第11話「定期券と痛い洗礼」

ホームステイ先に着いて2日目の朝。

昨晩、ぐっすりと眠れたおかげで随分と体が楽になったカツヒロは朝食を食べる事にした。

昨日、言われた通りにトースターで食パンを2枚焼ながら、同時にお湯を沸かしてコーヒーを作った。冷蔵庫の中のヨーグルトと果物は自由に食べて良いとの事だったので、そこからリンゴとバナナひとつずつ取り出し、出来上がったトーストにはバターとイチゴジャムをたっぷり塗った。

「さーて、今日は何をしようかな?」

片手でトーストをかじり、コーヒーに少しだけミルクを加えて、それを飲もうとした時、ホストファザーのレスさんがやって来た。

「おはよう、カツヒロ。昨日は良く眠れたかい?」

「おはよう、レスさん。はい、たくさん寝ました。とても、疲れていたので。」

「それは、良かった。日本からの長旅で、さぞ疲れていたんだろうけど、君は若いから一晩寝れば回復するのも早いよね。」

レスの顔は満足そうだった。

「ところで、今日は何処かへ出かける予定はあるかい?」

「いいえ、特にありません。先ずは荷物を整理して、その後、時間があれば家の近くを散歩して見ようと思っています。」

「そう、それなら私と一緒にイースターのミサに行ってみないか?」

カツヒロはキリスト教徒ではないが、面白そうだと思ってOKした。

「そうだ、ついでに電車の最寄駅を案内してあげるから、場所の確認と定期券の購入を済ませておこう。」とレスは付け加えた。

・・・。

カツヒロが通学する予定のInternational College of Englishと言う語学学校は、頭文字のICEをとって、通称アイスと呼ばれている。場所はシテイ内の東側、ビクトリア州議事堂の直ぐ近くで、最寄駅はParliament Station(パーラメント/ビクトリア州議堂駅)だ。

ホームステイ先からは途中1回乗換が必要で、ドアtoドアで約30分程かかるらしい。カツヒロは、明日、下見を兼ねて実際に学校まで往復して見ようと思った。

メルボルン トラム

翌日、カツヒロは電車でシテイに繰り出した。

先ずはメルボルンのシンボル的な存在といえるフリンダース・ストリート駅(Flinders Street Station)。学校のあるパーラメント駅にはここで一度、乗り換える必要がある。今日は充分に時間があるから、先に街の中心部を見る事にした。

近くにあった土産物店で、大きめの市内地図とポストカードを買った。とりあえず、家にも戻ったら両親と仲の良かった友達にポストカードとエアメールを送ろう。

無事についたら、コレクトコールで良いから電話するように母親に言われていたけど、昨晩、実家に電話をしたら留守だった。

エアメール

メルボルンは電車以外にトラムも中心部から郊外まで走っている。路線網はとても充実しているから、トラムで通勤、通学する者も多くいる。

「よーっし、トラムにも乗ってみよう。」

カツヒロは、見よう真似ようでトラムに乗り、南半球最大のデパート呼ばれるMyerとDavid John'sを覗いてみた。確かに周りのお店より店舗は大きいけど、日本のデパートと比べるとフロアの数も少ないし、デパ地下のようなお銘菓をそろえた贈答品や人気のお惣菜とか食品売り場もない。

あるのは化粧品や衣料品、リビングや寝室、旅行関連商品など、少し想像していたものと異なった。

街中を歩いていると、時々、日本語の看板もあった。

へー海外なのに日本食レストランもあるんだ。他にも韓国料理やタイ料理、インド料理、そして中華街もあった。メルボルンは案外、アジアからの移民が多く住んでいると肌で感じ取った。

一通りぶらぶらと歩いた後、最後に学校の下見を済ませた。帰りは折角だから電車でなくトラムで帰る事にした。レスさんが、時間が余分にかかるけどトラムでシテイから帰る事も出来ると言っていた。

だから、大丈夫だろうと思てトラムでホームステイに戻る事にした。直接レスさんの家のあるダンデノング・ロード(Dandenong Road)行きでなく、セント・キルダビーチ(St. Kilda Beach)行きだった。

残念ながら、カツヒロは終点で降ろされるまで、途中でトラムの乗換が必要な事に気づかなかった。だから降りた停留所で、再びシテイ行きのトラムを待っていると、急に大きな奇声をあげる車が近づいて来た。

「バッシ」、少し鈍い音がカツヒロを襲った。

一瞬何が起きたのか、記憶が無くなる程の痛みが左目に走った。ガクッと膝を曲げ、前かがみになると、少しずつ肌の感覚がもどってきた。

顔の周りが少し生温かい。やっとの思いで、右手で顔を触ると黄色い液体とネバネバした嫌な匂いが立ち込めた。

カツヒロはクレージーな若者達が運転する車から生卵を数発ぶつけられ、そのうちの一つが見事に左目に命中した。幸い失明はしなかったが、しばらく痛みで左目は開けられなかった。

ようやく、自分に何が起こったのかを、理解した時、悔しさや悲しさよりも、不安や恐れの感情が沸き起こって来た。

「おい、アジア人の若造、えらそうな顔して、メルボルンの街中を歩きまわるんじゃねーよ。お前ら目障りなんだよ。」

少年たちが、どんな言葉を投げつけたのかは分からなかったが、移民に対して敵意を持った人間も、一定数存在している事を身をもって知るきっかけとなった。

若者たちの車が過ぎ去った後、同じ停留所にいたおばあさんが、カツヒロにハンカチを貸してくれた。

「ごめんなさい。あなたは何も悪くないのに、近頃の若者はちょっとおかしいから、オーストラリア人の全てが、彼らと一緒だと思わないでちょうだい。」と言って優しく背中をさすってくれた。

海外で生活する事が、楽しい事だけでないと言う「痛い洗礼」だった。


つづく。

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