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短編小説 「タコの未来」


海の底に広がる広大なサンゴ礁の中で、タコのトビと、親友のイカのイッカは毎日を過ごしていた。

青く澄んだ海の中、魚たちがゆったりと泳ぐ景色を眺めながら、僕たちはよく未来のことを話し合った。

「トビ、いつか俺たちも広い海を旅して、いろんな場所を見て回りたいよな」と、イッカはいつも夢を語っていた。僕もその夢に賛同していたけれど、心の奥底では諦めの気持ちが渦巻いていた。広い海を旅するには、僕たちにはあまりにも多くの障害があったからだ。

ある日、僕たちは海底の深い洞窟で珍しい宝石のような貝を見つけた。その貝を手に入れれば、僕たちの夢が現実になるかもしれないと期待に胸を膨らませた。しかし、その貝を手に入れるのは一筋縄ではいかなかった。貝は深い洞窟の奥深くにあり、そこにたどり着くためには危険な道を進まなければならなかった。

「トビ、この貝を手に入れれば、俺たちの夢が叶うんだ」と、イッカは目を輝かせて言った。

「でも、イッカ、本当にこの道を進んで大丈夫なのかな」と、僕は不安を感じながらも、イッカの夢を壊したくない思いで問いかけた。

「大丈夫さ、俺たちならできるよ」と、イッカは自信満々に答えた。その言葉に勇気づけられ、僕たちは洞窟の奥へと進んでいった。

暗く冷たい水の中を進みながら、僕たちは何度も危険な場面に遭遇した。鋭い岩の間をすり抜け、迷路のような道を進んでいく中で、僕の心の中の不安はますます大きくなっていった。イッカの前向きな姿勢に引っ張られながらも、僕の心は重く沈んでいった。

ついに、目的の貝が見える場所までたどり着いた。しかし、そこには巨大なウツボが待ち構えていた。ウツボは鋭い牙をむき出しにし、僕たちを威嚇してきた。

「イッカ、無理だよ。こんな危険な場所で戦うなんて」と、僕は震える声で言った。

「でも、ここまで来たんだ。諦めるなんてできないよ、トビ」と、イッカは必死に僕を励ました。しかし、その言葉にも関わらず、僕たちはウツボの攻撃に圧倒され、貝を手に入れることはできなかった。

帰り道、僕たちは無言のまま洞窟を抜け出した。イッカの夢を叶えられなかったことに、僕の心は重く沈んだ。

「トビ、ごめんな。俺のせいでこんなことに……」と、イッカはやるせない表情で言った。

「違うよ、イッカ。君の夢を壊したくなかったんだ。でも、これでわかったことがある。僕たちはまだまだ未熟なんだ」と、僕は静かに答えた。

その日以来、僕たちは夢を追いかけることを一旦諦め、日常の生活に戻った。海の中で過ごす日々は変わらず美しかったが、僕たちの心にはいつもあの日のことが影を落としていた。

やがて、僕たちは再び旅に出る勇気を取り戻す日を夢見て、日々を過ごすようになった。諦めとやるせなさを抱えながらも、いつかまた夢に挑戦する日を信じて。




時間を割いてくれてありがとうございました。

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