【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 「永遠のお客様:後編 Last Part」(No.0104)

後編 Part.2のつづき

 「私は、私を含めた他の店員さんもお客さんも全ての人が、まるでその一番下手な人達のために準備され仕立てあげられた舞台の様に感じたのです。脇役やエキストラのような。」
「マモルは、そのダイコンが主役のように感じたということですか?」
「まさにそうです。あの図太いふてぶてしい態度はまさに自分達が主役であると自覚している顔でした。
ただただお客さんの目線しか持たない人達、どんなに頑張っても世の中の半分しか理解できない極端にバランスを欠いた人達です。
ここまで極端に目線を欠如した存在は、普通ではありません。悪い意味で特別な存在でしょう。
右へ左へ、何処へ行こうとも常に彼らは『お客さん』であり続けるのです。」
「マモル。私はまだあまり良く理解できていないのかも知れませんが、しかし不快で不気味な感じがしますよ。」
「私はね、ヨシオ。この両方の目線を獲得することが学びであり、成長であると思いました。何故なら彼らは皆総じて、ただただ幼稚で恥知らずで愚かにしか見えなかったからです。随分と着飾っていましたが、彼らの極端にバランスを欠いた人生は、つまるところ成長しないで生きてきた証なのですよ。」
「何やら厄介な匂いがしますねマモル。そういう人達は大抵トラブルになるものです。」
「全くそうです。そんな極端な人達を誰も理解なんて出来ませんし、彼らは偏った目線しか持ち合わせていませんから、相手を理解できませんし、しようとも思いません。
しかし立場としてはお客さんが上というルールがあると、結局は正しいかどうかではなく、力関係で無理を通されるのです。」

マモルの言葉にヨシオは少しため息をつきました。

「ヨシオ、人は子供だってそうですが何かをしてもらったら感謝したり、お礼として何かを代わりにしてあげたりするものですよね?ですが、彼らは常に貰いっぱなしです。お金を払うことでそれはもう済んでしまったと考えているのです。しかしそうでしょうか?感謝やお礼の気持ちというのは支払いとは別に有る気がしてならないのです。その気持ちの交換みたいな関係性が彼らからはただの一度も感じなかったのです。」

ヨシオは下を向いて首を降っています。

「マモル、それは本当に残酷な話です。それで彼らは幸せなのでしょうかね?誰とも理解しあえず、常にお客さんなのですから知見は広がりを見せない。人との関係はそれでは築けないのではないでしょうか?」
「そのとおりです。彼らは人と関係を築くことが出来ないでしょう。利益関係だけしか築けないはずです。何しろ極端な片一方の目線しか無いのですからね。幸せかどうかも言うまでも無いと思います。
しかし彼らはそれしか知らないのですから、自分が幸せなのか不幸せなのかを確認する目線すら持ちあわせてはいないのでしょう。」
「なるほど」

ヨシオは改めて自分たちのお皿に残されたホットケーキに視線を落としました。

「このホットケーキのトッピング1つ取ったって、どれほど素晴らしいものかが、私には手に取るように分かります。輝きもぬくもりも喜びも全部わかります。ここにあるのはただの小麦粉や砂糖や果実やチョコチップでは無いのです。それはただの物質です。その素材を人が誰かのために、その人の気持の為に、心のために、考え、想いを尽くしたその愛がこのお皿には盛られているのです。」

ヨシオはフォークを取るなり、勢い良くはぐはぐと食べ始めました。
その姿は先ほどの慇懃な姿と違いややみっともなささえありますが、しかしマモルにはこの姿こそ嬉しく感じました。

「そう、それですよヨシオ。私は嬉しいです。しかし彼らには永遠にわからないのでしょうね。」

マモルも自分のお皿に残されたホットケーキを食べ始めました。
ホットケーキは熱を失い少し生地も固く締まっていましたが、食べごたえは増しており、それを流しこむのには溶けた氷で薄まりサッパリした喉越しに変わったキンキンのミルクがとても良く合うのでした。


【グッドプラン・フロム・イメージスペース】

「永遠のお客様:後編 Last Part」(No.0104)


おわり


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