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短編小説 「ファミレス」

朝から昼前まで、ファミレスのドリンクバー付きモーニングハンバーグを食べながら、僕は店内の様子をじっと観察していた。窓際の席に腰を下ろし、窓の外を見れば、青空に薄雲がかかり、陽の光が穏やかに降り注いでいる。室内はほどよく冷房が効いていて、外の暑さを感じさせない心地よさが広がっていた。

ハンバーグの香ばしい匂いが鼻をくすぐり、目の前のプレートには、ジュージューと音を立てるハンバーグが美しく盛られている。横にはサラダと目玉焼き、パンが添えられていて、ドリンクバーから持ってきたコーヒーが湯気を立てていた。「いただきます」と呟いてフォークを手に取り、一口頬張る。口の中でジューシーな肉汁が広がり、朝から贅沢な気分に浸ることができた。

僕の席からは、店内全体が見渡せる。入り口近くのレジカウンターには、忙しそうに動き回る店員たちがいて、時折お客様を迎えたり、レジ打ちをしていた。隣のテーブルには、ノートパソコンを広げて仕事をしているサラリーマンが座っていた。彼は頻繁にコーヒーをおかわりしながら、熱心に画面を見つめ、時折ため息をついていた。

ファミレスの中央には、家族連れが朝食を楽しんでいる姿が見える。子供たちは元気に話し、母親は微笑みながら彼らの相手をしている。父親は新聞を広げて、時折会話に加わりながらも、どこか落ち着いた表情を浮かべていた。彼らの笑い声が店内に響き渡り、温かな雰囲気が漂っている。

「もう一杯、コーヒーを」と、ドリンクバーへ向かう途中で僕は視線を巡らせた。奥の席では、年配の女性が二人、ゆっくりと紅茶を楽しんでいた。彼女たちは穏やかな笑顔を浮かべ、何か楽しそうな話に夢中になっている様子だった。きっと長年の友人なのだろう、その親密さが伝わってくる。

再び席に戻り、今度はデザートに手を伸ばした。チョコレートケーキを一口食べると、甘さが口の中に広がり、なんとも言えない幸せな気持ちになった。ファミレスの朝の風景は、多種多様な人々の物語が交差する場所だと改めて感じた。

ふと、隣の席に若いカップルが座った。彼らはメニューを見ながら楽しそうに話している。彼女は笑顔で何かを指さし、彼はそれに頷いていた。その様子を見ていると、自分の若い頃を思い出し、懐かしい気持ちに包まれた。

「お待たせしました」と、店員が彼らのテーブルに料理を運んでくる。彼らは「ありがとう」と礼を言い、楽しそうに食事を始めた。彼らの笑顔が眩しく、朝の光と相まってキラキラと輝いているように見えた。

モーニングハンバーグを食べ終えた僕は、もう一度コーヒーを注ぎに行く。店内のざわめきが心地よく、僕はその一部であることに安堵感を覚えた。ファミレスという日常の一コマが、まるで映画のワンシーンのように感じられた。

時計を見ると、もう昼前になっていた。そろそろ席を立つ時間だな、と感じながらも、もう少しこの場所にいたいという気持ちも芽生えた。ゆっくりとコーヒーを飲み干し、最後のひとときを楽しむ。

「ごちそうさまでした」と席を立ち、レジに向かう。セルフレジのネコが笑顔で対応してくれ、心地よい朝の締めくくりとなった。店を出ると、外の陽射しが一層眩しく感じられ、僕はまた新たな一日を迎える準備ができていた。





時間を割いてくれてありがとうございました。

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