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【夢日記】通院

病院に行くために車を進める。

車外にはじりじりと酷暑の日差しが降り注いでいて、蝉がみんみんとやかましく鳴いているのがガラス越しにも聞こえてくる。空調の効きが悪い、中古の軽自動車の中で、ぼくは額から落ちてくる厭な汗を手の甲で拭いながら、のろのろと車を進ませている。

病院は細い路地を這入ったところにある。

然し、路地には車が何台も停まっていて、いっこう進むようすが無い。詰まった車列を睨みつけて、チッと舌打ちしてから、ぼくは仕方なしにエンジンを切って車のドアーの内鍵をがちゃりと外して車を降りる。

むっとする熱気。視界の向こうは陽炎でゆらゆらとしている。前方の車はどれも乗り棄てられたものであるらしく、だれも乗っていないようだ。

ふと思い出して、ぼくは車に戻る。助手席に放ってあったラム酒の瓶を引っ掴むと、栓を開ける。いまはもうどこの店にも見かけることのなくなった、レモンハート151プルーフ。常温どころか、むしろ照りつける日光でぬるくなってさえいるそれは、言いようのない甘ったるい臭気を放っている。ぼくはそれを一口、強いて喉に流し込む。嗚呼、強烈な75.5度のアルコールが灼熱となって食道を通過していく。臓物の形が自分でもわかる。

苛立ったぼくは、酒瓶を路傍に打ち捨てる。瓶は意外に丈夫であるらしく、割れることもなく、ころころと転げて行く。

ぼくはやおら病院に向かって歩き出す。

あとどれくらい、あの高い薬を飲めばぼくは「まとも」になれるのかしらん。病院代も莫迦にならない。そのまた「まとも」になったぼくと云うのは、本当にぼくと認められうるのかも疑問である。そもそも昼間の、素面の、「まとも」なぼくを、ぼくはぼくだと認めない。酒に酔ったぼくが、歪んだ、非正規の、駄目な、いかれたぼくこそが本当のぼくではなかったか…。

がしゃん。

割れたのは病院のガラス戸がだったか、ぼくの打ち捨てた酒瓶だったか。



…と思ったら、数日ぶりにまともに這入った布団の中で目が覚めた。急に寒くなりだしたので家族が毛布を出してきたのだが、これが暑い。肌着にじっとりと汗をかいている。シャワーを浴びたら、会社に行かねばならない。

心なし、腹の底にアルコールを感じる。少し飲みすぎたらしい。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。