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【感想2】鬼談百景

小野不由美(2015)『鬼談百景』角川文庫を読みました。

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この本を読んだそもそものきっかけは、私が職場で少し不思議な経験をして家族に相談したことでした。ふだんは職場の一階に席があって、そこで仕事をする時間がほとんどなのですが、私の左斜め前に見える階段のところにだれかいる気がするのです。気配を感じてふと顔を上げてみると、だれもいない。でも、だれかが私に用事があって話しかけるタイミングを伺っているような、そんな気がする。そういうことがつづいていました。

すると、同じ作家の『営繕かるかや怪異譚』(角川文庫)を家族に勧められて読み(気がついたら奥座敷の襖が開いているという最初の話が私の体験談と似ていると思ったようです)、さらに『残穢』(新潮文庫)に進みました。こちらも背筋がぞくっとするので、怖い話の好きな方にはおすすめです。

今回読んだ『鬼談百景』は、作家が読者から蒐集したという怪談をあたかも百物語のように並べていくという趣向の作品です。したがって、いろいろな話が並んでおり、思ったほど怖くないもの、さては「学校の怪談」あたりに出てきそうなもの、怖いというより不思議なもの、夢に出そうなくらい怖いものなど、修学旅行で夜中に友だちから怖い話を聞かされているときのような感覚を味わうことができます。

作家にとっても印象的だったのか「お気に入り」(109頁)、「欄間」(296頁)は『残穢』にもひとつのエピソードとして作品中に取り込まれており、私自身も「お気に入り」がいちばんぞっとしたお話でした。小さな女の子がお気に入りのぬいぐるみで遊ぶお話なのですが、その遊び方が…。

うちの子どももなにもいない方向を見てぼおっとしていることのある子でしたが、幼稚園にも入る前の小さいころになにかが「まどのそとにはりついてる」と訴えたことがありました。虫でもいるのかと思い確かめてみてもなにもいません。ベランダがついているわけでもない二階の窓だったので、人間がいるということもありえません。でも、「いる」と子どもは云います。

「怖いね」と妻と話していたのですが、そのうちに「へやのすみっこにたってる」と云うようになりました。「どんなひと?」と尋ねると、「しらないおんなのひと」だそうです。それを子どもは「×××がいる」と名前をつけて云っていたのですが、或る日を境に、「わたしは、×××」と云い出しました。あのときほど肝を冷やしたことはありません。大きくなるにつれて次第にそんなことは云わなくなり、当の本人に訊いてみてもそのときのことは覚えていないようなのですが…。

「お気に入り」はそんな話を思い出すような、短くも、とても不気味なお話でした。

尚、本書は「百景」の名を冠していながら九十九の怪談しか収録されていません。いろいろな方の書いたものを読みますと、どうやら、読者から蒐集した九十九話に、作家自身の『残穢』を加えて百話目となるということのようです。

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