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短編小説 「チョコの海」


チョコレートの海が広がる崖の上、キャンディモンスターはその体が溶けかけているのを感じながら立っていた。キャンディでできた体は、太陽の熱に晒されて徐々に柔らかくなり、形を失い始めていた。彼は何度もこの海を越えようと試みたが、絶望がその度に彼を打ちのめした。

「もうダメだ、もう歩けない…」キャンディモンスターは自らの甘い涙を感じながら、力なくつぶやいた。チョコレートの海は、その広がりを見せつけるかのようにどこまでも続いていた。

崖の下では、波立つチョコレートが不規則に跳ね返り、キラキラとした輝きを放っていた。しかし、それは彼にとっての希望の光ではなく、ただ冷酷な現実を映し出しているに過ぎなかった。体はどんどん溶け、脚はもうほとんど残っていない。彼はただ崩れていくのを待つしかなかった。

しかし、その時、ふとした風が彼の体を冷やし、少しだけ固まる感覚を覚えた。「風だ…風が僕を冷やしてくれる…」彼はその一瞬の希望にすがりついた。

キャンディモンスターは弱々しいながらも、風を求めて動き始めた。風が吹くたびに彼の体は少しずつ固まり、次第に形を取り戻していった。風は彼にとって希望の象徴となり、彼はその風を追いかけるように前進し続けた。

しばらくして、彼は風の吹き抜ける狭い谷に辿り着いた。そこはチョコレートの海から少し離れた場所で、涼しい風が常に吹き続けていた。キャンディモンスターはそこで一息つき、体を完全に固めることができた。

「ここなら大丈夫だ…ここでなら生きていける…」彼はその場所を新たな居場所と決めた。だが、希望の光が差し込んだのも束の間、彼の心にはやるせない気持ちが広がっていった。かつて夢見たチョコレートの海を越えるという冒険は、もう二度と叶わないだろうという現実が、彼の心を締め付けた。

それでも彼は、その小さな谷で新たな生活を始めることを決意した。毎日、風の吹く音に耳を傾け、自然のリズムに身を委ねながら、彼は少しずつ自分を取り戻していった。やがて、他のキャンディたちも彼の元に集まり、新しいコミュニティが生まれた。

彼はそこで、仲間たちと共に過ごす中で再び希望を見出した。冒険は終わったわけではなく、新たな形で続いているのだと悟ったのだ。キャンディモンスターは、新しい居場所で新たな希望を胸に、仲間たちと共に生きていくことを決意した。

そして彼は、チョコレートの海の向こうに広がる未知の世界を夢見ながら、今日も風の吹く谷で新たな一歩を踏み出しているのだった。




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