見出し画像

【経理】税制改正の対応は、何を目指して進めたら良いか?

こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。

インボイス制度導入、電子帳簿保存法改正、定額減税導入と、企業が取り組まざるを得ない大きな税制改正が続いています。

今日は、「税制改正対応に企業が取り組むときは、何を指標めじるしとしたら良いのか?」ということについて書きます。


最も尊重するものは、"顧客 "と "従業員"。

最初に私が思う結論を書くのですが、「最も尊重すべきなのは、顧客と従業員」だと思います。法律やルールの文字面ではありません。

もちろん「日本で事業を展開する企業が日本の法律・ルールに従う」のは当然なので、「顧客や従業員を守るためなら、法律やルールを破って良い」ということではありません。

ただ、その法律やルールの "趣旨" を無視してその "文字面もじづら" だけに縛られると、向かう方向性を間違えてしまうことがあります。

税務の若輩者なりに今やっと理解した(と信じる)ことがありますので、納得できたところまで書いてみたいと思います。

1)法律・ルールの "趣旨" を理解する。

税制改正があった際、会計・税務に関わる方がまずやることは、「その法律やルールの趣旨を理解する」ことです。

政治的背景をゼロにして、純粋に「改正の趣旨」について思いをはせると、それほど拒絶反応が出る税制改正はないと思っています。必要だからこそ改正されるものであり、個人的には「もっと早く対応して欲しかった」と思う税制改正の方が多いです。

そして、税制改正のために企業活動が制限されるようなことは、本来は想定されていないはずです。

具体的に個々の税制改正の趣旨を理解していないと、取り組み方自体に影響したり、イレギュラーなトラブルに対応できなくなってしまうこともあるでしょう。

2)法律・ルールの "要請内容" を理解する。

趣旨を読み込んだのち、その法律やルールの要請内容を理解するように努めます。

大きな税制改正がある際は、国税庁がQ&Aの形式で詳細を公開することが多いのですが、そのQ&Aを何度も読み込むことで、具体的に求められる要請内容・要請水準を把握します。

残念ながら、こうしたQ&Aは税制の施行日以後にも更新されてしまう(=施行日の前日までににすべてが明確化するわけではない)のですが、"改正の趣旨を理解していれば大筋で誤ることはない" というのが近年の感触です。


3)自社の "対応方法" を決定する。

①誰が責任を取るかを決める。

「請求書発行手続関係の税制改正だから、経理部主導で(→経理部が責任をとる)」「給与計算関係の税制改正だから、人事部主導で(→人事部が責任をとる)」と、安易に責任所在が決まってしまうこともあるのですが、会社によって状況が違うので、責任の所在を決めることは非常に大事です。

担当部署のスタッフが税制改正対応業務に向いているタイプならば良いのですが、そうでないタイプの方もいらっしゃるでしょう。降って湧いたような税制改正対応を急に経営者から託されても、無理が過ぎるというものです。

管理部出身の経営者でない場合であっても、経営者が「万一のときには自分が責任をとるから」と言ってくれれば、担当部署も非常に取り組みやすくなります


②いつまでに対応するか決める。

本来ならば「改正税制の施行日前までに」ということになるでしょう。

ところが、その企業の状況によっては「普通ではとても間に合わない」こともあります

そのような場合でも、その担当部署が「想定の何倍も超える無理をして」間に合わせることがあります。そして、その無理の反動で社内の他部署との間に大きな軋轢を生んでしまうこともあります。

担当者は逐一進捗状況を報告した上で、「到底間に合わないとき」はどう覚悟を決めるか、経営者の判断を仰ぐことが必要になります。

③どのように対応するのか決める。

意外に企業の担当者からよく伺う意見があるのですが、それは「改正内容が緩すぎるが、本当にこんなに緩くて良いのか」ということです。

多くの税制改正においては、どの企業でも対応できるようにするため、非常に多くの「特例」があります。

ただし、それらの「特例」の中には、「普通の商習慣では考えられない」「直感的に違和感を感じる」ような特例も多く含まれています。対応が難しい企業を取りこぼさないようにするための苦肉の策が含まれるからです。

ところが、ここで「自社の状況にそぐわないような、"甘い判断"」をすると、制度開始後に顧客からクレームが届いたり、従業員から不満の声が挙がることにつながります

「自社は、その特例を採用して良いのか?」
「どこまでを自社の品質とするか?」

税制改正のレベルを適切に見極め、自社の具体的対応を社内で検討・決定・運用することは、非常に重要です。

向くべき方向は、法律の文字面もじづらではない。

税制改正において、第一に向くべき方向は "顧客" と "従業員" であり、法律・ルール上の文字面もじづらではないと思います。

是非、経営者・担当部署のみならず、会社全体で税制改正に取り組んでみてはいかがでしょうか。

                             ***

ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。