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短編小説 「うさぎのランビー」


春の陽光が柔らかく降り注ぐ森の中、ふわふわの白い毛を持つうさぎのランビーは、たんぽぽが一面に咲き誇る木陰で食事を楽しんでいた。風に揺れるたんぽぽの綿毛が空へと舞い上がり、その光景はまるで絵画のように美しかった。

ランビーが新鮮なたんぽぽの葉を口に運んでいると、遠くから重々しい足音が近づいてきた。ふと顔を上げると、苔むした甲羅を背負った一匹の亀がゆっくりと現れた。亀はたんぽぽを一口かじり、深いため息をついて呟いた。

 「このたんぽぽも見かけ倒しだな。鮮やかな色をしていても、中身は薄っぺらいものだ」

その言葉に、ランビーは耳をぴくりと動かし、興味深そうに亀を見つめた。亀はさらに続けて言った。

 「まるで世の中の華やかな表面ばかりを追い求める者たちのようだ」ランビーは小首をかしげ、そっと近づいて尋ねた。

 「どうしてそんなにたんぽぽに嫌味を言うの?」

 「嫌味だと?事実を述べているだけさ。見た目に惑わされず、本質を見るべきだということをね」亀はゆっくりと目を細め、ランビーに視線を向けた。

 「でも、たんぽぽは美味しいし、綿毛もふわふわで素敵だと思うけど」ランビーの純粋な言葉に、亀は鼻で笑った。

 「若いな。君のようなうさぎにはまだわからないだろう。この世界の浅はかさが」

 「亀さんは、みんなそんなふうに嫌味を言うの?」ランビーの問いかけに、亀は一瞬たじろいだが、すぐに厳しい表情を取り戻した。

 「我々は長く生きている分、物事の裏側が見えるのさ」

 「じゃあ、嫌味は練習するの?」その言葉に、亀は一瞬言葉を失った。しかし何も言わず、ゆっくりとその場を離れ始めた。

 「待って、亀さん!」

ランビーは慌てて後を追った。亀の足取りは遅いが、その背中には年輪のような重みが感じられた。森の小道を進む二人。木漏れ日が地面に模様を描き、鳥たちのさえずりが遠くから聞こえてくる。しかし、亀は振り返ることなく黙々と歩き続けた。ランビーは亀の横を跳ねながら、再び口を開いた。

 「ねえ、どうして嫌味を言うの?僕にはちょっと難しいよ」

亀は深いため息をつき、立ち止まった。

 「君には関係のないことだ。しかし、強いて言うならば、この世界があまりにも愚かだからさ」

 「愚か?」

 「そうだ。誰もが表面だけを追い求め、本質を見ようとしない。それが嘆かわしいのだよ」

ランビーはしばらく考え込んだ後、にっこりと微笑んだ。

 「でも、亀さんは本質を見ているんだね。それって素敵なことだと思うな」

亀は意外そうにランビーを見つめた。

 「君は変わったうさぎだな。大抵の者は私の言葉を煩わしく思うものだが」

 「僕は亀さんのお話、もっと聞きたいよ」

その言葉に、亀は少しだけ口元を緩めた。

 「そうか。しかし、私と一緒にいても退屈するだけだぞ」

 「そんなことないよ!」

ランビーは嬉しそうに答え、亀の隣をぴょんぴょんと跳ねた。再び歩き始めた亀の背中に、ランビーはそっと手を伸ばした。

 「ねえ、亀さん。もしよかったら背中に乗せてくれない?」

 「重い荷物を背負うのは慣れているが、うさぎを乗せたことはないな」亀はそう言いながらも、ランビーが乗りやすいように甲羅を少し傾けた。

 「ありがとう!」ランビーは軽やかに背中に乗り、周りの景色を見渡した。

 「わあ、高いところから見ると、森が全然違って見えるね!」亀はゆっくりと歩きながら呟いた。

 「視点を変えれば、見えるものも変わるものだ」

 「亀さん、今のも嫌味?」ランビーが楽しげに尋ねると、亀は微かに笑った。

 「さあ、どうだろうな」ランビーは亀の背中で手を広げ、風を感じた。

 「僕も嫌味を言ってみようかな。この森は緑ばかりで退屈だね!」亀は首を振りながら答えた。

 「まだまだだな。嫌味とは、もっと深いものだよ」

 「そうなんだ。じゃあ、もっと練習しなくちゃ」

 ランビーは笑い声を上げ、二人の影が長く伸びていく。夕暮れが近づき、空が茜色に染まる頃、亀は静かな声で言った。

 「君と過ごす時間も、悪くないものだな」

 「それって、嫌味?」ランビーが首をかしげると、亀は穏やかな目で答えた。

 「いや、ただの感想だよ」

その瞬間、二人の間に暖かな風が吹き抜けた。

 「亀さん、これからも一緒にいてもいい?」

 「好きにするがいいさ。ただし、嫌味を言うならば、もう少し磨きをかけることだな」

 「うん、頑張るよ!」

ランビーは嬉しそうに答え、亀の背中で小さく跳ねた。こうして、嫌味な亀と純真なうさぎの奇妙な旅が始まった。二人は互いに影響を与え合いながら、森の奥深くへと歩みを進めていく。




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