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【経理】「"誰にでも" 伝わる資料づくり」は、目指さない。

こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。

最近、自分が事業会社のチーム経理で働いていた頃のことを振り返る機会があり、思い出したことがありました。今日は「伝わらない資料はトラブルの元なので、伝わる資料づくりを心がけよう」ということについて書きます。

そもそも「自分の資料が常に『伝わる資料』か?」と問われると痛いところですが、自分のことは完全に棚に上げて、今まで考えてきたことを整理してみたいと思います。


「伝わらない資料は『ゴミ』」の衝撃。

20代の頃、事業会社のチーム経理で働いていたときのことです。自分はいつものように資料を作り、先輩にレヴューをお願いしました。ただその日は、いつもとは違うレヴュワーの方でした。

先輩は私の資料をさっと見て、いくつか質問をしてきます。質問に対する私の回答を聞いてからゆっくり首を横に振り、私に目を向け、淋しそうな笑顔でこう言いました。
「これでは誰も理解できませんよ。せっかく作ってもらったけど、混乱を招くから、これは捨てますね?伝わらない資料は『ゴミ 』と言うんですよ。」

えー、『ゴミ』ー!?

自分にとっては時が止まって感じられるほど衝撃的な表現でしたが、同時に、痛烈に効いた言葉でもあります。その後、自分は「2度と『ゴミ』とは言わせない」をモチベーションに、「相手に伝わる資料づくり」にこだわるようになりました。(実際にはその後も何度か言われることになったのですが、何とか合格点をもらえるようになりました。)

この1エピソードだけを切り取ってしまうとその先輩の人となりが伝わりにくいのですが、裏表のないスカッとした方で、公私ともに尊敬できる方でした。経理を始めたばかりの自分がベテランの諸先輩方に囲まれてなんとか仕事を継続できたのは、間違いなくその先輩のおかげだと思っています。

時代が違うので、その表現は自分では使わないようにしています。ただ、「伝わらない資料の悪」を明確に表現した言葉だと思っています。

余談ですが、各業務の重要性を伝えようとするとき、その業務の本当の重要度を伝えられていないように感じてしまうことが多いです。伝え手の不出来は関係なく、業務の本質を正確に受け取れる「デキル若手」ばかりが順調に成長するのを見ていると、「今の自分が当時の先輩の立場だったとしたら、あの時代の未熟すぎる自分のことは救えなかったのではないか」という感覚になります。もっと良い伝え手を目指したいものです。


伝わらない資料は、諸悪の根源。

経理の仕事を続けていくと、伝わらない資料がトラブルの元であることがわかってきます。

<伝わらない資料のトラブル例>
①他の人が資料を読む → わかりにくいため読解に時間を使う
②他の人が資料をベースに作業をする → 内容を取り違えてミスをする

結果的に「この資料があったから利用してしまったが、ないほうがマシだった」ということも起こります。

さらに問題なのは、他の人に伝わらない資料を作ってしまう方は、自分用のメモもわかりにくくなってしまうことです。そのため、「自分で書いた自分用のメモ」を見て作業していても、ミスや手戻りにつながることがあります。

チーム経理では、新人スタッフが「作業マニュアルの更新」などの作業を任されることが多いと思いますが、それは「作業手順を覚えるとともに、伝わる資料を作れるようになるため」だと思います。もし「この地味な作業、嫌だな」と思っている方がいらっしゃいましたら、「伝わる資料を作る技術を磨く、良い機会」と考えてみてはいかがでしょうか。


そもそも、「伝わる資料」とは?

それでは、伝わる資料とは何なのでしょうか?

自分の考える「伝わる資料」は、「相手が、何をしたら良いかがわかる資料」です。

・レヴューしてもらう場合は、レヴュワーが何をレビューしたら良いか。
・承認してもらう場合は、承認者が何を承認したら良いか。

「相手が何をしたら良いかがわかる資料」なので、例えば何かの試算のレビューをしてもらうのであれば、資料内でその「試算の前提」や「数値の根拠資料」、「参照箇所」などを明示しなくてはなりません。

また、例えば作業マニュアルであれば、「読み手が最初から順に読み進めれば、不足なく完了できる」ような書き方にすべきでしょう。その作業に必要な事前準備があれば、その事前準備の内容から記載するのも良いかもしれません。

仕事を始めて最初の3か月程度は、「過去の資料と同じように」「同様の案件があれば、同じようなフォームで」作成しているだけで上長の合格点が出ることがほとんどです。そして理解力・習熟力が高い方は、この「過去資料の真似をする」段階で、伝わる資料の作成技術を自然に身に着けることができるでしょう。

ただ、この初期段階で伝わる資料を作る技術を身に着けられていないと、その後の資料作成時につまづいてしまいます。


「"誰にでも" 伝わる資料づくり」は、目指さない。

資料を作成するとき、その資料を見ると想定される「相手」は必ずいます。顧客かもしれませんし、上司・同僚かもしれません。もしくは、自分自身かもしれません。相手が決まるからこそ、その資料の作り方は決まります

これを「誰にでも伝わる資料を作る」という曖昧な目標設定にしてしまうと、資料作成は永遠に終わらなくなります

また、レヴュワーによるかもしれませんが、作成された資料の読み方や作成方針、内容の簡潔なサマリーなど、別途口頭で説明を求める方も多いのではないでしょうか。

日々の業務は、時間との闘いでもあります。必要以上に時間をかけて見やすい(と自分が信じる)資料を作成するよりも、ざっくり大まかなものを作成し、口頭説明で補足する、というような方法が好まれることもあります。このような資料づくりはまだ生成AIでは対応できないと思いますので、自分で調整できる力が必要です。

職場の状況や上長のタイプによるかもしれませんが、それぞれに合った方法を選んで頂いたら良いのではないでしょうか。


伝わる資料づくりを。

資料の作成方法は職場や部署によって違うと思いますし、体裁や書き方も人それぞれだと思いますが、伝わる資料を短時間で作成できる方は、どの職場でも重宝されると思います。

是非、伝わる資料づくりにこだわってみてはいかがでしょうか。


最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。

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