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美容院から雑誌が消えた。

美容院から雑誌が消えた。
厳密に言えば、美容院から紙の雑誌が消えた。

最初に気付いたのは目の前に置かれたタブレットが視界に入った瞬間だった。
タブレットの画面は、雑誌のサブスクアプリのホーム画面を表示していた。
まさか、とは思ったが鏡越しに他の座席を見てみても全ての席に同じタブレットが置かれている。

美容院から雑誌が消えたという事実は、自分に想像以上の寂しさを連れてきた。

美容院にある雑誌にはいくつかのメリットがあった。
まず待ち時間の暇潰しになる。それに雑誌を買わずとも話題やファッションのトレンドを追うことができる。美容師さんと話したくない人や、会話が平気な人でも話したくない時には、美容師さんと話したくないという意思表示もできる。

一方で美容院での雑誌文化がもたらすデメリットもあった。
自分が読みたいと思うものと違う雑誌を置かれたときのなんとも言えないあの感じ。
あとこれは美容師さんとの会話でわかったことだが、雑誌の表紙をビニールテープで保護する作業があるらしく地味に大変とのこと。しかも自分が通っている美容院ではその作業を女性の美容師さんがやることがほとんどで、いつもお世話になっている女性の美容師さんが「男でも気付いてやってくれればいいのに…!!」と話す様はその作業と職場の大変さを物語っていた。

美容院にある雑誌のメリットとデメリットを整理してみると、メリットは紙から電子書籍になっても変わらない項目ばかりで、デメリットは雑誌そのもののデメリットというより紙の雑誌であることのデメリットだとわかる。
しかも美容師さん曰く、紙の雑誌を毎月用意するより雑誌のサブスクサービスを契約する方がかなりコストを抑えられるらしい。

紙から電子書籍にすることでメリットはそのまま維持でき、デメリットのみ排除される。
そりゃ、電子書籍になりますよね。

そう頭ではわかりきっているし反論の余地もないのだけれど、目の前に置かれたタブレットを見てなんとも言えない寂しさが込み上げてきた。

今まで目の前に置かれた雑誌を読んでいたときは、自分が手元の雑誌を読む理由に「目の前に置かれたから」という大義名分があった。
しかし、今後タブレットで雑誌を読む際は自分で選んだ雑誌を読むことになる。それは自分が本当に読みたい、自分に必要な雑誌を読めるということだけれども、同時に「タブレットを操作し、膨大な数の中から選んでまで読みたい雑誌」を読んでいると美容師さんから見られるともとれる。
人によってはかなり気になって雑誌どころではなくなるんじゃないだろうか。(私はかなり気になる。)

そう思うと、紙の雑誌は思っていたより手に取りやすい媒体だったことを思い知らされる。
以前担当ではない美容師さんに席まで案内されたとき、明らかに自分の年齢より上の層向けの雑誌を置かれ、担当の美容師さんが「これは…だいぶいつもと雰囲気違うよね。」と笑って雑誌を変えてくれたのもそれはそれで良い思い出だったと思えてくる。

この日は結局雑誌を読まなかった。
タブレットはどうも手に取りにくい感じがして、美容師さんと話していたら施術が終わっていた。

次回の施術ではタブレットで雑誌を読むのだろうか。
「読まない気がする。」と鏡の向こうから新しいヘアスタイルを手に入れた自分が言っている。

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