言葉をご存知でしょうか。
るを知る。与えられたもので満足し、それ以上を求めないこと。あれもこれも欲しいという’気’を捨てて、今あるもので満足する心のあり方です。
食卓にはそんな所作が必要なのかなぁと。

食卓が簡素であると寂しい気持ちになる人もいるでしょう。けれどそれは、簡素だから寂しさを覚えるのではなく、心理的、精神的なもの足りなさを感じるからではないでしょうか。
誰かが台所に立ち、自分のために労力を惜しまずに作ってくれた料理に手を合わせて、作った人も食べる人も一緒に「いただきます」をするところに、寂しさはないはずです。

こんな話があります。
モロッコでベルベル人と暮らす友人が話してくれた食卓事情です。

タジンを食べるときに、日本だったら2人分ぐらいの量を、モロッコでは6人でパンと共に食べます。各自の皿はなく、それぞれがタジン鍋に手を伸ばします。スープを飲むときも、たった1つのボウルで回し飲みするそうです。

日本の家庭では、タジンひとつでは足りないからと、サラダやスープなども作るでしょうし、器もあれこれと食卓に並べるかもしれません。
知足を腹に据えれば、食卓はもっと簡素でいいし、それに対して不満足も感じず、「ひと皿」の幸せを味わえると思うのです。

お腹がいっぱいになれば何を食べてもいいのか…。食卓にいくら料理が並んでも、たくさん食べても、心の充足感が得られないこともあります。
外食したときに、お腹はいっぱいなのに何か満たされない感があったり、宿の夕食で出された皿が驚くほど多いのに、何も印象に残らなかったり。

絵本作家である故・ターシャ・テューダーさんのドキュメンタリー番組で、お孫さんが友人を招いて食事をするシーンを観たことがあります。
彼は静かに台所で野菜と豆のシチューを作り、客人はそれを見ながら、二人で楽しそうに話をしています。シチューが出来上がると、彼は少し大きめのスープボウルに入れて、自家製パンと共にテーブルに運びます。食卓にはスープボウルとパンが置かれ、友人とのゆっくりした時間が流れています。

心の充足感。
食事にはこのことも含まれていることを、忘れていはいけないと思います。
満腹感ではなく、満足感を得ること。
これに尽きるのかなぁと。

作ること、食べること
作る人と食べる人。それぞれの’所作’があるとしたら?
それは、お互いに相手を思いやることだと思います。どちら側に立ったとしても、愚痴や文句を言わないこと。
作る人は、今ある食材を使い、黙って手を動かす。
食べる人はそれに対して「ありがとう」をちゃんと伝える。
それだけで愛情の行き来が成立するところに食のすばらしさがあるのだと思います。

印象に残っているエピソードをご紹介します。

山頭火のごはん
以前、アノニマ・スタジオWeb連載「宮本しばにの素描料理」の中で、こんなことを書きました。

俳人・種田山頭火の家に、友人が来訪するときの話だ。
 三日三晩ろくに食事ができず、体調がすぐれなかった山頭火は、動けない自分のからだを押して托鉢をする。その施しで得たお米でごはんを炊き、唐辛子の真っ黒な佃煮を作り、その友人に振る舞うのだった。
 ごはんと佃煮だけのつつましい食事。これを「無為の食事」でなくして何と言おうか。
 料理は見た目ではない。並んだ料理の数でもない。今ある食材で誠心誠意を尽くすのが、料理の本質だと思う。

宮本しばにの素描料理・第6回
「ズッキーニのサブジ」からの抜粋

山頭火が客人を部屋に通すと、畳の上に直にごはん茶碗と箸を客人の前に置きます。ごはん茶碗はひとつしかなかったので、客人にまずこの茶碗でごはんを食べてもらい、食べ終わったあとで山頭火が食べるのです。(モロッコと似たような話…。)
客人は、ごはんと辛い辛い唐辛子の佃煮を涙を流しながら食べ、ふたりは夜更けまで俳句の話で盛り上がりました。

極貧生活の中で、山頭火が托鉢をしてまでも客人を迎えたかった想いと喜び。唐辛子で佃煮を作りながら、釜でごはんを炊いている山頭火の姿が目に浮かびます。

ほんとうの’ごちそう’というのは、作る人が見えないところで、どれだけ心を尽くせるか。そして、食べる人がそれをどれだけ感じ取ることができるか。お互いの心の通わせ方にあるのではないでしょうか。

土台レシピ13・野菜ラグー
さて、今回は野菜ラグーをご紹介します。
フランスで煮込み料理の総称を「ラグー」と言います。日本ではお馴染みのパスタ料理、ラグーソース(ミートソース)も、元はフランスのラグーがイタリアに渡ったと言われています。
ラグーを英語で訳すとシチューになりましょうか。厳密にはラグーとシチューは違うようですが、少しややこしいので、説明は省きます。

普通シチューには肉が入りますが、私は草食動物なので野菜のみで作ります。

作り方としては、
野菜をオーブンで焼く。

土鍋に移して、他の材料を入れて煮る。
以上。
工程は至って分かりやすいです。

なぜ最初にオーブンで焼くのか? それはおいしいだしが出るからです。
炒めるよりも食材の旨味がぎゅっと閉じ込められるのです。その濃縮された旨味が、煮込みの工程でグンと引き出されておいしくなるのです。
この料理にスープストックを使いませんし、水だけで煮込む料理なので、この工程は必須です。

必ず使う野菜はジャガイモ、人参、玉ねぎ、セロリ。
あとは野菜室にあるものを使います。
是非、多めに作ってください。一晩置くと、味が全体に染み込んで、より深い味わいになります。

オーブンで焼いたり、土鍋で煮込むので、少し時間はかかりますが、手間はあまりかかりません。

野菜のラグーの作り方(5,6人分)
材料
*にんにく2かけ(包丁でつぶす)
*玉ねぎ1個(縦に6つ切り)
*じゃがいも2個(乱切り)
*人参1本(縦に十字切り)
*セロリ1本(5cmぐらいにカット)
*他、数種の野菜:カリフラワー、長ねぎ、キノコ、ズッキーニ、茄子、パプリカ、れんこん、かぶなどを大きめにカット

オリーブオイル大さじ3
塩 大さじ1/2
トマトペースト大さじ1(←カゴメの小分けパックが便利!)
ブーケガルニ1袋(←スーパーに売っています)
コリアンダーシード 小さじ1/2
だし昆布5cm角x2
こしょう

1.カットした(*)の野菜をボウルに入れ、オリーブオイルと塩をかけてボウルを振りながら混ぜる。
野菜の切り方は自由。人参は縦にカットしたり、乱切りしたり。大きめにザクザクと。

ざくざく切った野菜をボウルに入れて、
オリーブオイルと塩をまぶす
《今回使った野菜》
じゃがいも
人参
玉ねぎ
長ねぎ
セロリ
シメジ
ズッキーニ
パプリカ

2.鉄フライパン、またはオーブン皿に1を入れ、オーブンで220度で40分ほど焼く。10分ごとに混ぜる。野菜がこんがりになるまで、様子をみながら焼く。

鉄フライパンに入れて、そのままオーブンへ。
野菜をこんがりさせることで、
旨味を閉じ込め、
おいしいスープになる

3.焼き上がった野菜を土鍋に移し(汁やオイルも残らず入れる)、トマトペースト、白ワイン、ブーケガルニ、コリアンダー、だし昆布を入れ、水をひたひたより少し少なめに入れて蓋をし、30分ほど煮込む。(時間があれば1時間ほど煮込んでも!)
4.味をチェックし、必要に応じて塩をし、最後にこしょうして出来上がり。

オーブン焼きと煮込み、ダブルで火を入れておいしくなる

ブーケガルニは肉や魚のニオイ消しとして使います。肉料理だったらマジョラム、タイム、セージ。魚であればディル、タイム、タラゴンなど。

今回のような野菜や豆のラグーには、オレガノ、タイム、ローズマリー、パセリなど、お好きなハーブを使って構いません。
生や乾燥のハーブが手に入らない場合は、スーパーにパックに入ったブーケガルニが売られてますので、それを使ってください。

我が家は雑草のようにタイムやオレガノが育っていますので、それらを生で使います。
今回は直売所で買った生の月桂樹とローズマリーを乾燥させ、庭のタイムとオレガノと共に麻ひもで結び、4種のハーブをブーケガルニに。イタリアンパセリが加わることもあります。

今回のブーケガルニ
タイム
オレガノ
月桂樹
ローズマリー

ラグーに豆を入れるとリッチ感が出ます。煮豆の白いんげんや金時豆がおすすめです。

ラグーとパンだけではやっぱり足りない、という方は例えば、チーズやパスタを添えるのはいかがでしょうか。
パスタであれば、にんにくオイルで絡めたパスタとか、茹でたパスタをボウルに入れ、Exバージンオイル+茹で汁+パルメザンチーズ+こしょうを混ぜるとか。

ちなみに我が家は一汁一菜が基本。
ごはんと味噌汁と一品料理。パスタとパン。シチューとパンなど。余裕があればもう一品つけます。

たくさんの料理を並べるのではなく、ひとつ、ふたつの料理をじっくり作る。今の私の料理のあり方です。気持ちも楽になりますし、これだけでいいと思えば、料理することが愉しくなりますから。

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