【グッドプラン・フロム・イメージスペース】Episode.6「賢い子にはケーキをあげる」(No.0059)



 コロナウイルスの騒ぎで学校の寮が閉鎖されてしまいました。


その学校の生徒である兄弟のスグルとヒロシは久しぶりに実家に帰ることになりました。


帰ってみると、父がテレビを観て怯えていました。


スグルは尋ねました。


「私の父、何を怯えているのですか?」

「私の長男。何をなんて聞くことはありません。ウイルス以外にないでしょう?」


ヒロシは驚き口を挟もうとしますが、兄と目が合い遠慮しました。


「私の父。あなたは昔から今の日本会議が支配する政権を嫌っていた筈です。心変わりをしたのですか?」


彼らの父親は怒りを滲ませました。


「私の長男よ。冗談にもそんな事を言ってはいけません。私は心変わりなんてしません。何時だって、この愚かで無能な政権を信じてなどいないのです。」


暇を持て余したヒロシは水を3つのコップに注ぎ、お盆に乗せてふたりに配った。


スグルはヒロシから受け取った水を一息で飲み干し、コップをヒロシに返しました。


「ヒロシ、もう一杯ください。」


ヒロシはスグルから受け取るなりまた汲みにいった。


「私の父、あなたは今の言葉に間違いがあるとは考えませんか?」

「私の大事な長男、間違いがあるわけありません。」


ヒロシは今度はお盆に乗せずコップを手に持って戻ってきました。

しかし自分のコップも持っていた為にどちらが兄のものか少し迷ったりしました。


スグルは彼の右手を指差し、受け取りました。


「私の父。それならばあなたは矛盾を抱えている訳です。あなたがこの政権を嫌いであればあるほど。」

「私の大事な長男、私の抱える矛盾を教えなさい。」


スグルは水を一息で飲み干しました。しかしコップはヒロシに渡さず握ったままでした。


「私の父、この政権を憎み嫌っていますね?」

「はい」

「彼らを信頼していませんね?」

「はい」

「ならばどうして彼らの伝える報道を信じるのですか?」


彼らの父はコップの水を一息で飲み干しました。

ヒロシはコップを受け取って汲みに行きました。


「私の父、今の政権が報道も司法も企業も支配していることは存じている筈です。」

「私は知っています」

「ネット上でも工作員を使い情報を操作していますし広告代理店を使う事も昔からやっています。」

「そうでした。」


ヒロシは汲んできましたが、下を向いている父に渡せずに困っていました。

見かねたスグルはテーブルに置くことを勧めました。


「私の父、彼らの目的が憲法改正である事は子供でも知っています。まだ覚えていますね?」

「私の長男、それを忘れてはいません。」

「なかなか思うように進んでいなかった事も解っていますね?」

「はい」

「彼らは今このウイルス騒ぎを使ってその目的を果たそうとしていますよ。」

「はい」

「日頃から一切信用してない者達の言い分を真に受けた上に、彼らの目的が進もうとしているならば、そもそものこのトラブル自体を疑って当然ではありませんか?」

「確かにそうです」

「ショックドクトリンの典型ですね兄。」


いよいよする事のなくなったヒロシは、嬉しそうに口を挟んだ。

スグルは少し眉をしかめたものの、今は父の混乱した心の方が気になっていた。


「私の父。これらを私達兄弟に教えてくれたのは他ならぬあなたでしたよ。」


彼らの父は黙っていました。そしてテレビを消しました。


「あなたたちが寮に入った事をキッカケに買ってしまったのです。」


後ろから聞こえた声に皆が振り返りました。


「私の母。帰っていたのですか?」

「はい、私の次男。」


「私の母。ならばこんなものはすぐに捨てて良いですね?」

「はい。しかし、捨てるのはあなた達の父が自らするべきでしょう。」


その声を聞くと、彼らの父はすぐに立ち、テレビを庭に出しました。

そして物置から木槌を取り出してテレビを叩き壊しました。

彼らの息子たちは嬉しそうに見つめ、その破片を庭の焼却炉に放って燃やしました。


かつての眼差しを取り戻した彼らの父は、感謝の言葉を息子たちに言いました。


「私の息子たち、ありがとう。」


二人は少し顔を崩しました。

その姿を見ていた彼らの母は言います。


「私の息子たち。おやつにしましょう。今日の為に用意をしていました。」


二人の息子たちはさっきよりもずっと顔を崩しました。


母は言います。


「しかし、あなた達は自分の父を説得出来るほどに大人になりましたから、用意していたおやつは合わないのかも知れません。」


その言葉を聞いた彼らの息子たちは、真剣な顔つきで揃って言います。


「その心配は無用です!私達にはそのケーキが何時だって必要なのです!」


彼らの母は今日一番の彼らの元気な声に笑顔で答え、すぐにお茶の用意を始めました。


彼らも久しぶりの自分の部屋にドタドタと走り、背負ったままのランドセルを置いてリビングへ戻って手作りケーキが出されるのを待ちました。




【グッドプラン・フロム・イメージスペース】Episode.6


「賢い子にはケーキをあげる」(No.0059)


おわり

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