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短編小説 「海パンと仲間」


「あああ、これは…」そんなことを思ったのは、浜辺の更衣室で、リュックからビーチタオルや日焼け止め、おやつと共に海パンが出てこないことに気づいたときだ。

みんなと一緒にワクワクして、朝早くに起き、埼玉から電車で何時間もかけて千葉の海まで来たのに、海パンを忘れるなんて…。こんなミスは初めてだ。絶望感に襲われながらも、頭を冷やそうと海に向かった。

「おい、ユタカ!なんでまだ海パン履いてないんだよ!」と仲間の一人、ダイスケが叫んだ。それに対し、「え、その…」と僕は口ごもるしかなかった。

最初は笑い話にされ、その場は大笑いされてしまったが、実際に海に入らない僕を見て、みんなも段々と本気で心配するようになった。

「おい、本当に海パン忘れたのか?マジで?」ケンジが聞いてきた。

「うん、本当だよ。でも大丈夫、何とかするから」と僕は強がった。

それから数分後、海パンを忘れたことを心配する仲間たちと一緒に、海岸沿いのお店を見て回った。しかし、当然のことながら、僕の財布の中には電車賃と昼食代しかなかった。

「なあ、ユタカ。おれのスペアの海パン、使っていいぞ」突然、静かな声が聞こえた。それは一番年上で、みんなからリーダーと認められていたシュウタだった。

「でも、それ…」僕は言葉を遮った。シュウタの海パンは有名なブランドもので、高価なものだった。それを僕が使うなんて。

「大丈夫だ。だから、思う存分楽しもうぜ!」シュウタの優しい言葉に救われた気がした。結局その日は、シュウタの海パンを借りて海を楽しみ、一日を満喫した。

これが、忘れ物をしたことで得た何よりも価値のある経験だった。

それは物事の失敗から得られる、大切な仲間との絆の深さを教えてくれた日だった。




時間を割いてくれて、ありがとうございました。

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