男の虚線

末素生児 自分の分身を風葬する。 1988〜

男の虚線

末素生児 自分の分身を風葬する。 1988〜

最近の記事

書を捨てよ、街を出よう

川蝉というバンドのワガユージさんに憧れ、川蝉のレコ発でクリープハイプが前座をつとめ、尾崎世界観が打ち上げか何かでワガさんに寺山修司を薦め、それは寺山の映画を薦めたつもりだったらしいがワガさんが勘違いして本(エッセイ等)の方だと思ったらしくて、それで寺山の本の感想を書いたワガさんのブログが面白かったため16歳のぼくは本を読み始めた。 たしか最初に読んだ本が寺山修司『家出のすすめ』で、次に読んだ本が『書を捨てよ、街へ出よう』だった。これ読んでから、長年かけてその意味を理解すること

    • 『鬱塔』0.23487

      虚船(きょせん)から降りた時ぼくの髪は白くなっていた、と気付くまでには30年ほどかかるのだが、とにもかくにも、逆すじの道が一度終わって、時が巡行することになった。髪の白いぼくはまだ生まれていないが、お父酸が、船から降りる。護くんがそれを見つめる。護くんにはまだ知識が無いので、虚船(うつろぶね)のことをキョセンと言ってしまった。しかし、まだ生まれていないぼくもこれからぼくを産む父も、それで納得がいった。たぶん1960年代のことだった。 島に帰った時親父は、ゲバ棒ではなくバールを

      • タムラ酸

        ¥3,000
        • 『落選第一作』⑯

          2020年9月16日 「昼飯、何にします?」 漆黒のフェラーリのハンドルを握りながらタケシが言った。 「あんかけコーメンにしよう」 「あんかけコーメン? それどこにあるんすか?」 「今から調べるけど岐阜の近くにあるんじゃないかなあ」 スマホで調べて見たけどヒットしなかった。昔高速道路のサービスエリアで食べたことがあった、コーメンとあんかけパスタが合体したような料理で、さほど美味しくなかったのだが、10年以上前、貧乏な50代の音楽家と、貧乏な30代の会社員と、そろそろアパート

          落第作⑧

          2019年冬 こんな言い訳はあまりにみっともないのだが、色々な要因によって群像新人文学賞に応募する原稿のラストはやけくそな感じになった。 しかし後々思い返すに、冒頭から、剽窃というものは無いにしてもあまりに他人の力を借りた内容であったし、どちらにしても無理だな、と思った。 ぼくは運動家でありたい。 目の前にいる人間とちゃんと関わらずして、何が人生か、と思った。 大阪で一番美味いかもしれないラーメン屋に貞造くんを連れていくと、その時は営業していなかった。 特に何もせず寮まで帰

          金田一酸

          2010年11月22日に模索舎へ行き、演者が自分の歌の歌詞を忘れてぼくが途中途中教える、ということをやった後、金田一安民さんがぼくに向いて「あなたも何かやられているんですか」と言ってきて、陶板を塔の形にその中を鉄パイプで打ち付けたり、陶板の上にアルミホイルをしいて、そこに文字を書く音をマイクで拾ってもらって演奏したり……みたいな話をしたら、電話番号を交換しましょうと言われ、交換した。 その後ぼくは古淵という街に移り住んだ。古淵は昔は新淵だったらしい。 鬱陶を草原に置く儀式をや

          鉄の城①

          大きい蛙はあまり見映えがよくないけれど、焼いて食べると旨い。 最初そのままでいけていたのだが、そのうち、蛙から油を抽出して別の蛙にかけて焼く、という方法でもって食すようになった。食べないと歩けない。 想像と違ったのは、こうやって文明から離れ森の中を自給自足していくうちに肉体が逞しくなって、そのうち自分と同じくらいであったり自分より大きい獣と出会した時に、気付いたらそういった野生の獣を打ち倒すほどの力を持っていて、それを倒し、食す、のだと思っていたのだが、体力はついたのだろうが

          サークル

          欲望会議、とノートに書いた。 その後何も思い付かずに、そのページを破って捨てた。 捨てられたそのクシャ丸、つまりクシャクシャに丸められたそれが非常に愛おしいと思い、ゴミ箱から拾って、食べてみようとしたが、紙というのは矢張り不味い。吐き気を催して、そこで吐くことができたのであれば映画的であるな、と頭の中で思ったことによって、吐くことが出来ず、ただ胃液が微妙な場所まで上がり、また下がっただけであった。 ということで、内宇宙にて遊ぶ、そういう形容が合うような創作は微塵もできず、舞踏

          落第作⑦

          死のうかどうか、人を苦しめ法外の金を得て惨めな死に様を世間に晒そうか、などと考え、そしていざ極限の精神状態になってしまうと、やっぱり公園で寝たりしていた疲労の蓄積が顕になってきた。そんな中、ベンチに座っていると目の前で老人が倒れたので、「大丈夫ですか」と声をかけて、ダメそうなら手を貸そうと思ったが、「大丈夫です」と返され、彼は1人で普通に起き上がった。そのままぼくの隣に腰掛けて、80歳前後と思しきその老人は、最近ソフトバンクでスマホを買ったのだけれどやっぱりパソコンと比べると

          落第作⑥

          2020年7月下旬 家出三連目 家から近い少し大きめの公園のベンチに座った。この公園に特別な思い入れがあるわけではなく、こどもらが遊べるようなスペースと、老人や日常に疲れた人などが寛ぐために複数のベンチが設えられた(とぼくが思い込んでる)スペースとが仕切られていて、物思いに耽るときにはここに来ることが多かった。 愛に捨てられて、正直に言って、色々と悪いこと、つまり加害意識みたいなものが頭を巡ったのだが、完全に捨てられた、と気付いたとき、最後の最後で善意が残った。 ぼくはそん

          『落選第一作』⑤

          老人たちのラジオ体操によって起こされたぼくのからだは汗でべとべとだったが、気持ちは爽やかだった。まだ時間は早かったが、愛に〈置き引きにあったら色々どうでもよくなって意地を張る気もなくなりました。兎にも角にも一度謝りたいので帰らせてください〉とメッセージを送った。その時スマホのバッテリーが2パーセントだったので、〈バッテリー2パーなので家の近くグルグルしてます!〉と付け足して、既読がつかないままスマホは眠った。 文字通りグルグルして、家の近所のローソンに入って、出ると、赤子を

          『落選第一作』⑤

          落第作④

          HUNTER × HUNTERの大ファンであるぼくにとってぼくの親父はジンだった。 なのでジンの言う、「人に謝るときは次にどうするかを言うんだぞ」という言葉を自分の信条としていたため、今回の愛との喧嘩に関して言っても、今後どうするかを明確にしない限り帰るわけにはいかない、と思っていたのだが、気持ちの良い風に吹かれながら野外で寝ていたら仮睡者狙いの被害にあって、全力疾走で完全敗北したところ、色々なもやもやが払われたような気持ちになり、この際、土下座でもなんでもして1度リセット。

          落第作③

          2019年に飯場に入る少し以前のことであった。 とりあえず公園にでも寝て、なんとかその日を過ごそうとするとまあまあ大ぶりの雨が降ってきた。屋根のある公園を探そう、と自転車を走らせ、何件かの公園をまわってみたが、近頃の公園には雨が無いらしいし、ベンチに関して言っても、一つのベンチの真中に仕切りが設えられていて、寝れない構造になっている。ホームレス締め出し作戦、とも取れるし、コロナ以前からのソーシャルディスタンス推進、とも取れる。そんなこんなで3時間ほど公園サーフィンをしてみたが

          落第作②

          家出終盤。7月後半。 イオンの書店で吉村萬壱さんの『回遊人』を立ち読み。これも家出をするところから始まる話で、こちらは異次元に行くが、共感できるところがあり読み易い。こうやって長時間立ち読みする人間のために出版業界が廃れていくことを思うと歯がゆい、いや、しんどいが、他者を思いやれるような心の余裕も金銭的な余裕もぼくにはなかった。 〈一時的なプチ家出とは言え家族を捨てて出てきたのである。何かを掴んで帰らなければ、申し開き一つ出来ない。〉 吉村萬壱『回遊人』 ひどく心に染み

          落第作①

          2020年5月 友人に勧められて、いや、勧められたというほどでもなくて、こんなのあるよ、という感じで、阿波しらさぎ文学賞というものをLINEにて教えてもらい、リンク先に飛び、概要を見たところ、ぼくの場合は吉村萬壱さんのことも小山田浩子さんのことも阿波しらさぎ文学賞のことも知らなかったことなどもあり、「地域ゆかりのものを登場させなきゃいけない時点でつら……無理だろ」などと思って、教えてくれた友人に、〈徳島には思い入れが無いからきびしいかな〉的な返信をしたのだったが、 その後数日

          遠くの朝を夢見てる

          1995 自分が死んだ夢を見た。死んだ自分が、母と妹が幸せに暮らすのを家の外から眺めていた。この時7歳なのでぼくのイメージは幼稚で、見事に漫画の幽霊になっていた。その部屋には父も義父もいなかった。 1995 スーツを着た男たちがベルトコンベアに並んで脚が切断されていく夢を見た。男というのはそういうものなのだと思った。 母と娘の関係というのは特別なもので母と息子というのは母と娘とは同じ関係を築けない、ということに対して早くも嫉妬したのだろうか。 というようなことを

          遠くの朝を夢見てる