ある中堅中高一貫校の話

私は中学受験で中堅中高一貫校に入学した。
当時(約50年前)は東京の男子校の入試日はほとんど2月1日に集中していて、2次募集も一般的ではなくほぼ単願に等しかった。
当時はまだ渋谷教育学園は女子校で、聖光学院、浅野、市川など千葉、神奈川の私立はさほど進学実績がよくなく、東京からわざわざ受けに行く学校でもなかった。

一発勝負であったことを考えると失敗できなかったので合格確実なところを受けたのである。
入学したもののあまり嬉しくはなかった。自分にはレベルが低すぎた。
だから中学位までは定期試験の時にちょこっと勉強したり宿題をやる程度で特別のことはしなかったが成績は良かった。
東大でも医学部でも入れそうではあったが、この学校では毎年東大合格者は浪人も含めても数人であり、平均的な生徒はMARCHレベルであった。だから受験指導もMARCHレベルである。先取り学習もあまりやらない。生徒がついて来れないのだ。
ちなみに今はこの学校は東大合格者を徐々に増やしつつあるのでもっとしっかりしているだろうと思うが、当時はこんなものであった。

学校に合わせていては東大や医学部は無理だということはわかっていたが、もたもたしているうちに高校1年くらいまで終わってしまった。

高校2−3年は同じ担任であった。(国立大理系コース)
担任はこの学校の卒業生で、旧制第一高等学校
つまり今の駒場東大に入学している。数学者を目指していたそうだ。
当時はここから東京帝国大学に入るには試験があった。
が、担任は病気のため進学を断念せざるを得なくなり、戦後別の大学に入り直し母校の数学の教員になったのである。
彼の息子もこの学校の卒業で、東大理1に現役で合格している。(のちに文転しているが)

つまり、親子2代でこのパッとしない学校から東大入試を突破しているのである。
じゃ、その親子2代東大合格の極意を我々生徒に伝授してくれるのか、と思いきやそんなそぶりは全くなかった。

それどころか、担任は
この学校から東大に行く人はなぜか血液型がO型だ
とかいう謎の理論?を展開し、生徒の血液型を聞いて回ったりした。

それと、担任は河合塾一押しであった。
駿台はもう教材が古いので新しい河合塾に行け、と

えっ? 新しい河合塾に行け?

当時河合塾は東京に進出してきたばかりの新参者でまだ得体が知れなかった。
できたばかりで机が新しく綺麗だということだけは広く知られていた。そのため
「講師の代ゼミ、生徒の駿台、机の河合塾」
などとからかわれていたのである。
果たして、新しいのは机か?教材か?

じゃなくて、A型の俺にも東大合格の秘訣を教えてくれよ〜
と言いたかったが、それは河合塾に行くことか?と反感を抱きつつも思って、高3になり本当に河合塾グリーンコース(東大受験高校生向け)に行かせてもらった。(当時は東大コースしかなかった)
が、途中で勉強が忙しくなり(?)行かなくなった。勉強の仕方がわかったら予備校に行く時間がもったいない。

一応東大じゃないが現役で工学部に入りその後はほぼ予備校なしで医学部にもあっさり受かったのだが、高校生の時に河合塾に行ったことがその後の受験にどれだけ影響したのかはよくわからない。
まあ東大を受ける(と言っている)他校の生徒たちと一緒になったのは良かったかもしれない。全然友達できなかったけど。

グリーンコースには他に二人通っていたが、現役で東大に入ったのは結局一人だけであった。

というかこの学校では東大以前に第一志望にまともに入れた奴はあまりいなかった。

しかし高校時代成績があまり良くなかったのに1浪で東大に入れたのもいる(血液型O型)のでしっかり指導すればもっと合格者を増やせるはずである。進学校を名乗っているくせにしょうもない学校だなと思っていた。


だが、あれから40年経ってみると案外悪くないものだと思うようになった。

親しかった当時の国立理系クラスの友人は現在なぜか皆博士号を持っている。
進んだ大学は皆バラバラ、第一志望じゃなかったり、浪人したり、私立だったり、大学院の試験に落ちたとか、他大学に移ってやっと博士号を取ったとか、苦労している。
しかし、一筋縄には行かなかったが研究者になりたい奴は研究者になり、医者になりたい奴は医者になれた。

実際、なってみたら理想と現実は違ったかもしれないが、同窓会で会うと工学部時代の友人よりも医学部時代の友人よりも皆楽しそうに見えるのだ。

超進学校だと優秀な同級生に劣等感を持ってしまうというが、ここは違う。みな大したことはない。大した受験指導もしない。
でも放っておいても、気づいたら皆それなりになりたい自分になっていた。

この学校は、これでいいのだ。

東大に合格する極意なんて教えたってしょうがない。
担任はそのことを一番よくわかっていたのかもしれない。







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