第45話「彼女とこのまま続いて・・・」
それは、突然やってきた。1997年7月タイから始まったアジア通貨危機はマレーシア、インドネシア、フィリピン、韓国へ飛び火していった。98年になると、国費留学している同国出身の留学生たちは、留学費用の打ち切りにより、無念の帰国を余儀なくされた。
英語の補講コースで一緒だった、マレーシア人とタイ人のクラスメイトが悲しい顔で、さよならを伝えて来た時は、本当に胸が痛んだ。運命のいたずらは残酷だ。もし、どこかのタイミングで留学期間や通貨危機の時期がズレていたら彼らも大学生活を全う出来たのに。
同じクラスのスンキョンは、父親が病院を経営するドクターだったから、何とか、持ちこたえていたけど、新婚の奥さんは一足先にソウルに戻った。
「かわいそうにな。生活が苦しいのかもしれないけど、新婚早々に夫婦が離れ離れなんて。」だけど、スンキョンは折角、Post graduate diplomaまで取れたのだから、ここから先、修士論文は何としても書き上げてMAを取らないと、これまでの努力は水の泡だから、仕方ないかも知れない。
韓国は今回の通貨危機で、IMFから支援を受けて国民全体が大きなショックを受けている。ノーザンブリア大学に在学中の韓国人も何人かが無念の帰国をしてしまった程だから、同じながらも状況はまだマシな方なんだろう。
カツヒロにしてみても、97年までは1ポンド160~170円だったものが、1ポンド220ポンドまで円安になってしまい生活費を切り詰める必要が出てきた。ラッキーだったのは、97年の9月の時点で学費は全額収めていたから、大きな出費は今後発生しない事。
・・・。
川島さとみとはロンドン・エアライン会で知り合ってから、1年半近く時間がたった。さとみはとても色白で、髪の毛は少し茶色がかったストレートでロングヘアが美しく、笑うと松たか子に似ていた。性格は穏やかで、おしとやか。最近の若い世代に感じない古風な雰囲気が感じられた。
カツヒロは初めて会った時に、「かわいいな。この子」とドキッとした。その時は、さとみに彼氏がいることを知らなかったのだけど、メールで色々と交流して行くうちに、彼女の方から色々とプライベートな相談をされるようになった。
カツヒロは次第に彼女に惹かれ、密かに彼女の事を愛し始めていた。その気持ちは徐々にさとみにも伝わって行く。カツヒロは、さとみが毎日、エアライン受験の事や彼女が分かれた男性の事で相談してくるメールじっくり受け止めた。そうした期間を得て、川島さとみもカツヒロに好意を抱くようになった。
そして、カツヒロが猛烈にプッシュしたこともあり、二人はお付き合いすることになった。東京とニューカッスルの遠距離恋愛だったがサッカーワールド杯の頃には、返金対象のチケット購入者への対応を手伝ってもらったりもしていた。
「さとみが俺の代わりに返金を行ってくれたおかげで、本当に助かったよ。」カツヒロは国際電話で彼女にお礼を言った。
「いいの。私は大したことしてないから。」
「そのな事ないよ。両親からもあきれられ、二人の姉も助けてくれなかったし、さとみがいなかったら、当分、俺は安心できなかったから。」
「そうお。なら、今度何か美味しいものを食べに連れてって。」
「うん、いいよ。もちろん。早く会いたいね。」
「うん。私もカツヒロに会いたいな。」
カツヒロは電話を切ると、日本行きの航空券を手配した。運よくKLMオランダ航空で往復350ポンドと言う格安航空券を購入できた。「早く彼女に会いたい。」カツヒロの思いは日に日に強くなる。
「卒論をスタートするのは9月中旬だから、それまで2か月ちょっと日本へ帰ろう。」テーマは"日本の航空業界の規制緩和とその見通し”にしようと決めていた。
さとみは、JASのグランドスタッフの仕事で内定を得ていたが、更にユナイテッド航空のシンガポールベースのCA受験を控えていた。「やっぱり、同じエアラインでもやりたいのはCAだから、JASには行かないのだろう?」
成田のリーガロイヤルホテルでUA(ユナイテッド航空)の2次面接を終えたさとみは、カツヒロが運転する車に乗ってドライブに出かけた。
ようやく試験のプレッシャーから解放された事から、「どこにでも良いから連れてって欲しい」と言われてカツヒロは、東関東自動車道を飛ばし京葉道路を経由してアクアラインを目指した。
「本当にどこでもよいの?」カツヒロは不思議そうに尋ねると。
「もう、どこでもいいわ。とにかく、試験の事を忘れたいの。」
「そう、なら面白い所を見せてあげるよ。」
「そう、それは楽しみね。」
カツヒロは君津の実家をさとみに見せた。両親はちょうど不在だったけど、犬のリョウが二人を迎えてくれた。実家には、ほんの5分だけ立ち寄ると海ほたるで、飛行機を眺めた。ここからは羽田空港に着陸する飛行機がひっきりなしに飛んでいる。
「今日の面接、うまくいった?」
「うん。言いたい事は言えたけど。合格したらシカゴで6週間のトレーニングがあるんだって。とても厳しトレーニングだけど、大丈夫?って結構、強く聞かれたから。少し不安になったの。」
「そう。大丈夫だよ。トレーニングは一人だけじゃないから。」
「そうだけど・・・。全て英語でやるわけだし、その間はホテルの4人部屋で他のトレーニング生と共同生活をするんだって。プレッシャーが多き過ぎて、もし、合格したら最後まで脱落せずにやれるの?って考えると怖いの。」
「あの飛行機を見てごらんよ。あの中にも客室乗務員が何人かいて、皆、厳しいトレーニングを卒業してフライトしているんだよ。不安があるのは分かるけど、ここを飛んでいる全ての飛行機の全てのクルーが皆、同じようにトレーニングをパスして来たから乗務できる。トレーニングは厳しいだろうけど、逃げちゃダメなんだ。」
カツヒロは、そう言った後、さとみを抱き寄せ「大丈夫だよ。自信を持ったら必ず出来るから」と耳元でささやいた。さとみは少し驚いたようにも見えたが、ロンドンでも別れ際にハグはしていたから、それより少しスキンシップが前進した。
二人はその後、横浜の山下公園を散歩し、中華街で飲茶を食べた。19時から冨田靖子と椎名桔平が主演の映画「ジュンブライド」を見たので、すでに21時になっていた。
「さとみ、ごめんね。面接で疲れているのに遅くまで、連れまわしてしまって。」カツヒロはもう少し早い時間に彼女を返してあげるべきだったかもと反省していた。
だけど、さとみは案外けろっとしていて「ううん、いいのよ。今日はたくさんデートできたから本当に楽しかったの。」
「本当に。」
「うん。本当よ。ずっと会いたかったから。」
カツヒロはその一言がとても嬉しかった。さとみの本心かどうかは、わからなかったけど、きっと嘘はない。ずっと楽しそうにしていたから。
二人はさとみの自宅のある北区王子までドライブを続けた。そして、さとみが車から降りる前にカツヒロはお別れのキスをした。これが二人にとっての初めてのキスだった。
つづく。
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