落第作⑧
2019年冬
こんな言い訳はあまりにみっともないのだが、色々な要因によって群像新人文学賞に応募する原稿のラストはやけくそな感じになった。
しかし後々思い返すに、冒頭から、剽窃というものは無いにしてもあまりに他人の力を借りた内容であったし、どちらにしても無理だな、と思った。
ぼくは運動家でありたい。
目の前にいる人間とちゃんと関わらずして、何が人生か、と思った。
大阪で一番美味いかもしれないラーメン屋に貞造くんを連れていくと、その時は営業していなかった。
特に何もせず寮まで帰ることになり、2人で自転車を漕いだが、十三の歩道で後ろの貞造くんの気配が無くなった。振り返ると、貞造くんと同じくらい太った若い女性と対面している。その女性の隣には爪楊枝みたいな男が立っている。引き返してその人たちのところまで戻ると、太った小さい女性が、「え?自転車でぶつかっといてこっちのせいにするわけ?」と吠えている。話を聞いているとどうやら、ぶつかったというのは体にぶつかったのではなく、女の持っていた鞄にぶつかったらしく、その鞄はヴィトンで、なんのために付いているのかよくわからないヴィトンの鞄に垂れ下がっている紐を切ってしまったらしかった。
思い出したら馬鹿らしくなってきた。
ともかくぼくが仲裁して、とりあえず連絡先を交換させてから解散して、変な名前の橋を渡って寮の近くの公園まで来て、貞造くんとミーティングすることになり、ぼくはその手の知識や情報はまったく持ち合わせていなかったのだが、自分なりの考えや案などを提示してみた。女は新品を買ってほしいと言ってきたがなんとかして負担を抑える方法は無いか考え、発言してみたのだが、貞造くんがあまりに何も考えないので段々と苛苛してきたし、挙句の果てには、「成功したらお金払うんで1人でなんとかしてくれませんか」と言ってきた。ぼくは常々金は欲しているが、普段から何も考えてない奴が、トラブルを起こした時にさえ何も考えたくない姿勢に腹が立ったのだが、貞造くんの脚や顎がブルブル震えていて、彼は彼なりに考えようとしながらも本当に何も考えつかないのだろうか、などと思った。しかし、ぼくの推測は大分甘かったようだった。気をつかったぼくが「じゃあまあ、焦らずに数日考えてみよう。向こうだって時間が経てばいくらか怒りが収まるかもしれない」と言ってみると、ブルブルしていた脚がしゃきんと止まり、彼は寮とは逆方向に向き直って、もう一度橋を渡ってパチンコ屋に行った。
貞造……低造。