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海辺のゲストハウス


「はー!到着ー!」


予約していた宿泊施設に到着したのは、

仕事の始まる1時間ほど前だった。


建物の下の駐車スペースにバイクを停めると、

目の前には、海が広がっていた。


ヘルメットを脱ぐと、

そっと潮の香りがして、波音が心地よく耳に響く。


ふと左手に目をやると、

上へと続く階段が伸びていて

「Front」という手書きの文字と矢印が書かれた

カラフルで可愛らしい看板が立てかけられている。


看板に沿って階段を登るとさらに視界が広がり、

瀬戸内海の海と少し先には淡路島、

東には明石海峡大橋の白が美しく空に映えていた。


階段を登り切ると

…「レストランかな?」

ガラスの窓越しに飲食スペースが見えた。


扉を開けて、店内へと入る。


木の質感を色濃く感じるフローリングや壁は、

必要以上に加工されていない自然な質感がとても気持ちいい。


高めの天井にはゆったりと回るファンが取り付けられ、

海の香りを含んだ外気をかき混ぜるように

室内に心地よい空気を行き渡らせる。


南国をイメージしたインテリアはセンスが良く、

色とりどりの外国の雑貨は、一部商品でもあるようだ。


窓から見える海の景色と調和した

心地よい空気の流れる店内は


いつも来ている仕事先のすぐ近くなのに、

全く知らない場所に来たような

そんな不思議な気持ちにさせられる空間だった。



「フロントは…っと、」

ぐるっと店内を見渡すと奥の方にカウンターがあり、

店員…だろうか?

とてもラフな格好に金色の短髪の人影が見えた。


「すみません、

今日泊まりの予約をさせていただいたんですが…」


声をかけ、

目が合うと人懐こい笑顔を浮かべた店員と思われる男性は、

かっこいいというよりも可愛らしい印象を覚える。

「年下かな?」と思った。


「はい、お待ちしていました!じゃあこちらに…」


簡単に受付と精算を済ませると、

部屋のカードキーとシーツ、枕カバーなどを渡された。


そう、ここはホテルではなく「ゲストハウス」。

日本では数年前から増え始めたが、

元々は欧米や海外で主流であった形態の宿泊施設だ。


部屋は2段ベットになっている場合も多く、

「相部屋」の形態で、他の1人旅の人と同室で泊まることもある。

他の宿泊客がいなければ、1人部屋として利用できることもあり、

ほとんどの場合がホテルよりも低価格で、

手軽に利用することができる。


私は1人旅が大好きで、

これまでに何度もゲストハウスで宿泊をしていた。


特に、京都での仕事が続く時は

ゲストハウスに泊まると、

宿に戻ってから他のゲストと旅の話をすることもできる為、

仕事のことを忘れて、旅行気分で楽しい夜を過ごせることが好きだった。


この日も、

たまたま友人の自宅がこの近くであったことから

この場所に泊まることを決めた時に連絡をしてあり、

たまたま彼女も都合も良かったようで

お互い仕事終わりにこの場所で合流して

友人も一緒に泊まることになった。


「じゃあお部屋に案内しますね」

と、受付をしてくれた金髪の青年に案内されて

店外に出て、登ってきた時とは違う階段を降りる。


先ほどバイクを止めた時は気がつかなかったが、

レストランスペースの下、駐車場の隣にあたる部分が

いくつか棟の別れた宿泊スペースになっているようだ。


右手に先ほどの海を眺めながら通路を進む。


前を歩いていた青年が、

そのうちの一つの建物の入り口にカードキーをかざすと、

「ピロリン」という電子音がして、扉が解錠された。


「今日はこの部屋はお客さんとお友達だけなので、

ゆっくり使ってくださいね〜」


案内されて中に入ると4帖半、5帖くらいだろうか

明るい色みのフローリング張りのスペースと、洗面台。

小さいながら冷蔵庫やケトルも備え付けられていた。


その奥にはトイレとシャワールームの扉があり、

右手には上段と下段、4つに区切られた

ベッドスペースがある。


決して広いわけではないのだけれど、

全体的に白色を基調にまとめられた室内は

明るい雰囲気のおかげか空気のおかげか、

狭さや閉塞感を感じることはなく、


扉の目の前はすぐに海が広がっていることもあり、

私はすぐにこの部屋が気に入った。


「シーツと枕カバーは寝る時にご自身でつけてくださいね〜」

終始フランクで話しやすい雰囲気のスタッフの青年は、

簡単な説明を済ませると、部屋を離れた。


少し室内を見渡してから、

私も彼を追って入り口のガラスの扉を開けると、

目の前に広がる海を眺めた。


「今日、急だったけど泊まることにして良かったなぁ!」

心の中では、すでにそんな想いが湧き上がって、

自然と笑顔になった。



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