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明日を待つ男


男は遠くの彼方に何かを感じていた...
薄明のひかりのなかに彼は昨夜の出来事を重ねていたのだった。

寝入り端の意識のなかで、胸元辺りに浮遊する不思議な光を彼は見ていた...眠りへと溶けてゆく意識が、小さな薄片となって無意識の海に漂うなかで、それは蝶のように舞い、七色のヴェールを纏って揺れていた...
変容する色彩とその浮遊感に、薄れゆく意識の彼は、精霊の息づかいを肌に感じながらも、目を開ければ消えてしまうことをも知っていた...

そのひかりに、ある種の人格のような佇まいを感じ、畏れとともに深い親密さをも感じ、しばらくその感覚を楽しんでいた。
霊妙なひかりの緩やかな羽ばたきは、何処かで逢ったことがある… というおぼろげな記憶を呼び起こしていた...その緩やかな動きのなかに、彼はある種の言葉のようなものを感じ、「ありがとう…  ありがとう… 」と礼をのべて静かに眠りについたのだった。

目覚めた彼は、昨夜のひかりの舞いの残り香を胸に感じながら夜明けの空を見つめていた... 夢とは明らかに違う昨夜の出来事は、精霊との約束なのだと彼は感じていた。彼は眠りに落ちたのではなく、未来へと還っていたのだという強い確信があった。

時間は過去から未来へと流れるものではなく、未来からの風のようなものと彼は思っていた。決して姿を見せることのない明日という幻にもかかわらず、その呼び声を彼は聴いていたのかもしれない...

太陽からの風が地球の大気へと流れ込んでオーロラが舞うように、時間の風が生命のエネルギーと触れ合った境界に、「今」という時間の姿が現れるのだとあのひかりから教えられたことを思い出していた。

彼方からの呼び声に風を感じながら、彼は胸の中に躍るひかりの羽ばたきを同時に観ていた...それは時間のオーロラのようでもあり、それはまた精霊が残していった贈りものだったのだと彼は気付いたのだった...

火山灰のように降り積もった過去を背中に映しながらも、おぼろげな浮遊感とともに、「時は変わった… 」というある種確信めいたものをも彼は同時に感じていた...もう過去に囚われることのない時が来たのだという思いが、肩に喰い込む重荷が解かれたような脱力感のなかに蘇ってくるのを噛みしめていた...

放心したように崩れ落ちる身体を支えていたのは、彼の瞳に映るあのオーロラだった...未来への約束をこの手に感じながら、彼は精霊とともにいま此処にいることを感じはじめていたのだった...

明日が歌う呼び声のなかに、彼は精霊とともに旅した未来の記憶を思い出していたのかもしれない…  新たな世界への予感とともに...



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