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永久の約束



そこには二人だけの歌が記されていた...

刻まれた時間の溝には、深い愛の語らいで満たされ、時間が結晶したかのような澄んだ響きを湛えている...

それは時間の雨によって削り出されたモニュメントのように聳え立ち、天地還流のヴァイブレーションは、大地を貫きながら伏流水となって湧き出し、小さな泉をつくりだしていた。

誰言うともなく古来より「時の泉」と呼ばれているここは時間の十字路… そして天地の交わる巡礼のオアシス... 星の軌道といのちの軌道とが交差する場所… 誰もがその旅の途上で通る最後の逗留地だった。

旅人はここで巡礼の疲れを癒し、記憶の粒子を躍らせて湧き上がる水に心を溶かし、新たな力を得てまた明日の星へと旅立ってゆく...

夜を映した泉に明日を訊ね… 星を映した水を飲み干し… このひと時の今を歓びに変え、今宵ひと夜の夢を見る...

「天の時」と「地の時」の還流によってもたらされたエネルギーは、旅人の中に緩やかな渦を作り出し、産み出された磁力によってえにしの糸は太古の記憶に染められ縒り合されてゆく...

夢の時間によって歌はよみがえり、互いに響き合いながらえにしの糸は結ばれ、往くべき未来に向けて旅人を誘ってゆく...

記憶の粒子を纏った絃はさらなる倍音に輝き、忘れていた約束を思い出してゆく...その歌に歌われていたのは遠い遠い約束の物語りだった...

えにしの糸と時間の糸とが結ばれ、縒り合されて今生の物語りが解き明かされてゆく...記憶の粒子によって染められた命の絃は。新たな言葉となって物語は演じられてゆく...

ここは時間の泉...記憶のオアシス...ひと夜の夢に染められ新たな旅はまた始まる… あの星をめざして...それは長らく忘れていた遥かなる故郷への帰還の旅でもあった。

新たな時間の色を纏った「命の絃」は、天地とともに在る悦びを歌い、歓喜に包まれてひとは自らのなかに愛の伴侶を見い出してゆく...歓びのなかで記憶は昇華され、永遠の星座として天空を彩ってゆく...
いのちの曼陀羅のように・・・

それは光と影という幻影を離れた命そのものの姿となって輝いている...
自我という囚われから解き放たれた内なる光の振動だけで満たされた歌がそこにはあった...

それは時間の糸が織り成す空間と、記憶のスペクトラムが描き出す振動とが互いに解けあい、調和の韻律に華開く真我の顕現でもあった。

夢のなかで演じられた物語は、旅人のなかに湧き出る泉となった...
過ぎ去りし時のなかに我はなく、明日の彼方に私はいない… この今を離れて我はなく、いま此処の頭上に明日は輝いている...もはや私が誰であるかを問う必要もなく、ただ歌とともに在ればいい...

滔滔と沸き出る歌の韻律は、ほんとうの自分の姿を知るためにもう一人の私と交わした約束の歌であった...絃は色であり… 歌であり、自身の姿だった...旅人はこれが約束のための旅だったことを想い出したのだった… 自身の伴侶はいつも傍にいてくれた...それは本当の私との邂逅でもあった...

いま旅人は自身の泉に映るひかりを抱いて最後の旅を誓った...

旅人はその最後の旅路において、自らの描いた命のタペストリーを振り返るのかもしれない… 永久の約束のしるしとして...

  ...............

今宵も誰かの夢のなかであの歌が流れている...
約束の時を想い出すために...




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