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今までで一番高いワンピースを買った。

今までで一番高いワンピースを買った。
元々ワンピースを買うつもりはなかった。
想定外の買い物のはずだったのに、店を出た後私の頭と心の中は手に入れたワンピースのことでいっぱいになった。

1.憧れのお店

一着ずつしか掛かっていない服たち。
一つとして同じものはないデザイン。
気軽には買えない値段。

洋服好きな友達に教えてもらったハイセンスなセレクトショップ。値段はもちろんのこと、一着一着のデザインも日常的とは言い難い。いつもその店を通りかかっては、遠くからぼんやり眺めたり、店に入ってもウィンドウショッピングをするばかりだった。

きっかけは夏休みとボーナスだった。
今年の夏休みは帰省することになり、ボーナスが入って金銭的な余裕も生まれた。

久しぶりにお店覗いてみようかな。

それくらいの気持ちだった。

2.偶然の巡り合わせ

最初は黒いブラウスを探していた。 
最近青山や代官山などおしゃれなイメージの強い街に出かけることが続き、その度に黒が似合う洗練された女性をたくさん見かけた。黒い服への興味をもろに刺激されていた。

黒いトップスを中心に店内を見ていると、店員さんが各アイテムについて何度か説明してくれた。しばらく店内にある黒いアイテムを見てまわり、一つだけピンときた黒のブラウスを試着しようと思った。
ブラウスを取りに行くと、先ほど説明してくれた店員さんが黒いワンピースを持って現れた。

そのワンピースを見た瞬間、衝撃が走った。
数日前にネットで見かけてまさに試着してみたいと思っていたものだった。
店員さんが持ってきてくれなければ、私はそのワンピースのことを忘れたまま店を出ていただろう。

心は、完全にワンピースに持っていかれた。

3.試着の感触

手持ちのワードローブとは一線を画す、洗練されたデザインが光る黒のワンピース。鏡に映った自分はこれまで見たことがないくらい大人で、かっこよく見えた。同時に、夏に会える大好きな人たちの顔が浮かんだ。

前に帰った時より更に垢抜けたねと驚く家族。
ファッションやコスメが好きな気が置けない友人たち。
デートの約束をした大好きな人。

何もかも完璧に思えたワンピースだったが、一つだけ引っかかることがあった。

肩や腕の張りに目が行く。

気になりませんよと店員さんはフォローしてくれたが、身体の角度を変えて鏡を見てみても、つい気になってしまう。肩や腕に存在感のある自分の体型は、特にノースリーブのような服との相性が激しく分かれる。

どうしようかと思いあぐねていると、もう一つの黒いワンピースが視界をよぎった。そのワンピースは今試着しているものよりシンプルで真っ直ぐなラインが特徴的なもの。肩周りもしっかりカバーされていて、腕がモリモリと剥き出しになることもなさそうだった。 

店員さんに試着したい旨を伝えた直後、思いがけない言葉が返ってきた。

4.初めての体験

「この形の方が着こなすの相当難しいと思いますよ。」

あまりにもハッキリ言われ、内心うろたえてしまった。
接客を受けていてここまでハッキリとマイナスなことを言われたのは初めてだった。

自分が気になっている服を否定するようなことを真正面から言われたら、気に障る人もいるかもしれない。
ただその時の自分は、何も言わなければそのまま買うかもしれない私に、似合うか似合わないかという側面から正直に伝えてもらえたことに一種の感動を覚えた。

実際に試着してみるとさっき着たワンピースほどのときめきはなく、店員さんの言った通り肩周りがむしろ強調されていた。店員さんの助言があったからこそ、その場の高揚感に惑わされることなく判断できた。

念のため、最初に着たワンピースをもう一度試着してみる。

私の身体がワンランク上の輝きを見せている。
店員さんの反応も納得の表情。
何より、自分の心が本能的にこのワンピースを欲していた。

値段は結構するけどボーナスも入ってるし、鏡の奥のこの光景をこれからも見られるなら、このチャンスは逃すわけにいかない。

私は、今までで一番高いワンピースを買った。
店員さんへの感謝や、未来への期待も込めて。

そして、夏休みまでにこのワンピースに似合う二の腕を絶対に手に入れると心に誓ったのであった。

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