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3.何かが芽生える

 幼稚園へ向かうバスの外で手を振りぼくを見送る母はだんだんと遠ざかり小さくなっていった。

 ぼくはバスに揺られ泣きながら、見えなくなるまで母を目で追った。

 これからどこに向かうのか、なにが始まるのか。と不安に思いながら幼稚園に着くまでの間泣いていた。

 幼稚園に着くとぼくは泣き疲れ切っていた。

 お姉さんと手を繋いで幼稚園の正門からゆっくりと園内に入った。

 園内はとてもうるさかった。

 ガヤガヤとぼくと同じくらいの人たちが走り回り、おもちゃを投げたりする姿に圧倒されていた。

 ぼくは教室に連れていかれ、椅子に座らされた。そして長い間待たされた。とにかく長かった。

ぼくの他にも男の子と女の子が静かに椅子に座らされていた。

 ぼくはその子たちが気になっていた。

 でも、喋りかけることはできない。ぼくは人見知りで内気だから。

 お姉さんが教室へ戻って来た。そして遊び走り回る人たちみんなを集めて、席に座らせた。

ーーー「みんな5数えるうちにイスにお座りしてくださーい」ーーー

 意外とみんなは忠実だった。

 一通り色々と話をされ、お姉さんに「先生」という名前があることも教えられた。

 そして急に折り紙が始まった。
 この日は怒涛で情報量が多すぎる。寂しさも忘れる程だった。

 次に先生はこう言った。 

ーーー「近くのお友達と机をくっつけて4人の組を作ってくださーい」ーーー

 ぼくの目の前は女の子だった。それはさっき気になっていた子のうちの1人の女の子だった。

 すごく緊張していた。女の子の目も見れず、ずっと手元ばかりに視線を送っていた。

 その後のことは覚えていない。
 気がついたら、バスを降りてママと手を繋いでいた。

 それからは幼稚園に行くたび、その女の子から目を離すことができず、休み時間もずっと目で追っていた。
 でも、一度も話すことはできなかった。

 そして、ぼくは「さくら組」というお兄さんになったらしく、幼稚園の中では1番お兄さんだと先生から教えられた。

 一日という概念を理解した頃だったが、その一日は毎日あっという間に過ぎていき

ーーー「卒園式の10日前ですよー」ーーー

先生がそう言った。

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