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【経理】努力の方向性がわからず、"資格迷子" になる前に。

こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。

企業の経理業務をする中で「努力の方向性がわからないので、とりあえず資格を取得しよう」と考えてしまうことはよくあるでしょう。

今日は「経理業務の中でどう努力したらわからないとき、考えてみても良いこと」について書きます。悩んでいる方の何かの参考になりましたら幸いです。


考えてみても良いポイント3点。

人によって違うと思いますが、努力の方向性がわからないとき、考えてみても良いと思うポイントを挙げてみます。

①資格迷子になっていませんか?

極端な例ですが、例えば外国法人から受領した英語の請求書が読めずに自分だけでは作業を進められなかったり、海外親会社との英文メール対応で時間がかかったりした場合に、「英語力が足りない→TOEIC900点以上とる」という発想になってしまうことがあります。

そもそもやるべきことは「受領した英語の請求書の内容を理解する」「ビジネス英文メールを書けるようになる」ことであるはずです。それを「英語力が足りていない→TOEIC900点を達成すべき」という問題にすり替えてしまうと、お金と時間をすり減らしてしまいます。

単に英語の請求書を理解するだけであればGoogle やChatGPTで充分です。さらに、日本の商習慣と異なっている部分については上司にそのポイントを聞いた方が確実です。また、ビジネス英文メールを書けるようになりたいのであれば、そのためのピンポイントのトレーニングをすべきです。(オンライン添削などで安価に、かつ、簡単に取り組めます。)

もちろん、資格勉強をしたところでその勉強が完全に無駄になるということはありませんが、資格勉強のために時間がとられ、本来の実務のためのトレーニングに時間を使うことができなくなります。また、多かれ少なかれ家族や友人に負担をかけます。なかなか資格取得がうまくいかずに勉強を継続することになり、例えば「TOEICの点数を上げるためだけの勉強」を何年も続けてしまう例も見受けられます。

(趣味ではなく、業務のために)資格の勉強を始めてしまいやすい方は、資格の勉強を始める前に「本当にそれは資格(知識・技能)の問題なのか」ということは考えてみても良いと思います


②改善策を人に相談していますか?

業務上でうまくいかないとき、自分に何が足りていないのかを客観的に知ることは難しいです。単純に上司や同僚に相談してみるのも良いでしょうし、ひとり経理であれば、経営者や顧問税理士に相談してみるのも良いと思います。

業務がうまくいかず悩んでいる経理さんにお話を伺うと、相談をせずにひとりで考えている方が割と多い印象を受けます。社内で週1回のOne-on-one MTがあったり、評価制度があれば定期的に相談する機会が得られますが、時間とリソースが足りない中小企業では、なかなかそうもいきません。

ただ、自分から相談すれば相手は一定の回答をしてくれますので、外から見える自分のひとつの評価を知ることができます。

例えば、上記①で挙げた「外国法人から受領した英語の請求書が読めずに自分だけでは作業を進められなかった」ときに相談してみると、自分では考えが及ばなかった論点も多数出てくることになります。

・外国法人に支払をする際には、源泉徴収しなければならないことがある。
・租税条約の届出が必要な場合もあるので、事前検討が必要になる。
・外貨建の請求を記帳する際には、円換算にルールがある。

人に相談すると「これは英語力の問題ではなかったな」ということがすぐにわかり、そのほかにも自分が理解すべきことが数多くあることがわかります。

③具体的な目標を設定をしていますか?

例えば「あのマネージャーのような経理になりたい」と考えたとき、「そのマネージャーが公認会計士の資格を持っているから」というだけで、公認会計士の資格勉強を始めてしまう方がいらっしゃいます。

具体的に「そのマネージャーのどの部分が目標の対象か?」ということを挙げて頂くと、「話し方」や「マネージメントのやり方」という、会計士資格とは直接的に関係のない部分の資質であったりします。もちろん、公認会計士の資格勉強の中で得られる知識は無視できませんが、別のアプローチでトレーニングすれば、もっと直接的に目標に近づけるはずです。

資格勉強を始める前に、「具体的な目標を明らかにし、目標とその資格勉強は乖離していないか」ということは考えてみると良いと思います。

【補足】会社側:適切な評価制度で、資格迷子をなくす。

企業の経営者からのご相談で「経理スタッフが真面目なのは良いが、資格迷子になっているように見えるので心配だ」「仕事に役に立たない勉強に時間を使っているように見える」というご相談を受けることがあります。

会社側の体制としての問題点は、次のようなものでしょう。
①スタッフを適切に評価する仕組みがない。
②企業が求める経理スタッフの在り方を示せていない。
③スタッフ本人とコミュニケーションがとれていない。

例えば①・②が理由で、スタッフ本人が自己判断で直接的関連性が薄い資格勉強を始めたりします。

また、①・③が理由で、会社側がスタッフ本人の実際の状況を把握できていないこともあります。単に趣味で資格勉強もする方も多く、しっかり話を聞くと、資格勉強は仕事に影響のないように工夫されていたりします。

特に優秀な経理スタッフの場合、③は非常に重要です。現在の業務とは直接関係なくても、今後のキャリアを見据えて資格勉強をしていることもあるからです。全くコミュニケーションがとれていないと、思わぬタイミングで退職されてしまうことがあり、会社にとっては大打撃です。

企業の成長に合わせ、関連企業の別のポジションなどで継続して働いてもらえるようなコースが考えられるならば、その未来を早くから提示しておくことも可能でしょう。


資格迷子になる前に。

資格勉強は必要な知識を得るために最も簡単な手段だと思います。また、会社や上司が評価してくれないために、自己評価の手段として資格勉強する方もいらっしゃるかもしれません。ただし、資格勉強の中には、人生へ影響が無視できないほど大きいものも含まれています。

是非、より良い業務のために、より適切な努力の方法を見つけてみてはいかがでしょうか。


ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。