三谷 宏治(2015)『戦略読書』の感想

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参考URL:https://www.amazon.co.jp/dp/B019DFSTIM/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_FyujFb7DHYPNZ

本書を読んで感銘を受けたのは、次の2点である。第一に、読書のポートフォリオを分かりやすく示している点、第二に、深い本の読み方を具体例とともに示している点である。

この具体性という点が、非常に助かった。今まで効率的に本を読む方法は、ある程度体感的に理解していたが、本書を読むことで非常に整理された。この本の教えを、実行してみようと思い、久々にレビューを書いてみた。

おそらく、この本が向いているのは、次のようなタイプの人だ。

対象者:
・本をたくさん読むけど、いまいち身についている感じがしない人
・読書を通じて自分を改造したい人

本書が提案する4つのポートフォリオ

「本は最初から最後まで全部読む必要はない」「本の内容を批判的に検討しながら読書しよう」ということは、一般的な読書術でよく言われる。本書のオリジナリティは、そのやり方が、4つのポートフォリオというかたちで具体的かつ網羅的に示されている点だ。

(1)ビジネス基礎
・目的 :ビジネスマンとしての基礎を身に着ける
・種類 :ビジネスの古典的名作(ポーター、コトラー等々)
・読書方法:熟読(読書会がよい)
・記録方法:その時々の疑問や感想を書き込む

(2)ビジネス応用
・目的 :ビジネス基礎の肉付けできるような、新しい内容を効率よく集める。特にファクト
・種類 :企業本、ノウハウ本、フレームワーク本
※ノウハウやフレームワークは1冊あたり1つに絞って身に着ける。それ以上は使いこなせない
・読書方法:粗読みか斜め読み。「序章と図だけ読む」作戦も有効
・記録方法:抽出部分をあとで検索しやすいよう書き出すか、PDF化して文字認識

(3)非ビジネス基礎
・目的 :楽しむこと。そして何か本質をひとつ掴み、ビジネスにも活かす
・種類  :SF/科学/歴史/プロフェッショナル等、興味ある本
・読書方法:斜め読みで十分。本質をつかむうえで読書会もOK
・記録方法:得た本質を忘れたくなければ、どこかにメモ!

(4)非ビジネス新奇
・目的 :自分の興味の領域を広げるため、世の中の新規の知識・視点や、思考法に触れる
・種類  :ヒット本やリベラルアーツ
・読書方法:斜め読みして、興味が出れば熟読を試みる
・記録方法:気に入らなかったらサヨウナラ。気に入ったら本棚に新ジャンルのコーナーをつくる

本書が提案する深い読み方とは

著書は、文章を読むときは、以下の5つの原則が大事だいうことを実例とともに示す。

・視点1:時系列での対比
過去の関連記事と比較して読みすることで、本質的な経営課題が見える。現在の記事の内容は目先の業績に踊らされている。
・視点2:反常識
成功の裏には必ず半常識がある。成功事例を読むときは、自分の中にある「常識」と照らしながら、当たり前を覆すものを見つける
・視点3:徹底に数字にこだわる
記事の中で数字を見かけたら、足し算・引き算・ときどき割り算をし、「差」と「重み」を評価する
・視点4:気になったことは人より「一段深く」まで調べる
目安は「キーワード検索20ページ」「wikipediaは英語版も読む」「出典元の記事、論文も読む」こと。それが人としての面白みにつながる…?
・視点5:得たものは「抽象化」して記憶する
「へ~」で終わらせない。読んだ内容を整理し、他の情報と組み合わせて解釈し、そこから結論を導く。日々訓練することで、思考力が磨かれていく

特に私にとっては、視点2,3が有益だった。著者は、YKKの戦略転換を紹介した日経ビジネスの記事を例として紹介する。そして、記事中の大雑把な数字から、YKKの市場占有率、競合と価格比を推算し、戦略転換がYKKにとって難易の高い挑戦であると評価して見せる。私は同じ記事を読んで、「YKKの製品単価は高い」という以上のことを考えなかったので、同じ記事からここまで解像度高く推測ができることに驚いた。


本書全体を通しての主張は、「本を読むことを通じて、様々なテーマに対し、『私は…と考える。なぜならば、…という理由があるからだ』と言えるように、考え発信する訓練を日々積んでいきなさい」というものである。

こうした考えぬく態度は、多くの人が大学でのアカデミックな訓練の中で触れるはずだが、それを高め、実践できる状態であり続けるのはとても難しい。ところが、どうやら著者はそれが自然体でできてしまうらしい。つくづくコンサルタントとはすごい職業であると感じる。私は、たったこれだけの文章を書くのにも、大変てこずってしまったのだから。



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