見出し画像

褒めて貰ったら諦めよう

人から何か褒められるとつい「いえーいえいえ、ぼくなんかまだまだです」と言いたくなっていた。

「ぼくなんか何も知りません」「ぼくなんか経験不足です」「若輩者です」「何も成し遂げてません」と。ブンブン扇風機のように手を振り回しながら否定してた。

そう返すのが謙虚な大人だとも思っていたところがあった。だが。

あるときその返しは謙虚どころかおぞましいほど高慢であることに気がついた。

だって「経験が十分なら」「十分知っているなら」「ぼくなんかまだまだじゃなかったら」相手が褒めてくれることに対して「フン」と鼻をならして終わるだろうからだ。当然の評価だと断じて終わるだろうからだ。すごい自分に対して適切に褒めたら単に当然なんだから「フン」しかでないはずだ。

「いえいえ自分経験不足っす!」「まだまだっす!」と返すとき、実は褒められたことを大切にしてすら居ない。相手がせっかく気持ちを出して褒めてくれたのに受けとるどころかベシッとそれを地面に叩きつけて「いやー、ぼくなんかまだまだっす!」「こんなん辞退します」って言ってしまって居るのだ。

相手の褒めを受け取らないのは、それは謙虚ではなく、謙虚な『仕草』でしかなかった。ある種の戦術的擬態だ。相手がせっかく最大限褒めてくれた素敵な自分の側面に対して「いや違うっす!自分ゴミっす!」と返していたのだ。つまり相手の行為や気持ち、相手が認めてくれたぼくの側面を貶めることでもあった。その自分の内心の働きは吐き気がするほど高慢だった。

そもそも「まだまだ自分には経験は積めてない」とは、未来に置いてより十分に自分に経験が積める事前提の発想だ。経験とは財産である、価値である、資格にふさわしいものが貰うものでもある。それをまだまだ欲しいと思っているのだ。無根拠に、自分はまだまだ経験を積むにふさわしいすごい人間だと思っているのだ。無担保に、自分はまだまだ成長の機会に浴するに値すると相手に押し付けている。

これが高慢でなかったら、なんだ。もう自分はおじさんなのにだ。いい加減にしろ(笑)諦めろ。

いつまでそんなキラキラ青少年学徒ぶるのか。他人に甘えるのか。

本心ならいい、本心から「俺って...ヤベェほんとまだまだだ、クソーッ」と思えるならまだ本気で未熟者だからいい。鍛練と経験が必要な内心の証だ。向上心を持つことはダメダメな自分を少しでも良くするためには必須だ。しかし。

でも「私は経験不足です」と謙虚仕草する人に「そうね、やっぱりあなたは経験不足ですね」というと本心なら「そうなんですよ!ほんとーにまだ経験したいこと、身に付けたいことが沢山あるんです!さすがぼくの事をわかってくださって嬉しい」とニコニコして返すだろう。でも大抵は「はぁ!?ふざけるなよ!こっちが下手に出ていればズにのりやがって」と怒るはずだ。

そりゃそうである。まだまだです、という時大抵は「下手にでているだけ」だからなのだ。恥ずかしいが自分もそんな時が多かったと思う。だから、とんでもなく高慢なんだ。褒められて「いやー自分カスで!」と返すのは謙虚ではなく、謙虚『仕草』なんだ。それは単なる自己卑下にすぎないのだ。

少なくとも、自分の中に向上心や克己心があるならばそれを相手に押し付けなくてもいい。言ってしまった瞬間「俺の事を褒めてくれたね?じゃあついでに現状に満足しない俺の素晴らしい向上心も認めろ、褒めろ」ということになってしまう。少なくとも「それをわかって」欲しいから口にだしてしまうのだ。ここまでかいて暗澹たる気持ちだ。今まで褒めてくれた人に対して自分の罪状を書き綴ってるようなものだからだ。

「私なんてまだまだ病」を発症してしまうのは褒めてくれたときに相手の評価から距離をとれないのが原因だ。というより相手のせっかくの気持ちを無視して言葉の内容の意味内容、「評価」ばかり気にしているのだ。

「まだまだ、自分は経験不足」と思うなら黙って経験を積めばいい、褒めてくれた相手の言葉を遮ってまで相手にその気持ちを見せつける必要は、ゼロだ。だからそれは高慢と欲望のなせる技なのだ。

相手が褒めてくれた自分を大切にしない奴は、決してその相手を大切にすることもない。褒めて貰ったら「もっと評価を欲しい」「もっと褒めを寄越せ」という気持ちを諦めなければならなかったのだ。

だから褒めて貰えたらもう諦めて、もう自己卑下と更なる毀誉褒貶に対する欲望はいい加減にして、褒められたことを受け取って

「ありがとう」「嬉しいです」と言おうと思った。またはもっと褒めて貰いたかったら素直に「もっと褒めてください」と言ってもいい(笑)

自意識には苦しめられる。もしかしたら死ぬまでに克服できないかもしれない。人として生まれながら人格は完成できないかも知れない。それは死ぬまでに必要な経験を全て積めないかもしれない、ということだ。でももういい。

だからもういい加減にして、さらに褒めて貰おうと思うのは諦めて、褒めて貰えたら「ありがとう嬉しいです」と言えるようになろうとおもった。そして内心まだまだと思うなら黙って鍛練と修養したらいい。

なので褒めてください(笑)今度からはもっと大切にそのお気持ちを受けとります。受けとる達人になります。

読んでくださってありがとうございます。お話は終わりです。





この記事が参加している募集

自己紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?