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久しぶりに紙の本を買った。

久しぶりに紙の本を買った。
ハードカバーの小説を三冊も買った。
今日は買うのをやめようと思って一度書店を出たけど、やっぱり今日読みたいと思って店に戻って買った。
久しぶりに紙の本を買ったら、とてつもない多幸感が私を襲ってきた。

1.電子書籍に切り替えたわけ

小さい頃から本の虫、参加する委員会は大体図書委員会だった私は、本はもちろん紙の本で読みたいタイプの人だった。
しかし、社会人になって一人暮らしを始めると実家にいた頃には考えもしなかった紙の本で読み続けることの限界に気付かされた。

それは、一人暮らしの部屋のスペースには限りがあるということ。

実家にある背の高いいくつかの本棚も、はたまたインスタグラムやピンタレストなどで見かける読書家にとって夢のような壁一面の本棚や書斎のような空間も、一人暮らしの部屋にはお迎えすることができない。

他にも

・読書に時間を充てられなくなったことで本に生活資金を回せない
・お風呂で本を読む時間を稼ごうとすると紙の本は読めない
・流行を追い進化するごとにどんどん小さくなっていくカバンには本を入れられない

など今までの本を愛する自分からは怒られそうな、なんとも味気ないこれらの理由たちに負け、去年ついに電子書籍用端末を手に入れた。

電子書籍での読書は合理的でとことん無駄がなく、確かに便利だった。

・書店よりはるかに簡単に本を探せる
・軽くて持ち運びが楽
・お風呂でも読める
・紙の本よりほんの少し安く買える
・気になった箇所を記録できる

など挙げられる点はざっとこんなところだろうか。

便利。
便利で快適。
確かに便利で快適なんだけど…。

2.紙の本への目覚め

先日、同じ会社の同期と休みの日にランチに出かけた。待ち合わせ場所にいた同期は、文庫本を読んでいた。
本を読むイメージがあまりなかった同期と本の話題になり、自分は今電子書籍で本を読んでいることを伝えると同期が本の拘りを話し始めた。

「なんか…本はどうしても紙で読みたいんだよね。」

そりゃ………………そうに決まってるでしょ!
私だって、本当は紙で読みたいよ!!!!!

心の奥で本音が暴れていた。
電子書籍生活に慣れ、その便利さも合理性もメリットもすんなり受け入れられていると思っていた自分にここまで紙の本への憧れとジェラシーがあったとは正直思っていなかった。
本当は紙の本を読みたいと思っていた自分の潜在意識に気付かされた瞬間だった。

3.そういえば書店ってこういう場所だった

職場のとある会議で上司がおすすめのビジネス書について話していた。
普段話題の本や誰かに勧められた本はほとんど読むようにしているが、ここ数年はとにかく実用書やビジネス書を読むことが多くなったし、そのことに違和感も覚えなくなっていた。
電子書籍でぱぱっと読も、といつものごとく考えていたら、その本はなんと電子書籍データのない本だった。

ニッチな専門書とか文学的名著ならまだしも、ビジネス書のくせに電子書籍で読めないの?なんてかなり上からの文句を携え、最寄駅の駅ビルにある書店にお目当てのビジネス書を探しに行った。電子書籍で本を読んでいたので、そもそも書店に行くのも久しぶりだった。

書店に足を踏み入れる。
巨大な本棚たちとたくさんの本に囲まれてただ一冊の本を探す。
それだけのことなのに、ひどく懐かしさとあたたかさとちょっとした感動を覚えた。

徒歩圏内に書店があるのに全然使ってなかったなんて…なんか損してた気分だな。

そんな風に思い、無事にお目当ての本を手に入れることもでき、改めて書店の魅力に気付かされた瞬間だった。

4.読書の記憶と本屋大賞

紙の本への憧れ、書店のぬくもりに気付かされ、無心になって本を読んでいたかつての記憶が頭をぐるぐる巡っていた。
そんな日々を過ごす中で、さらに懐かしい読書の記憶を呼び起こすような出来事があった。

今年の本屋大賞が発表された。

中学生の頃、本屋大賞の受賞作は映像化されることが多いという現象に気付いて以来、学校の図書館にあった本屋大賞の受賞作をとにかく読み漁る毎日を送っていた。映像化される作品が多いということは、それだけストーリー性が高かったり、共感しやすかったり、作品そのものの魅力が存分に詰まっているということ。受賞作はどれも文句のつけようがないくらいおもしろいものばかりで、私は本屋大賞自体にどんどんのめり込んでいった。
図書館にないものは新規購入エントリーのようなものを出し、話題性の高い作品が多かったからかほとんど入れてもらえた。

あの何年も追っかけ続けた本屋大賞が、このタイミングで今年の受賞作を発表する。
気にならないわけがない。
気付いたら今まで蓋をしていた読書への、紙の本への、小説への思いが爆発し、蓋はどこかに吹っ飛んでいた。

私社会人になったのに、なんで読みたい本我慢してたんだろう。
社会人になって使えるお金増えたんだから、むしろ今まで文庫で読んでたのをハードカバーにするとか、そういう使い方するべきだったのでは!?

5.やっぱり私は本が好き!

欲しい本は今が一番アツい、どの書店でも店頭で猛プッシュしているであろう今年の本屋大賞受賞作だったが、どうせならということで休みの日に大きい書店まで来た。

店を埋め尽くす大量の本。
書店員さんの愛が滲み出ているPOP。
それぞれのお目当てをワクワクした表情で探しに来た人たち。

今日も変わらず、書店は素敵な空間だった。
真っ先に目に飛び込んでくるお目当ての本。
本を手に取り買おうとレジに行こうとしたら、急に動けなくなった。

ハードカバーのこの値段、払える余裕今あるか。
何冊か積読があるのに買うなんて、もったいなくないか。
物量また増やして、家のスペース大丈夫か。

全部、電子書籍生活を始めてから特に考えるようになった懸念事項だった。気になり始めると止まらず、本を手に持ったまま動けなかった。
さっきまであんなに買う気でここまで来たのに今になってもこんなに迷うなんて、私はどんなに読書から離れ、今の生活に毒されてきたんだろう…。

そう思ったもののすぐに買うことができず、手に取った本をそっと戻して、そのまま店を出てしまった。

一人暮らしを始めてから一つのものに対するお金のかけ方や使い方についてものすごく考えるようになった。

これにかけるお金を他で使えなくて後悔しないか?
これに割く時間はあるのか?
これを買ってよかったと思えるくらい使い切ることはできるのか?

それらの疑問が今も頭の中でぐるぐる巡っている。
巡っているけど、やっぱり欲しい本のことが気になる。

早く読みたい。
あのぬくもりに触れたい。
もう一度あの大好きだった時間を取り戻したい。

足は店に向かっていた。
今度はさっきとは違う意思を持った手が本を手に取っていた。
タガが外れたように気になっていたハードカバーの小説をもう二冊手に取って、私は久しぶりに、心から、紙の本を買った。

そのままカフェに入り、恐る恐るずっと読みたかった本を取り出す。
表紙を開けばペリペリペリ…と高らかに鳴る紙の音。
紙の持つ暖かさ。
手のひらに愛おしい重みを感じて、心の奥がこんなにもあたたかい。

久しぶりに紙の本を買ったら、とてつもない多幸感が私を襲ってきた。

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