見出し画像

【雑談】すべての給与計算ソフトに、"賃上げ促進税制の集計判定ツール"が欲しい。

こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。

令和6年度の税制改正大綱では、賃上げ促進税制の大幅な拡充が盛り込まれました。

この税制ですが、基本的には「前期と当期の従業員給与金額を比較して、"賃上げしている法人"と認められるような一定の要件に該当すれば、税額控除(法人税を少なくする特例)を受けられる」ものです。

特に、従前は赤字の年度ではこの税額控除は適用できなかったのですが、中小企業型の税額控除では5年間の繰越ができるようになったため、基本的には毎年集計することになりそうかな、と考えています。

今日は、この "賃上げ促進税制に必要な給与金額集計ツール" を、すべての給与計算ソフトに装備して欲しい、という話をします。


経理部は、給与情報のアクセス権がないことも多い。

経理部では給与を支給したという会計処理はしますが、給与明細情報にはアクセスできない、という会社も少なくありません。

経理部が給与情報のアクセス権がない場合にこの税制を適用しようとすると、時間と手数がかかってしまいます。この税制の適用に際しては、会計帳簿だけでは適用要件と適用対象金額の検証ができないからです。

①給与金額の確認 → 会計帳簿(経理部)
②根拠資料としての給与情報の確認 → 給与台帳(人事部など)

記帳されている金額が正しいか(+昨年と同様の基準で記帳されているか)という検証をするために、必ず給与台帳の数値と比較することになります。帳簿に記帳されている給与の金額と、その根拠資料としての給与台帳の金額がいちどで整合すれば良いのですが、そうそううまくはいきません。

この税制の給与の金額集計には一定のルールがあり、すべての従業員給与を単純に合算すれば良いというものではないからです。また、帳簿上は給与の引当計上(実際支給額ではなく、見積金額を計上)をしていることも多く、帳簿との整合性の検証には、意外に時間がかかったりします。

経理部が給与情報にアクセスできない場合、経理部と人事部の間に入って不一致の理由を探り、ひたすら時間を使うこともあります。

残念ながら、最終的に一致を確認できても、翌年にそれぞれの担当者が変わって基準やレポートが変わってしまい、またこの作業を最初からやり直すことも少なくありません。

12月決算法人でない限り、手作業が発生する。

当然ですが、給与情報は暦年(1~12月)で集計されるのが基本です。法人の決算期は12月でないことも多いため、賃上げ促進税制の検討のために給与データの集計をしようとすると、給与ソフトからデータをエクセルなどに出力して加工することになります。

ちょっとした作業ではありますが、エクセル作業の能力は、人によって違います。エクセル加工を誤って、集計を誤ってしまうこともあります。

いっそのこと、給与ソフト上で判定できれば良いのにな、というのが正直な気持ちです。

中小企業型は割と楽に集計できるが、大法人型の集計は煩雑。

この賃上げ促進税制は、「中小企業型」の場合は判定がそれほど難しくありません。給与計算ソフトに賃上げ促進税制の判定機能が標準装備されていないのは、これが一番の理由だと思います。(令和6年度改正では、「中堅企業型」が追加されるようです。)

一方、大法人型の賃上げ税制は、個々の従業員ごとに整理して金額を集計しなければならず、集計作業が煩雑です。そのため、集計が煩雑な「大法人型」だけ注意しすれば良いですよね、という話になりがちです。

厄介なことに、「大法人型」の賃上げ促進税制は、「ぱっと見は中小企業に見える会社」に適用される場合があります。個社では中小企業ですが、親会社の資本金の金額などの影響により「大法人型」の賃上げ促進税制になるので、「大法人型」の賃上げ促進税制の判定が必要になる法人は、意外に多いのが実情だと感じています。

弊社の顧問先の件数で言うと、個社では「中小企業型」に該当する法人の3分の1が、賃上げ促進税制の判定上は「大法人型」です。顧問先のご担当の方の作業負担に直結するので、もう少し簡単に集計できれば良いのにな、と考えています。

唯一のデメリットは、「検証が面倒」な税制なので。

今回の大幅な拡充改正に伴い、集計・検証をする頻度は増えるものと思います。それならば、年度決算に関わる全員が時間を無駄にしないやり方が望ましいでしょう。

唯一のデメリットは「検証が面倒」という税額控除なので、適切に、適用できるすべての法人に適用して頂きたいと思います。(今はただ地道に、各ソフトの「お客様の声」に要望メッセージを送ったりしています。)

           ***

ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。